84話.タケル

不敵な笑みを浮かべるタケルに対してクロムはただただ不気味さを感じるのみであった。


「ここですんなりと案内よろしくとなるわけないだろ……?

 おまえの存在はただただ不気味なんだよ」


「あはは、そこまではっきり言われるとむしろ好感をもっちゃうね」


不快感と不信感を一切隠そうとしないクロムに対してタケルは笑い飛ばすのであった。


「細かい話はダインから直接してもらいたいからあんまりここで話せることもないんだけど……

 ある程度なら質問に答えるよ?」


不気味でありつつも終始友好的な姿勢を崩さないタケル。

このまま警戒しているのみでは埒があかないため、クロムはいくつかの質問をすることとした。

今現在のタケルはクロムの敵なのかどうか。

ダイン、タケル、ミツルはどんな関係なのか。


タケルはクロムの質問に対して今は答えれない内容が多いとしながらもいくつかに答えるのであった。

少なくとも今は敵ではないこと。

ダインは<とある事情>によって多数の転生者がこの世界に送られてくることを知っていたこと。

そして<ある目的>のために転生者たちを集めていたこと。

タケルとミツルはその集められた転生者であること。

ダインが集めた転生者はタケルが知っている範囲ではこの2人のみであること。

これだけの内容を話すとそれ以外のことは直接ダインから聞いてほしいということを伝えるのであった。


「解決した謎より増えた謎のほうが多い気がするのだが……

 最低限のことはわかったわけだし、ここは素直に従ってダインに謁見するしかないか……」


「うん、私もそう思うわね。

 タケルさんも悪そうな人には見えないし……」


アキナの後押しもあり、クロムはタケルにダインへの橋渡しを頼むこととした。

そのことに安堵したタケルは嬉しそうな笑顔を浮かべるのであった。


「そうだ、信用してもらうために一つ僕に関する情報を伝えておくよ。

 僕を転生させた神についてだ、僕を転生させた神は<ミューズ>。

 音楽や音を司る女神だな。

 そして当然その神に関する加護と技能を持っている、これはクロムさんも一緒だろうけどね」


クロムたち転生者のこの世界での能力の根源は転生させた神からの恩恵である。

それを深く理解しているクロムは力の根源を明かすタケルに驚愕きょうがくするのであった。


「まさか…… それを明かしてくるとはな……」


クロムがためらいながらも自分を転生させた神について話そうとしたとき、タケルはそれを遮るのであった。


「同じレベルの情報を開示して負うリスクを対等にしようとするその考え方は個人的には好きだけど、今はやめとこうよ。

 俺はダインに会ってほしいから少しでも信頼を買うために開示しただけだよ。

 クロムさんはダインを信用できたならその証として今言いかけた言葉の続きを聞かせてほしいな」


クロムは先程からタケルに対する評価が急変し続けているのだった。

最初は得体のしれない不審者、それが徐々に好感にかわり、今では好青年といった印象を抱いているのである。

これが作戦だったらとんだ策士だなと思うクロムであったが、警戒はしつつも少しは信用すべきだなと思うのであった。


「ダインのところまで案内してもらうとして…… 王都はここから近いのか??」


「遠くはないってところだけど、徒歩でいくと面倒なことになりそうだからダインに迎えを出させますよ」


タケルはそういうと上空に大きな閃光弾を放った。

タケルのその行動にクロムたちは身構えたのだが、そんなクロムたちをタケルは優しい笑顔で見つめながら言うのであった。


「これは僕がダインに迎えを寄越せっていうときの連絡用に使っているものです。

 おそらく数分で迎えの馬車がここまで来ますよ」


なぜ馬車を向かわせることができるほどの正確な場所があの閃光弾でわかるんだ?という疑問を持つクロムであったが、その疑問をぶつけるより早く1台の馬車が遠方より向かってくるのが視界に入るのであった。

実際に馬車がきたことや来るまでが相当早かったことに驚くクロムたちであったが、淡々と馬車の中へと誘導するタケルに導かれるまま馬車に乗り込むのであった。


「この馬車は特別製なのですよ、停められることもなく王城の中まで一気にいきます」


タケルがそう言うと馬車はとても馬の速度とは思えないような速度で走り始めた。

クロムは自分が理解できることを上回る出来事の連続に困惑し、状況に流されるようにこの場にいることに一抹の不安を覚えずにいられないのであった。


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