54話.決着

 やがて、水蒸気のカーテンが晴れ二人の視界が戻り始めたころ、二人は数メートル離れた位置で対峙していた。


「はん! ただのコケ落としか!

 突撃する勇気もないやつが決闘などとは片腹痛いわ!!」


「突撃だけが攻撃じゃないぜ、脳筋さんよ」


 クロムは両手に貯めていた魔力をゴランに向けて解放した。

一直線に飛来するそれは難なく回避されたかにみえたが……


「ぐはぁぁぁぁ!!!」


 ゴランは叫び声をあげながらその場に片膝をついた。


「全身に大量の水を浴びた状態じゃ、俺の落雷は回避不能だぜ?

 間合いをとったのは、俺が水の範囲から出ただけのことさ」


 クロムはそれだけいうと無数の落雷をゴランに向けて放った。

ゴランにそれらを回避するすべはなく、無数の落雷を受け続けたのちそのままその場に倒れ込むのであった。

 ゴランが倒れ込むのを確認したクロムは、全力で駆け寄り治療魔術でゴランを治療しつつアキナの様子を確認した。


 クロムの視線の先には、両腕がボロボロになるまで引き裂かれたソーマの姿とその周りで美しい剣舞を舞うアキナの姿があった。


「やっぱりアキナの剣舞は綺麗だな……」


 クロムの言葉が聞き取れてしまったアキナが恥ずかしそうに顔を赤らめていると、クロムはアキナに近寄りその隣で倒れているソーマに治療魔術を施した。

 そして、気を失っていたゴランが意識を取り戻し喋りかけてきた。


「おまえ…… いや、クロム…… だったか?

 一体何者なのじゃ…… ?

 これほど強く、さらに雷を操る人間なぞ聞いたこともない……」


「最初に名乗っただろ?

 ただのルイン所属の冒険者さ。

 さて、その彫像は約束通り貰っていくけどいいな?」


 ゴランは約束は守るとだけ言うと、ゴランの頭部と同じくらいのサイズの彫像をクロムに手渡した。

そして、それを受け取ったクロムは、ここまで来た目的が他にもあることをゴランに告げた。

自分が強い仲間を集めていること。

自分の強さには秘密があり、従属してくれたら全てを話し、力自体も分け与えること。

そして、ゴランたちに配下になってほしいことを。

 

 ゴランたちはクロムの急な勧誘に戸惑った。

ゴランたちにとって全く想定していなかったことなので当然である。

しかし、自分たちを決闘で倒した相手であることやゴラン自身がクロムに興味を持ち始めていたことなどからクロムへの従属を受け入れるのであった。

 これにより、クロムはゴランを始めとするこの集落にて生活をしていた鬼族8名を従属することとなったのである。


「従属を受け入れてくれてありがとな。

 とりあえず俺の秘密から話すわけだが……

 まぁナビ、いつも通りよろしくな!」


『はぁ……

 なんとなくそういうフリがくるんじゃないかとは思ってたけど……』


「な、なんだ!? 声が聞こえる…… !!??」


『はいはい……

 もうそのリアクションには飽き始めてるわよ……』


 もうお決まりになりつつあるクロムからの丸投げを受けたナビは、文句を言いつつもちゃんとゴランたちに説明するのであった。

そして、ゴランたちも当初は混乱している様子も見せていたが、人族以上の知性を持つ種族であるというのは伊達ではなく意外とすんなりと状況を飲み込んでいくのであった。


「ゴランたちって理解早すぎね?」


「う、うん…… 

 私は3倍以上かかったと思う……」


「ワシらとの知性レベル差じゃな、まったくあり得ない話ではないし。

 なによりナビ殿の存在が話の信憑性を高めておるしな」


 その後ルーム内を訪れたゴランたちは、ギンの配下としてクロムの魔物軍団を統率することとなったのである。

そして無事に冒険者ギルドからの依頼の品である彫像を回収した上に配下の強化も達成したクロムは、アキナとともに上機嫌でルインへと帰還するのであった。


――もう一つの目的も…… たぶん達成できたしな。

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