76話.驚愕


カルロの話を驚愕の表情きょうがくのひょうじょうで聞いていたクロムとアキナ。


カルロたち竜人族4人はこの世界において圧倒的な強者と言ってもよいほどの強者である。

そのカルロたちがここまで一方的にやられた上に、ルームの存在が無ければおそらく逃げることすら無理であったであろう事実に驚愕した。

確かにミツルが驚異的な素早さを持つことは聞いていた、しかしただ素早いだけの奴と心のどこかでミツルを見下していたことを痛感するのであった。


「カルロ、すまない。

 これは完全に俺の油断と慢心による判断ミスだ……」


「兄貴……」


「主よ、これは我らの慢心。

 主が自分を責める必要はありません」


目を覚ましたビネガはクロムたちの元に現れ、カルロの話の続きをし始めた。

カルロをルームに押し込んだあとのビネガは二人を連れて自分もルーム内に避難するつもりであった。


ミツルに目眩ましめくらまし目的で火球を数発放つと同時に二人のもとに駆け付けるビネガ。

二人を抱えようとした瞬間にビネガの顎が打ち上げられた。

ビネガは何が起きているのか理解できないまま宙に浮かび上がり、さらに顔を右方向へと吹き飛ばされたのだった。


吹き飛ばされたあとにビネガは察したのである、ミツルに蹴り上げられてさらに横に蹴り飛ばされたのであると。


「ん~、君たちは弱いね。

 でもさっきの彼が急に消えたのは何かの<技能>…… なのかな」


不敵な笑みを浮かべながらそんなことを言うミツルと目が合うとビネガは心底恐怖を感じ、気が付いた時にはルーム内に逃げ込んでいた。


全てを語り終えたビネガは力なくクロムたちに頭を下げる、あの二人を見捨てて逃げてしまったと。

クロムはそんなビネガに対して今は休んでくれということとあとは任せてほしいということを告げるのであった。


カルロとビネガをルーム内で休息させてから狐人族の集落に戻ったクロムとアキナは、黙っていた。

お互いに何から話すべきなのかを決めかねていたのである。

そしてアキナがその静寂を破るのであった。


「あの二人の救出…… 行かないとだね」


「あぁ、だが無策で行けばあいつらの二の舞だろうな」


クロムはどう攻めるのかを決めかねていた。

ただ砦を陥落するだけであれば、氷なり雷なりで物量で攻め込み続ければきっと問題なくできるであろう。

しかし二人が囚われていると思われる砦を一気に陥落させてしまうわけにはいかないのである。

そして一つの案を思いついたクロムはナビに尋ねるのであった。


「なぁ、俺の――」




ナビの返答で自分の作戦に手応えを感じたクロム。

その作戦を聞いたアキナはその作戦の内容に驚愕し反対したのだが、特に代案がでてくるわけでもなく……

クロムに押し切られる形で渋々作戦に同意したアキナはクロムを心配そうに見つめるのであった。


「大丈夫、上手くいくさ。

 俺はアキナと離れる気はない、だから無事帰ってくるさ。

 今回は留守番とあの二人の看病を任せた」


アキナはおどけてそういうクロムにこれ以上文句をいうことも出来ず、ただ自分の役目に思いを寄せるのであった。


「もぉ!!!

 ちゃんと私のところに帰ってきてね!!!」


アキナの腹が据わった声を聞いたクロムは笑顔で告げるのであった、作戦開始だと。

ルームから飛び出し砦前に姿を現したクロム。

ソイソたちの姿もミツルの姿も共に発見出来なかったクロムは砦に向けて先制攻撃を開始したのである。

砦の上空を覆い尽くすような巨大な氷の塊を発生させて、そこから五月雨のように無数の氷雹を砦に向けて発射させたのだった。


クロムの放つ氷雹によって、みるみる崩壊していく砦。

クロムはこの攻撃によって二人が致命傷を負わないこと祈りながらも一切手を抜かずに氷雹を振り続けさせるのであった。


そして砦もそろそろ半壊かという頃にクロムは甲高い金属音のような音とともに目の前で転んでいる男を視認するのであった。

ミツルをおびき出すことに成功したクロムは、奇襲に失敗し目の前で尻餅をついているミツルを見下ろしながら言うのであった。


「てめーがミツルか、お前は絶対に許さないからな!!」

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