56話.クロムの苦悩
次の日、クロムたちはサラカの用意した馬車にのって会談の場所まで向かっていた。
馬車に乗れる人数の都合上、クロムはアキナとカルロのみを連れて行くことにしたのだった。
それから約1日半ほど馬車に揺られ会談場所であるカロライン王国の辺境の村までたどり着いた。
村についたルイン一行は、出迎えに来ていた聖竜騎士団の団員に会談場所まで案内されるのだった。
「サラカ殿、遠路はるばるありがとうございます。
私は聖竜騎士団の団長を務めております、カルートと申します」
「ご丁寧にありがとうございます、カロラインが誇る勇者カルートの
聖竜騎士団の団長が勇者と呼ばれていることにクロムは驚いたが、その後も順番に自己紹介が続いていった。
「俺はルイン所属の冒険者のクロムです。
こちらの二人はうちのチームのアキナとカルロです」
「おぉ、貴殿がクロム殿か!
ルインへのスタンピードの件も含めてご勇名は伺っております」
「勇者様にそう言ってもらえると恐縮するね」
自己紹介を終えた一同は、サラカを中心として王都奪還作戦についての相談を始めた。
いくつもの作戦が提案されたのだが、どの作戦もある一つの懸念事項の前に潰れていくのであった。
それは敵対している相手が王都を一飲みにするほどのスタンピードを操れる相手であることである。
聖竜騎士団がいかに屈強とはいえ隊員は約100名程度の少数精鋭の騎士団なのである。
スタンピードの数の暴力に対応するための妙案を出せぬまま時間だけが過ぎていき、明日改めて会談の続きをすることとして今日は解散という流れになった。
クロムは悩んでいた。
問題となっているスタンピードに関しては、ギン率いる魔物軍団を使えば解決できる。
しかしギンたちの存在を皆に伝えることに抵抗があるのであった。
「ねぇ、クロム。
ちょっと話があるの、カルロさんも来て」
何かに悩んでいるクロムを見つけたアキナは、クロムとカルロを呼び出し、人目につかない場所からルームへと移動した。
そして、アキナがクロムに話し始めた。
何故スタンピードの問題に対して、ギンたちで対応できることを伝えないのかと。
こういう時のために魔物軍団を作ったのではないのかと。
「アキナの言いたいことはわかるよ……
正直、俺も悩んでいる……」
「なら!」
「伝えた場合のリスクがデカすぎると思うんだ……」
「え??」
「俺が大量の魔物の配下をもっているということは、俺もスタンピードを起こせる存在だと思われるということでもある。
それに魔物軍団の大半は、ケイン率いる先遣隊を壊滅させた狼たちだ。
そして、それを後日敗走させたのは俺である……
つまりあの一連の出来事が俺の自作自演であると思われる可能性は極めて高い」
「……」
「そう思われないかもしれないが、そう思われるかもしれない。
もし思われた場合、俺はルインやカロラインから敵対されるだろうね。
そう考えたら伝えることを
「なぁ、兄貴。
兄貴はカロラインを救いたいんだろ?
そのためにはギンたちを使うしかないんだろ?」
「あぁ、その通りだな」
「色々と悪いパターン考えて思いついた手を打たないとか兄貴らしくないと思うけどな。
……仮にルインやカロラインと敵対関係になったとしても、ダイン獣王国に行けばいいんじゃないか?
つえーやつが偉いっていう国なんだろ? 最悪そこでのし上がるだけじゃん。
それに世界中が敵になった時でも、ルームもうちの隠れ里もあるし、なんとでもなるさ」
クロムとアキナはカルロの意見を目を丸くして驚きながら聞いていた。
クロムは自分が保守的になりすぎて、自分が最善と思うことができなくなっていたことに気づき思わず大笑いしてしまった。
「アキナ、カルロ、ありがとな。
確かに俺らしくなかったな」
そう言い残してルームを出たクロムは、サラカ・ダン・ケイン・カルートの4名を急遽召集して打ち明けることにした。
それによって、どんな事態になるのかクロムにもわからないままでの行動だった。
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