77話.力の活かし方


事態を飲み込めずにいるミツルに対してクロムは情け容赦なさけようしゃのない怒涛の攻撃どとうのこうげきを繰り出していた。

ミツルが尻餅をついている地面を泥沼化して動きを封じたところに、先ほどまでは砦に降り注がせていた氷雹のターゲットをミツルに変更させたのであった。


しかし降り注ぐ氷雹がミツルを捉えるとらえることはなかった。

なんと半身が埋まったはずの泥沼から何事もなかったかのように抜け出して氷雹を回避したのである。


「物騒なことする奴だな……

 でも俺には当たらないぜ?」


ミツルは挑発するような口調でそういうとクロムの視界より消えたのであった。

そして次の瞬間クロムは背中より甲高い金属音を聞くこととなった。


「さっきといいお前の身体はどうなってやがるんだ……」


「たしかにスピードは異常なほど早くて目では追いきれないな。

 でもそれだけだ」


「ほぉ、生意気なやつだ。

 お前がさっきのやつらのボスか、名前ぐらい名乗ったらどうなんだ?」


クロムはミツルの実力を推し量りおしはかりつつ、自身の立てた作戦で問題がなさそうなことを確認するのであった。

そしてミツルを軽く挑発したのち、名乗ることを求めたミツルの言葉を無視して攻撃を再開した。

初手として、自分とミツルを包み込む巨大な氷のかまくらを作り出し、ミツルの逃げ道を奪った。

そしてミツルの前方以外の全方位から落雷を放つ。


「その程度で俺をハメたつもりか!??」


ミツルは当然のように雷からの回避と攻撃を兼ねて突撃攻撃をかけてくるのであった。

それはミツルにだせる最高速度での突撃であり、速度は破壊力となるのである。


神速ともいえるミツルの突撃をクロムが視認できるわけもなく、それほどの速度の攻撃が持つ破壊力をクロムの身体が耐えきれるわけがない。

クロムの肉体が破壊されるかにみえた瞬間、ミツルはクロムに衝突することもなく姿を消すのであった。

今回は先ほどのように高速移動で姿が見えないわけではない。

本当にこの世界から消えたのある。


「はぁはぁ、流石にあの速度の突進はこえーな……

 でも無事作戦成功っと」


ミツルの神速の突撃を思い出し冷や汗を流すクロムであったが、とりあえず作戦が成功したことを喜びつつも行方不明の二人を探すために半壊状態の砦の中にはいってゆくのであった。


「二人を探すのなら私も手伝うわ」


クロムは、二人の探索に参加するためにルーム内より出てきたアキナと共に砦のまだ崩れていない箇所を探すこととした。


「でも本当にあの作戦でなんとかしちゃうなんて……

 特にあれで本当に防げてよかったよ」


アキナのいうあれとはミツルの攻撃をことごとく防いだ方法のことである。

あれは空間術を駆使して作成した次元の断層で自分の周囲を覆いおおい、その断層があらゆる攻撃を無効化する壁となっていたのである。


「でもさ、あれにも問題点はあるんだよ」


「そうなの? 完全防御って感じにみえたけど……」


すると、クロムは今の時点でわかっている欠点を話し始めた。

一つは本当に完全に攻撃を無効化できるのかどうかが不明な点である。

どんな攻撃には弱いのかなどがわからないのである。

そして二つ目の欠点は発動に相当な時間が必要になる上に消費する魔力が尋常ではないため、常時使うなどが少なくとも現時点では不可能であることであった。


「確かにそうかもだけど、十分すぎるほどの成長だよね。

 ますます頼りにしちゃうからね♪」


アキナにそういわれることにまんざらでもないクロム。

今まで扱いきれていなかった自身の高すぎる能力の活かし方を覚え始めたという自覚はクロムにもあったのである。


そして、思わずこのままイチャイチャモードに入りそうになる二人であったが、その雰囲気が一気に吹き飛ぶことになる。

探していたソイソとソルトを発見し、その惨状に二人とも言葉を失ってしまったからであった。

二人とも上半身と下半身が繋がっていないのだった。


そして鬼の形相おにのぎょうそうを浮かべたクロムは、いつもとは違う色のルームの入り口に足を踏み入れるのであった。


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