120話.勝利、そして……

 精霊王マクスウェルを次元の檻に閉じ込めて、一息ついたクロムはアキナの様子を確認する。

十分すぎるほどのステータス強化を行っているとは言え、相手は剣聖と呼ばれる圧倒的な強者である。

クロムはアキナのことを心配せずにはいられなかった。


「これは…… どうなってるんだ?」


 アキナと剣聖の戦闘音が響いていた方角を見たクロムは、目の前に広がった光景に思わず息を飲む。

目を閉じて佇むたたずむ剣聖を高速移動しながら取り囲むアキナ。

そして次の瞬間、アキナの左手の突きが剣聖を貫いた。


「アキナ!!」


 クロムの声に驚いた表情を浮かべたアキナは、双剣を納剣のうけんするとクロムの元に駆け寄った。


「クロム、見ててくれたの??

 魔導王は?? すごい音がしてたけど……」


「ちゃんと倒したよ、殺しはしてないけどね。

 倒し終えたからアキナの様子をって思ったら、剣聖を倒す場面が見れちゃってびっくりしたよ。

 アキナも強くなったね」


「わたしの強さは……

 全部クロムのおかげだし、クロムのためのものだよ」


「アキナ……」


 クロムとアキナは抱きしめあいながら、お互いの奮闘を称えあい、労いねぎらいあっていた。

先ほどまでの研ぎ澄まされた緊張から一気に開放された二人は、久しぶりにゆったりとした甘い時間を過ごしていた。

しかし、そんな時間は予想もしえない出来事によって終わりを迎えることとなる。


『ガハハハハハ!

 まさかこのような展開になるとはさすがの我も想像しておらなかったわ!!』


 二人の上空に得体のしれない存在が突如として現れたのだ。

そしてその存在は徐々に人の形を成し、そして声を発したのであった。


「お、お前は誰…… だ?」


『カオスの忘れ形見にしては勘が鈍いな。

 我の名はメテオライト、この世界を創造した神だ』


「なっ!!!」


 クロムたちは言葉を失った。

魔導王と剣聖という強者を破った直後に、まさか創造神が目の前に現れる展開など想像できるわけがなかった。

しかしクロムは無言のままいるわけにはいかなかった、創造神がここに現れたことの意味だけは問わなければならない。

声にならない声をなんとか紡ぎつむぎあげて声にしたクロムは問う。


「……そ、創造神よ、なぜに…… ここに…… いる?」


『お前の中よりカオスの神威かむいを検知できているぞ、ならばカオスに尋ねてみよ』


 クロムと同化しているカオスの存在を認識している創造神メテオライトは嘲笑ちょうしょうの表情を浮かべながらカオスに聞くように促したうながした


『ちょっと魔力を借りるね、クロム。

 やあ久しぶりだね、お父様』


 クロムの魔力を使って声を発したカオス。

状況の理解が完全に追いつかなくなっているクロムとアキナは無言のまま、カオスたちの会話に耳を傾けた。


『カオスか、久しいな。

 しかし色々と悪知恵を働かせておったようだな』


『お父様に気付かれないようにするのは骨が折れましたよ。

 でもなんとかここまで準備できました』


 カオスらしくない口調の声が頭の中に直接響く。

その不快感をうやむやにしてしまうほどに、カオスの発言の内容がクロムには引っかかるのだった。


「カオス、どういうことだ?

 お前が俺に望んだことは、この世界の開放だったよな?」


『ちゃんと覚えてくれていて嬉しいよ♪

 ……正確にはこの世界を創造神の手から解放させること、だけどね』


『ほぉ、ついに我に聞こえるようにその言葉を発したか。

 昔からお前が我に反感の意志を持っていたことは気付いておったが、ついにか』


『お父様の創る世界に嫌気がさし……

 そしてこうあって欲しいという理想の光景が頭に浮かんでしまった。

 僕は、いや俺は…… 思うんだ……

 理想というものを描いてしまったからには、その理想を実現させるために命を、己の存在の全てをかける義務があるんじゃないかってね』


『稚拙な考え方だな』


「青臭い言葉であまり認めたくはないけど、俺はお前の考え方好きだわ。

 そしてメテオライト、お前は嫌いだ!」


 言葉と共にクロムより放たれた氷の杭アイスランスは創造神に当たることはなかった。


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