ACT.11 狼怪の転生者(Ⅱ)


▽▲▽



「いやー、それにしてもアスランさんとこのお弟子さんが、こんなにかわいい子だとは思わなかったなー!」


「いやその、かわいいといわれるのは、個人的にちょっと」


「えー、男なんてすぐかわいくなくなっちゃうんだから、満喫しようよかわいい今を!」


 ライとレオーネの二人を荷台に隠し、行商人に擬態した馬車は山道を進む。

 早朝にベネトナシュを出立した一行は、ベネトナシュの東にある山道――貴重な交易路の一つを走っていた。

 出立しておよそ数時間、レオーネの止らない質問攻めハイテンショントークの相手をし続けたライが、若干うんざりしてきた頃、御者を務めていたアルフォンソが声を上げる。


「おい、レオーネ。馬鹿話もいいが、そろそろ件の地点に差し掛かる。今回の任務の準備と確認をしておけ」


「はいはーい、っとまぁ私たちもう鎧着て準備はできているから、軽く状況確認だけしましょうか」


 そういってレオーネは、ライに向き直り、彼に今回の任務の確認を促す。


「はい、今回の任務は聖女の神託で確認された転生者ササキ・カズマの討伐です」


 ライ自身も、少し緊張したまじめな面持ちで答える。


「神託で指定された場所が、この山道。そしてここで3日ほど前から消息を絶つ行商人が多いことから、転生者がここに潜伏しなにかをして居る可能性が高い――ということですね」


「うん、そう。襲ってるのはただの山賊の可能性もあるけど、今まで神託がはずれたことはないから、どちらにしろなんかかかわりはありそうよね。襲撃者の扱いは、どうするんだっけ?」


「それが転生者とかかわりが無いのなら、無力化。少しでもかかわりがある可能性があるのならば、異端として粛清」


「よし、よくわかってる。一応確認だけど、誰かの命をこれからライ君は奪うことになるのだけれど、そこに躊躇いはある?」


 にっこり笑ったまま、レオーネは優しくライに問う。

 ――そう、ここから行うのはいわば殺人だ。

 相手がどんなだろうと、人の命というのは重い。

 その重さは、背負った人間の人生を蝕み変えてしまうほどの影響を及ぼす。

 だから、最終確認を込めて、レオーネはライに言ったのだ。

 覚悟は、あるのかと。


「――はっ」


 その問いを、聞いたライはその表情を一変させた。

 小さく吐き捨てた彼は、暗い笑みを浮かべる。


「躊躇いなんてないです、むしろ嬉しくてしかたない・・・・・・・・・です」


「うれしい?」


 そう問いかえすレオーネに、ライは声を震わせながら――内なる激情を抑え込みながら答える。


「5年、5年です。奴等、転生者共を殺したくて殺したくて、それだけを心の支えに生きてきました。――ようやく、それが叶う」


 ライは笑った。

 それは、見るものが見れば悲鳴を上げたであろう、憎悪の笑みであった。

 ライのその笑みを見たレオーネもまた――笑った。


「そっか、それはよかった――この期に及んで、躊躇うようなら・・・・・・・私がここで・・・・・・切り捨てていたよ・・・・・・・・


 その言葉を聞いて、ライの内でこの光景を見ていた俺は怖気がした。

 読心の異能を持つ俺は、相手の考えていることがわかる。

 だからこそ、わかってしまった。

 この女、レオーネ・ゴドウェンは今、躊躇いを覚えているような挙動を見せたら、本気でライを殺そうとしていた。

 今のいままで可愛がっていたライを、笑顔で、躊躇いなく。

 だからこそ、俺は理解した。

 ――あぁ、この女もライと同じ狂気の淵にいるんだなと。


「――はぁ」


 外で馬の手綱を握るアルフォンソは、それを聞いてほっと胸をなでおろした。

 もしもの時は、割って入ってライを守ろうとしていたため、無事に終わって安心していた。


 しかし、その安心もつかの間であった。


 山道右側の斜面を、誰か――いや何かが駆け下りてくるのをアルフォンソは、確認した。

 彼は、馬車を急停止させ荷台の二人に向けて叫ぶ。


「お客様の御来店だ! 仕事の時間だぞ!!」


「了解!!」

 二人はそれぞれの武器を手に、荷台を飛び出し馬車の前に出る。

 そこに斜面を滑り降りてきた、何かがとうとう姿を現す。


「――なんだ、こいつ等は!?」


 その何かは、狼と蜘蛛を足して2で割ったかのような醜悪な化け物の群れであった。



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