85話.謁見①
不安を抱くクロムの心をよそにタケルが呼び寄せた馬車は馬とは思えない速度をだして、気が付くと王都ヴァンディッシュの前までたどり着くのであった。
「すごい速さの馬車なのに、ほとんど揺れないとかどんな馬車だよ」
「ホントだよね! 実は僕もこのカラクリよくわかってないんだよ。
気になるならダインに直接聞いてみるといいよ」
クロムの疑問にも気さくに答えるタケル。
クロムはそんなタケルを信用したい自分と不安が抑えれない自分と……
ダイン王に謁見するまでには自分の気持ちをどちらかに寄せないといけないなと思うのであった。
そんなクロムの心情などとは関係なく馬車は王都の中を疾走していた。
街の中だからであろうか先ほどまでの異常な速度ではなく、普通の馬が軽く流しているという程度の速度となっていた。
その結果、先ほどまではイマイチよく見えていなかった外の風景がよく見えるようになっていた。
クロムたちの視界には活気の溢れる街並みが映し出されたのであった。
「ねね!! クロム見てよ♪
すごく活気があって楽しそうだよ!!!」
「あぁ、そうだな。
ダイン王と謁見したあとにでも、ゆっくりと観光しような」
クロムの異変を察したアキナは意図的にいつも以上の明るさでクロムに話しかけた。
そんなアキナの気持ちが痛いほど伝わってきたクロムは、そんなアキナの気持ちを大切にするべく気持ちを切り替えるのであった。
そして、そんな二人のことを眺めるカルロとディアナは二人のことを微笑ましく感じながらも警戒をするのは自分たちの役目であると認識するのだった。
「クロムさんたちは賑やかでいいですね。
そろそろ王城に着きますよ」
タケルがそう告げるのとほぼ同じタイミングで馬車がゆっくりと停止した。
馬車の窓からは大きな城が見えていた。
その後、タケルの案内により王城へと入城したクロムたちは謁見の準備をしてくるといい残したタケルに案内された一室にて待つこととなった。
「予想外にアッサリと謁見できてしまったが……
当初の予定通りダイン王の返答次第では戦闘することになる。
しかもその時は……」
「その時はその時だよ、私たちはいつでもクロムの味方なんだから安心して自分の望むがままに行動してくれたらいいよ」
満面の笑みをクロムに返すアキナ。
カルロとディアナも同じ気持ちであると笑顔で主張する。
クロムは頼もしく、優しい仲間たちに恵まれたことに感謝しつつ、謁見の時間までみんなで談笑をして過ごすのであった。
しばらくすると謁見の準備が完了したという連絡を
タケルが迎えにこないことに若干の不安を感じながらも案内に従い謁見の間の前までたどり着くのであった。
「クロム様、ダイン王が中にてお待ちになっております。
くれぐれも粗相の無いようにお願いします」
「わかってますよ」
クロムは係の者の忠告を軽く流して、大きな龍が彫られた鋼の扉を開ける。
その姿からは直前までクロムが隠し持っていた不安を一切感じられないことにカルロは安堵するのであった。
謁見の間は王という絶対的な存在の
大きな龍が彫られた鋼の扉を開け放った先の視界は金と紅で埋められるのである。
窓のない室内は消えぬ蝋燭だけが灯されており、左右に配置された複雑な彫刻が施された柱が遙か奥に見える玉座まで連なっている。
壁には様々な調度品が飾られており、そのどれもが廊下に置かれている物とは比べものにならないほどに豪華であり、それら1つからも王の威光を表現したいことが伝わるのであった。
その光景に若干の戸惑いを覚えたクロムたちは、聞き覚えのある声を聞くこととなった。
「転生者クロム様とその
王の御前までお進みください」
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