15話.晩餐


 ロムの店を出た二人はそろそろお腹も空いたので、アキナのおススメの店に向かっていた。


「今から行くお店はね、私の行きつけのお店でもあってとっても美味しいお店なんだよ♪」


「そりゃ楽しみだな、でも本当に御馳走になっていいのか?」


「当然♪ 

 クロムには助けられっぱなしだし、少しぐらいは恩返しさせてよね」


「大したことはしてないし、そこまで背負わなくてもいいんだけどな……」


「いいから、素直に奢られていてください!」


「…… わかったよ、ありがとな。

 って、ひょっとしてこの店か?」


 クロムは目の前の酒場っぽい建物を指さしながら言った。


「うんうん、ここだよ!

 早くはいろっ♪」


 アキナはクロムの手を引いてお店の中に入っていった。

お店はそれなりの広さがあり、いかにも酒場といった雰囲気であった。

まだ少し食事には少し早い時間ということもあり、半数ほどの席が空いていた。


「アキナじゃない! 今日は来るの早いわね。

 しかも……

 アキナが男連れとはねぇ♪」


 店員さんはクロムのほうを見ながら、そう言った。


「る、ルーナ!!

 彼はそういうのじゃなくて…… 私の命の恩人なの!

 お礼を兼ねてお食事にお誘いしたのよ!」


「アキナったらテレちゃって可愛いんだから♪

 席はこちらにどうぞ」


 ルーナはクロムたちを空いている席へと案内した。


「お礼って言ってたけど、注文はどうするの?」


「感謝の気持ちなんだから、今日は大奮発するわよ!

 おススメの料理やお酒をじゃんじゃん持ってきちゃってよ!!」


「そんなこと言って大丈夫なの?

 あんたっていつも金欠じゃない……」


「そういうことは言わないの!

 でも……」


「あはは、無理はしないでいいからさ。

 ルーナさん、オススメの料理2種類を1つづつお願いします。

 アキナ、それを分けて食べようか」


「クロムさん…… 気を使わせてしまってごめんなさい……

 ルーナ、それでお願い。

 あ、エールも1つづつお願いね」


「はーい」


 注文を聞いたルーナは機嫌良さげに厨房のほうに歩いて行った。

しばらくすると、テーブルの上に料理が並べられてゆく。

1つは鳥の丸焼き?みたいなものであり、もう1つは大きめのボールに入ったサラダであった。

さらにもう一皿唐揚げの山盛りのお皿もテーブルに並べられた。


「これは私からのプレゼントね♪

 アキナが男の人に興味をもったお祝いね♪」


「ルーナ!!!!」


「あはは、じゃあ楽しんでね~♪」


「もぉ……

 騒がしい子ですいません……」


「あはは、楽しくていい友達じゃないか。

 それに…… 

 これは美味しそうだな♪

 冷めないうちに食べようぜ♪」


「そうだね!

 改めて…… クロムありがとね!」


「「いただきます!!」」


 お腹の空いていたクロムは目の前に置かれた唐揚げをパクりと食べてみた。

外はカラっと、中はジューシーで噛めば噛むほど肉汁が滴り、もう一個もう一個と手が止まらなかった。


「唐揚げが気にいったみたいだね」


「これは旨すぎでしょ……

 こんな美味い唐揚げは食べたことない……」


「あはは、このお店は相当美味しいからね♪

 それなのにリーズナブルな価格という庶民の味方のお店なの♪」


 すっかりこのお店の料理の虜になったクロムは、余った銀鉱石を換金してもらったお金でコソっと追加注文したりしていた。

二人とも美味しいお酒と料理を楽しみつつ、楽しい時間を過ごしていたが……


「もぉ…… 

 クロムってホントすご過ぎでしょぉ……

 それなのに、記憶喪失でどこか危なっかしいとか……」


 Zzzzzzz……

 アキナは酔いつぶれて眠ってしまった。


「あらら、アキナったら……

 お礼で誘った人を残して酔いつぶれるとか……

 クロムさん、すいませんけどアキナをどっかの宿にでも突っ込んでおいてもらってもいいですか?

 私、まだ仕事終わりそうにないので……」


「あはは……

 まぁこのまま放置するわけにもいかないしね。

 ここから近い宿は……

 そこの道角にある店かな??」


「そうなりますね。

 すいませんけど、お願いします」


 クロムは酔いつぶれたアキナをルーナに頼まれてしまった。

断るわけにもいかないクロムは、アキナに肩を貸して宿屋に向かうことにする。


 宿屋に到着したクロムは、2部屋空いていないかと声を掛けたのだが、残念ながら1部屋しか空きがなかったのである。

クロムは悩んだ末に一部屋のみ借りることにして、その部屋にアキナを連れて行くことにした。


「あの店主は絶対勘違いしてるよな……」


『この状況でそれ以外と思う人はむしろいないんじゃない?』


「おぉ、ナビじゃん。

 なんか久しぶりだな!」


『一人の時以外に声かけないぐらいの気遣いはできるわよ』


「そりゃどうも」


 部屋に到着したクロムはアキナをベットに寝かせ、自分はソファーに座り今日を振り返っていた。

そしてこの状況は理性との闘いだよなと自問自答するのであった。


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