22話.脇の甘さ

 宿に戻ったクロムを待っていたものは……


「なんであんな危ないことするのよ!!!!」


 アキナの説教でした……


「危ないことしてごめんな……

 でもさ、アキナにチームを組みたいって言って貰えたことが本当に嬉しかったんだよ。

 それを守りたい気持ちとみんなが気に食わないと思うことがわかる気持ちと両方あってさ、今の俺にできる精一杯の誠意が何かって考えたら……

 でも心配させちゃったのは事実だしな、ごめんな……


「…… ズルいよ……

 そんな言い方されちゃったら、もう怒れないじゃん……

 じゃあさ…… 

 せめて今日だけは大人しくゆっくりしててよね」


 すっかり拗ねた顔をしているアキナに何も言い返せなくなったクロムは、素直にアキナの希望を聞き入れることとした。


「わかったよ、今日は大人しくしてるよ。

 たださ、ご飯はどうする? 

 さすがに寝る前までにお腹はすくぞ?」


 クロムが素直に言うことを聞き入れてくれたことに満足気なアキナは、ニコニコしながら答えるのであった。


「そうだねぇ、ご飯は私がルーナのお店で買い出ししてくるよ。

 これで問題なしだよね!」


「…… わかった、ご飯はお願いすることにするよ」


 ご飯の心配もなくなった二人はゆっくりと過ぎる時間を取りとめもない会話をしながら過ごすのだった。

クロムはこの時、この世界に来てから初めてになる心落ち着く楽しい時間を満喫できていることを実感していた。


「楽しいなぁ……

 アキナ、ありがとな」


「こちらこそだよ!

 でもそろそろお腹空いたよね? ルーナのところに行ってくるね」


「そうだね、そろそろお願いしようかな」


 ルーナのお店に買い出しにでかけたアキナを見送ったクロムは、帰ってくるまでの時間をゆっくり過ごすべくソファーに腰を掛けたとき、聞き覚えのある声が聞くこととなった。


『あの子1人だけで行かせてよかったの?』


「ん? ナビか。

 1人でって言っても街中だし、店も近所だぞ?」


『はぁ……

 あんたは今日自分が何をしたのかの自覚がないのね』


「何って、ケンカ売られてそれを買って、その後に決闘の受付をしただけじゃないか?」


『……

 腕に覚えのある奴は決闘の申込をしてくるかもしれないわね

 ただ、今日の決闘を見て勝てないわって思ったけど、あんたのことが気に食わない奴はどうすると思う?』


「……

 俺の弱みを握ろうとするか、寝込みを襲うか……」


『このタイミングであの子が一人になったら?』


「……

 大人しくしているっていう約束を破ることになっちゃうけど、迎えにいくわ」


 クロムはナビにそう告げると急いで宿の外まで飛び出した。

宿の外に出たクロムは、宿前の通りがヤケに騒がしいことに気が付いた。

そして、その騒がしさが無性にクロムの不安を煽る。

クロムは道行く人に何があったのかを聞こうとした時、見知らぬ男に声を掛けられたのだ。


「あんたが冒険者のクロムさんか?」


「そうだが、なんだ?」


「実はあんたにこれを渡してほしいって頼まれたんだ」


その男が手渡してきたものは<髪留め>と<紙切れ>であった。


「その髪止めはアキナのじゃないか!!!!!

 お前!!!!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は頼まれただけ……」


「…… うるさい」


 男が何かを言いかけた瞬間にクロムは男を氷の彫像へと変えていた。

そして、男から手渡された紙きれに書かれていた内容は……


 ――ルイン近郊の洞くつまで一人でこい

 ――約束を違えたたがえた場合は、一切の保証はない


 クロムは街の外まで走りながらナビに確認をする、自分が出てきた洞くつ以外に該当の洞窟が存在しないことを。

その時のクロムの表情はすれ違う人が立ち竦んでたちすくんでしまうような、殺意に満ちた表情をしていた。

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