14話.出会い
無事に身分証となる冒険者証を手に入れたクロムは、アキナと共に街を街中をブラブラしていた。
クロムがアキナに街中の案内をお願いしたからである。
「どこかにクロムさんの記憶にある場所があるといいんだけど……」
「あははは……
そんなことよりさ、呼び方はクロムでいいよ。
さん付けはなんかくすぐったいしね」
「そ、そうだよね!
じゃあ、クロム…… 最初はあっちにいこっか!」
呼び捨てをすることに若干のテレを感じながらも街案内を再開するアキナ。
最初に訪れたのは、街の中央部を覆うように囲っている壁の前だった。
「街の中にさらに城壁?」
「ここの中は、3大国から移住してきた貴族たち専用の住宅区なの
住宅区の中心には自治議会の議場もあるわよ」
「ルインがどういう街なのかをわかりやすく体現している地区ってことか……
面倒ごとに巻き込まれる前に他の場所にいこうぜ」
変に絡まれて面倒なことになる前にこの場所をあとにすることにした二人。
ルインという街は中心部が貴族街、北部が一般住宅街、南部が商業・工業地区となっている。
そのため、二人は南部地域を目指すこととした。
「そういえばクロムって不思議な服を着てるわよね?」
「やっぱり変か?
目覚めたときに着ていたものなんだけどな」
「クロムの出身地探しのための重要な手掛かりだとは思うけど、ちょっと浮いているかなぁ……」
「だよなぁ……
服屋か防具屋って近くにないか?」
「それならあっちかなぁ
質のいいおススメのお店に連れて行ってあげるね!」
アキナはクロムを連れて歩き出した。
しばらくすると、寂れた風貌のお店に辿り着いた。
「ここ?」
「見た目は…… だけど、とっても質のいい防具が揃っているのよ!
早く入ろっ♪」
アキナはクロムの手を取って店の中に入った。
店の中は落ち着いた雰囲気であり、品の良さそうな鎧からボロキレのようなものまで展示されていた。
クロムは一通り見て回ろうと思ったとき、店の奥に人影を見つけた。
「…… いらっしゃい」
「ロムさん、おひさしぶりです!
ちょっと見させてもらいますね」
「……」
「彼はこのお店の店主のロムさん、ちょっと無口だけど良い人なのよ」
「軽いノリの店主より好感が持てて俺は好きだな」
「あはは、クロムって変わってるよね~」
その時、店の片隅に置かれた箱から不思議な気配が放たれているのに気が付いた。
気になったクロムがその箱まで向かっていき箱の中身を確認すると、多種多様な防具が無造作に突っ込まれており、たたき売り用の装備を入れておく箱のようだった。
クロムはその箱の中から一つのボロキレのようなローブを取り出した。
箱から感じていた不思議な気配はこのローブから放たれているようだった。
「クロム……
なにもそんなボロボロのローブを……」
「店主さん、これって?」
「…… そのボロが気にいったのか?」
「気にいったというか、これだけ他のものとは違う気配をずっと放ってる気がするんだが……
これは一体なんなんだ?」
「…… ほぉ? 面白いやつだな。
お前は魔術師か?」
「そうなるね」
「ならば、そのボロにお前の魔力を流し込んでみろ」
なぜそんなことを? と思いつつも不思議と反論できない雰囲気を放つ店主の言葉に従って魔力を流し込んでみることにした。
魔力を流し込み始めてみたが、特に何も起こらない……
なんだったんだ? と思った時、ボロキレのようなローブに変化が起こった。
淡い光を放ち始めて、その光は徐々に強く、青くなっていった。
クロムはあまりの眩しさに目を閉じてしまい、目を開きなおすと光が収まっていた。
「な、なんだこれ!!!!」
「…… ほぉ、まさか本当であったとはな」
クロムが魔力を流し込んだボロキレのローブは淡い蒼色で染まったローブに変わっていた。
「それはな、水の精霊の加護を受けたと言われるローブらしい。
そのローブが認めた者の魔力が注ぎ込まれるまではボロキレの姿をするとか言われておった。
今まで誰がやってもボロのままだから、迷信だと思っていたんだがな……」
「店主さん」
「ロムだ」
「…… ロムさん、これおいくらですか?」
「…… そのまま持っていけ。
良い武具は持ち手を自ら選ぶものだ。
それはもうお前のものだ」
「いくらなんでもそれは…… 」
「いいから持っていけ、いい光景を見せてもらった礼だとでも思っておけ」
「…… わかりました、ありがとうございます
このローブに恥じないようにがんばります!」
「蒼天のローブだ」
「??」
「そのローブの名前だ
大事にしろよ」
そう言い残すと、ロムは店の奥へと去っていった。
「クロムって本当に何者なんだろうね……」
「さぁな? 水の精霊に好かれてはいそうだな」
「そうかもね!
ねね! 着てみてよ♪」
クロムはさっそく蒼天のローブを羽織ってみた。
淡い蒼色のローブはクロムの身体の動きを阻害することもなく、さらに綺麗な発色をしていた。
「か、かっこいい……」
クロムの姿にすっかり見とれるアキナがボソっと呟いた。
それを逃さずに聞き取ったクロムは、まんざらでもない表情でアキナを見つめるのであった。
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