ACT.16 異端の教団(Ⅱ)


▽▲▽



「し、師匠。今回の件なのですが――」


「あぁ、任せる」


 何処となく、よそよそしい、居心地の悪い空気が流れる。

 三年ぶりに再会した師弟の間は、あまりうまくはいっていなかった。

 ――そう、三年ぶりだ。

 ライが粛清騎士を拝命した日を最後に、二人は一切顔を合わせてはいなかった。

 あの日を境に、アスランはライを避けるようになったし、ライはうしろめたさを感じて自分から会いに行くのをためらっていた。

 その結果、三年という空白が生じてしまったのだ。


「それでは、僕は正面から入り込むので、師匠は先行隊が掴んだ裏の出口から侵入してくれると助かります」


「――あぁ」


 返事もどこか上の空で、コミュニケーションもうまく取れていないのが現状である。

 それに、ライはどこか歯がゆく思った。


「話はそれで終わりか。私はもう行く。先に行って現場を下見しておきたいのでな」


 そういって踵を返して、ライに背を向けるアスラン。


「――し、師匠!」


 ライは、その後ろ姿に咄嗟に声を掛ける。

 ライには、いいたいことが多くあった。

 どうして、自分を避けるのか。どうして、あの日から何も話してくれなくなったのか。

 だが、こうして呼び止めてしまったものの、いざ言葉にしようとすると、なかなかソレが出てこない。

 どう切り出せばいい、どう話せばいい。

 三年という空白の月日は、二人の間から、気軽に話ができる空気すら奪ってしまった。


「――いえ、どうかお気を付けて」


 結局、ライはそういってアスランを送り出すことしかできなかった。



▽▲▽



 そして、洞窟に掘られた混沌教団の拠点で、ライは剣を振るう今につながる。

 血霧の中を奥へ進むライ。

 入り組んでいる内部を、隈なく虱潰しに調べ、残存する邪教徒を殺していく。

 そんな中、ライはある扉を開く。


『なんだここは?』


 そこは、どこか禍々しい雰囲気を纏っていた他の部屋と違い、柔らかな雰囲気の部屋であった。

 床には厚手の布が敷かれ、木彫りのおもちゃが数個、あちらこちらに散らばっている。

 その雰囲気はさながら――。


『子供部屋?』


 そう、しいて言うならまさしく子供部屋だ。

 邪悪な教壇に似つかわしくない、そんな部屋にライは困惑する。

 だが、そんな中で一つの理由が思い浮かんだ。


『もしかして、子供が監禁されているのか?』


 混沌教団は、各地で禁止された子供の売買もやっていると聞く。

 そして、その子供たちを生贄に、怪しい儀式をしているとも。

 もしそうなら、助けなければならない。


『誰か、居たら返事をしてくれ! 僕は敵じゃない、助けに来たんだ!!』


 そう部屋の中で叫ぶと、部屋のどこかで、何かが動く気配がした。

 急いで、その方へ向かうライ。

 そこには、テーブルクロスの敷かれた大きめのテーブルがあった。

 そのテーブルクロスをライは、優しく引き剥がす。


「っ!?」


 そのテーブルの下には、6人の子供たちが隠れていた。


『あぁ、よかった。無事だったか』


 そう安心したのもつかの間。

 子供たちの怯え切ったその眼を見て、ライは思い出す。

  今の自分が、血に濡れた厳めしい黒騎士の格好をしているということに。

 この格好だと、怯えられても仕方ない。

 そう内心で苦笑して、ライは、ヘルムを外そうと手をかけたその時だった。


 かしゃん


 そんな音をたてて、ナニカがライの身体にぶつかって砕けた。


『――。』


 それは、この季節には似つかわしくない、氷の礫だった。

 そして、6人の子供たちの中の年長らしき少年が、ライに向って指をさしていた。

 ――指先は、結露で濡れていた。


『――あぁ、そうか』


 そういって、ライは一人で納得した。

 聖女の言っていたことは、こういうことかと。


『それなら、ひとり足りないな』






 そういってライは、ヘルムにかけていた手を下ろし、かわりに剣の柄に手を当てた――。






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