87話.謁見⓷


ダインの話を聞いたクロムは、一つの違和感のようなものを感じるのであった。


アレスのように転生者を送らないという選択をする神が存在している可能性は考慮していたが、昔からこの世界の住人に積極的に関与していた神がいるということは意外であった。

クロムの中では神々とは放任主義で快楽主義者という認識である。


――クロムの頭の中ではナビが何やら騒いでいるがクロムは完全に無視をすることとした。


「なぜ大量の転生者が送られてくることを知っているかはわかった。

 では、なぜその転生者を集め始めたのか、今どの程度集まっているのかを教えて欲しい」


クロムは質問には全部答えてもらうからなという意思を言葉と視線に込めて、真剣な表情のままダインへと問いかけた。

ダインも<ある思惑>があるため、クロムの質問には原則全部答えるつもりでいた。


「それもアレス様からの天命が理由じゃ」


アレスは送られてくる転生者の特徴をダインに説明していた。

・この世界の住人とは強さの次元が異なるほどの強者であること。

・それだけの力を有しながらも<役割>や<目的>を与えられずに送られてくること。

ダインはそのことを聞いた時に思ったことも素直にクロムに答えるのであった。

<はた迷惑な神々だな…… と>


しかしダインにとってアレスの言葉は絶対であるため、その天命の内容を全部信じた。

そして、そのような強者たちが自由奔放に暴れたのでは世界が壊れかねないため、この世界の情報や十分な身分保障などと引き換えに味方に引き入れることを決めたのであった。


<転生者の捜索>は、雲をつかむような内容である上にあまりおおやけにできることでもないため、当初はダイン自らと親衛隊のうちの重臣のみで行っていた。

<転生者の捜索>はかなり難航したのだが、徐々に数件の不可思議な現象の報告を聞くようになったのである。

そして、やがて一人の女性と出会うこととなる。

その女性の名前は<カイリ>であった。


クロムはその名前を聞いて思わず大きい声を出してしまった。

なにせクロムにとっては、忘れることのできないトラウマを植え付けた人物の名前と同じだったからだ。

クロムはダインにその<カイリ>についての情報を詳しく求めた。

その結果、おそらくではあるがカロライン王国でクロムたちが出会ったあのカイリと同一人物であると思われた。


話の腰を折ってしまったことを詫びたクロムは話の続きを求め、ダインはクロムの突然の行動に驚きつつも話を再開した。


「ワシはそのアイリという女性からできるだけ多くの情報を得ようとしたのじゃ。

 そしてとても信じれないような情報を聞くことになったのじゃ」


カイリが神々からの又聞きまたぎきなので真実かはわからないとした上で、語った衝撃の話は次のような内容であった。

・この大陸の東西南北それぞれの方角に他の大陸が存在していてそれぞれ異なる種族が大陸を支配しているということ。

・そのうちの東の大陸は魔王は統べる大陸であり、そこにカイリを転生させた神の知り合いの神が一人の転生者を送ったらしいということ。


カイリの話の信憑性は乏しいものの、ダインにとっては神の言葉は疑うべきではないものである。

カイリの言葉を全て信じたダインはカイリを好待遇で招き入れようとしたが拒否され、力で押さえつけようとした親衛隊のものたちを全て惨殺したのちに<東に行く>とだけ言い残して去っていったのだった。


「あぁ…… その感じはたぶん俺の知ってるカイリで間違いないな……」


「うん、私もそんな気がするよ……」


「なんじゃ、クロムたちも出会っておったのか!!」


「悪い思い出しかないけどな……」


「ワシもそこは否定しにくいところじゃの……」


クロムとダインは互いの顔を見ながら苦笑するのであった。

そして話を再開させたダインがついにある男の名を口にするのであった。


「その後出会った転生者がそこにいるタケルとクロムと因縁のあるミツルじゃ」


<ミツル>

クロムにとって忌むべき名前となっているその言葉をダインが発した次の瞬間、謁見の間は極寒の地へと変貌を遂げるのであった。


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