86話.謁見②


聞き覚えのあるその声はダイン王の隣に控えている男が発した言葉であった。

先ほどまでとは別人のような雰囲気を纏うその男はタケルである。


クロムは、タケルの雰囲気の違いに若干の戸惑いを覚えたがそれ以上にタケルの姿を見ることで冷静さを取り戻すのであった。

そして足が軽く沈むレッドカーペットの真ん中をゆっくりと玉座の前まで進んだ。

そのレッドカーペットの両端には数多くの獣人族たちが整列しており、好奇に満ちた視線をクロムたちに向けるのであった。


王座の前までたどり着いたクロムたちは片膝をつき頭を垂れた。

しかしその中で一人だけ違う行動する者がいた、クロムである。

クロムだけは立ったまま獣王ダインを直視して述べるのであった。


「急な謁見のお願いに応じて頂きありがとうございます。

 わたしは転生者のクロムです。

 今回、タケル殿のお願いを受け入れる形で謁見させて頂くことになりましたが、王の御前にて頭を垂れない非礼をお許しください。」


クロムのこの発言を聞いたダイン配下の者たちがザワつき始めた。

クロムの発言は口調こそ丁寧ではあるが、頭を下げることもなく、<会って欲しいというから会いに来てやった>ともとれる内容である。

そして、その発言がダイン王の怒りに触れるのではないかと考えたからである。


空気が凍り付きその場にいる全ての者が固唾かたずを飲む中、ダインが口を開いた。


「そう硬くなる必要はない、ワシが無理を言って招いた立場じゃ。

 よって立場は対等であり、頭を下げる必要はない。

 …… 名乗りが遅れたな、この国の王をやっておるダインじゃ」


周囲の心配と緊張とは裏腹にダイン王は笑顔を浮かべて気さくな態度で返事をするのであった。

ダイン王のその反応に配下の者たちは安堵とともにダイン王らしからぬ下手したてにでていると感じれる対応に困惑もするのだった。


「タケルから聞いた話では、ワシに何か話があるということらしいのじゃが?」


「お伺いしたいことはいくつかございます。

 ですから、タケル殿がダイン王に直接聞いて欲しいとおっしゃっていた内容からお伺いさせてもらいます」


クロムはあくまで王への謁見であるということで口調を崩すことなく、一つづつ尋ねることとしたのである。


「ダイン王はある理由で多くの転生者たちがこの世界に来ることを知っていたと聞きました。

 可能ならなぜかをお聞かせ願えませんか?」


謁見の間が再びザワつき始めた。

この場にいる者のうち、8割近い者がクロムの言っている言葉の意味を理解できなかったからである。


「…… 答えるのは構わぬが…… 

 タケル、お前以外のものを下がらせよ」


ダイン王は難しい表情を浮かべながら、タケルに配下の者たちを下がらせるように指示をする。

タケルは苦笑いをしながら、王の指示を実行するのであった。


「あまり広めることができない内容なのでな、人払いをさせてもらった。

 そしてその質問に答えるのは構わぬが一つ条件がある」


「…… なんでしょうか」


「その敬語をやめよ、ワシらに主従関係はない。

 対等な者同士としての口調で話すこと、対等でない者に聞かせる話ではないのでな」


「…… わかった」


ダイン王はクロムのその返事に満足したのか、腹黒そうな笑みを浮かべて話しはじめるのであった。


「まずワシは昔からある1柱の神ひとはしらのかみ崇拝すうはいしておる」


ダインは幼少の頃より<闘神とうしん>と呼ばれている神、アレスを崇拝していた。

そしてある時よりアレスから天命てんめい賜るたまわるようになり、それに従い行動した結果、獣王と呼ばれる存在まで上り詰めたのだった。

しかし獣王になると天命が一切聞こえなくなり、それ以来ダインは不安と退屈を抱える苦しい日々を過ごすこととなったのであった。


そんなダインの元に久しぶりの天命が届いたのだ。

そしてその内容はダインにとってあまりにも衝撃的のものであった。

多くの神々が転生者を次々にこの世界に送り込むということ。

アレスは転生者を送り込まない代わりにダインにこの情報を伝えることにしたということであった。


そしてその天命は次の言葉で締めくくられていた。

――ダインよ、我を楽しませよ。

――さすればお前の望みかなえてやる。




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