55話.会談日時の決定

 ルインに無事帰還したクロムたちは、その足で冒険者ギルドに依頼達成の報告に向かった。

しかし、到着したのが夕方であったため冒険者ギルド内は活気に溢れていた。


「やっぱりこの時間は混んでるなぁ……

 アキナが言う通りご飯を先にするべきだったか……」


「ここまで来て文句言わないの!

 ほら、列に並ぶわよ」


 文句を言うクロムにそれを窘めるたしなめるアキナ。

二人と親しい人たちにとってはもうお約束になりつつあるやり取りをしていると、二人は背後から声を掛けられることになった。


「はぁ……

 おまえらは入り口で何をやっておるんじゃ……」


「「ダンさん!??」」


「……まぁ良いわ、とりあえずワシの部屋にこい。

 ギルドに用事があったんじゃろ? 話を聞いてやるわい」


 恥ずかしいところをダンに目撃されてしまった二人は赤面しつつ、ダンと共にダンの部屋まで行くことになった。


「変なところを見られちまったな……」


「おまえらはいつもあんなもんじゃろ?

 んで、何用じゃ?」


 クロムはスズから紹介された塩漬け依頼を達成したことを告げて、依頼の彫像をダンに手渡した。


「!!!!

 おまえら…… あのクソ依頼をやったのか!??」


「ギルドマスターがクソ依頼とか言っちゃダメだろ。

 まぁスズさんにはお世話になってるしな、恩返しがてら…… といったところだよ」


「おまえがそんな殊勝なやつなわけないじゃろ、どうせ他に思惑があったんじゃろうが……

 まぁよいわ……、頭の痛い依頼でもあったのも事実じゃからな、ありがとな」


 クロムが何か思惑があった上で依頼を受けたのであろうことを薄々感づいていたダンではあったが、頭が痛くなる依頼であったのは事実でありそれを達成してくれたことに素直に感謝するのだった。

 ダンはスズを呼び出し彫像を持っていくことと依頼達成の処理を指示したのち、クロムたちに本題を話し始めた。


 聖竜騎士団との会談の日時が決定したのである。

移動時間も考慮にいれて3日後に聖竜騎士団が潜伏している村にて会談が行われること。

ルイン側の出席者は議長であるサラカとギルドマスターのダン。

Aランク冒険者ケインとその腹心3名。

それにクロムとそのチームメンバーである。


 出発は明日の正午を予定しており、それまでに準備をして欲しいということであった。

クロムたちはダンに別れを告げて準備に取り掛かることにした。


「でも私たちの場合は準備って言っても……

 クロムのストレージもあるし、ほぼすることないよね」


「まぁな……

 だから、とりあえずビネガんとこにでも行こうかなとね」


「ビネガさん??」


「もしかして忘れてる? 

 俺の杖の作成をビネガに頼んであることを」


「あ……」


 すっかりそのことを忘れていたアキナは苦い顔をするしかなく、それを見たクロムは大笑いをするのであった。

そして、ビネガの元に向かうためにルーム内に移動した二人は、さっそくビネガを探すことにした。


 ルーム内に再現した竜人族の村に向かった二人はカルロに出迎えられ、カルロの案内の元でビネガの家まで向かい歩き出した。


「これはこれは、主。

 お待たせしましたが、こちらがご依頼の杖となります」


 そういうとビネガは1本の杖をクロムに手渡した。

蒼白く発光した持ち手の先端部分に漆黒の台座に支えられた蒼く輝く竜人王聖石が取り付けられていた。


「これはすごいな……」


「素材が素材ですからね、台座に使う素材を選ぶのに苦労しました。

 悩んだ結果、我ら竜人族に伝わる黒曜石という魔力を貯め込む性質を持つ鉱石を材料として採用しました。

 あとは主が杖全体に魔力を浸透させながら名づけを終えれば完成となります」


 クロムはビネガから杖を受け取るとさっそく杖全体に魔力を纏わせつつ杖の名前を考え始めた。

クロムは魔力を吸い込み始めた杖を見ながら思いついた名前をつぶやいた。


「……蒼天の杖そうてんのつえ


「良き名だと思いますよ、主」


「さすがに安易すぎる気はするんだけどな……

 こいつを見てたら蒼天のローブのことが浮かんできたから……」


「私もいい名前だと思うよ!」


 思いつきで浮かんだ安易な名前をベタ褒めされることを照れ臭く感じつつも、完成したばかりの蒼天の杖を見てほほ笑むクロム。

この杖とならみんなを守れる、そんな予感を感じたのであった。


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