21話.決闘
ラムダの突撃はフライングぎみであったが、今までのラムダの荒っぽい対応からこの事態はクロムの想定の範囲内の出来事であった。
大したスピードもなく想定された範囲内の突撃などに手間取ることもなく、軽々と突撃を回避したクロムはラムダの後方に回り込んだ。
「イノシシみたいなやつだな。
脳筋は
「へっ、びびってるくせに強がってんじゃねーよ!
まぐれで避けれたことを実力だと勘違いしてんじゃねー!!」
突撃を完璧に回避されたことに内心焦っている、そんな心情を押し隠すようにクロムを煽るラムダ。
そして、ラムダは大剣を右後方に水平に引いた状態で再度の突撃をかけてきた。
突撃のまま水平に横薙ぎを払ってくることは見え見えであり、突撃速度もそこそこ早い程度であったので避けるのは容易かったが、またマグレとか言われるのもウザイと思ったクロムは、あえて正面から受け止めてみることにした。
クロムはダンとの試験の際にやったように両手に魔力を練り込み、ラムダの横薙ぎを受け止める直前に風の壁を生成してそのままラムダの斬撃を受け止めることに成功した。
ラムダは自身の横薙ぎがクロムを斬ったと思った瞬間に「キンっ!!」という金属音が響いたことの意味が理解できず、自分が横薙ぎを振り切れていないことを不思議に思っていた。
「大したことないな? これで全力とか言わないよな?」
斬り飛ばしたはずの相手が目の前で自分を煽っている、そんな状況になって初めてラムダは冷静になった。
そして、自分の渾身の斬撃を受け止めた上で煽られているということを認識したラムダは、その直後に激高するのだった。
「舐めてんじゃねーぞ!!!!」
ラムダはそのまま横薙ぎとは逆方向に身体を回転させ、遠心力を乗せた横薙ぎを先ほどとは逆の方向から放った。
しかし軽々と前方宙返りのような動きで横薙ぎとラムダを飛び越えたクロムは回避と同時にある攻撃をしていた。
斬撃がふたたび空を斬っているラムダの足元より大きなの土の杭が飛び出してきたのである。
その土の杭はラムダの顎を目掛けており、横薙ぎを空振りした直後のラムダは無防備に食らうしかなかった。
ラムダを襲った土の杭はラムダの顎を打ち上げる形となり、ラムダを少しだけ上方に吹き飛ばし、ラムダは着地と同時に意識を失い倒れた。
「そこまでじゃな……
勝者はクロムじゃ」
ダンがそう告げると闘技場の観客席に詰め掛けていた観客たちから大きな拍手が起きたのだった。
――にーちゃん、つえーじゃねーか!
――あの乱暴者のラムダを…… スッキリしたぜ、ありがとう!
大半がクロムを称賛する内容であったことに、クロムは苦笑するしかなかった。
「あいつ…… どんだけ人望がないんだよ。
まぁ、これでアキナのパートナーとして少しは認めてもらえたら嬉しいけど……
ダンさんにもご迷惑おかけしました、なにかダンさんの思惑通りの展開でもありそうなのですけどね?」
「ワハハ、気のせいじゃ気のせい!」
ダンがクロムの追求を笑って流しているところにアキナが飛び込んできた。
「クロム!!!!
よかったぁ……
ケガしてない????」
アキナに抱き着かれたクロムは急なことに慌てつつも、そんなアキナのことを可愛いと感じながら頭を撫でて安心させるのだった。
「心配かけてごめんな、でも大丈夫だよ」
「ホントに……?
ならよかったぁ……」
「でも一応ここでダメ押しだけはしておこうかな」
クロムはアキナの頭を撫でるのを続けながら、観客たちに向けて叫んだ。
その姿が観客からどう見えるかを分かった上で。
「皆さんはじめまして! 昨日冒険者登録したクロムです。
見ての通り、今日アキナとチームを結成しました。それについて面白く思わない人が多数いることは伺っています。
決闘を希望されるのであれば俺は全部受けます、それがアキナとチームを組むためには必要となる皆さんへの誠意と思っていますのでダンさんにでも伝えてください」
クロムのその発言はこの場にいる誰もが予想すらしていないものであった。
その発言により会場内は騒然としていた。
誰もがどう解釈してどう反応すればいいのかがわからなかったのである。
そして、その混乱はアキナやダンも例外ではなかったが、そんなダンに軽く会釈だけをすると、クロムはアキナを連れて闘技場を後にしようとするのだったが……
「クロムさん!! なんてことを言うんですか……
自殺行為ですよ……」
背後よりスズに声をかけられるのだった。
「あはは、さすがに自分より強い人もいるでしょうからそうかもしれないですけど……
このギルドのアイドル的存在であるアキナを奪ってしまった立場になりますからね、それ相応はスジを通すべきかなって」
「言いたいことはわからなくはないですけど……
今日の決闘を見て、正面からでは敵わないと思って闇討ちする人もいるかもしれないのですから気を付けてくださいね……」
「その可能性もやっぱりあるんですね、注意しておきますね。
ご心配ありがとうございます」
スズの忠告に感謝を述べたクロムは、今後のことを相談するためにも一旦宿に向かうことを決めるのであった。
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