13話.ギルド試験

「ギルド長!!!!」


 ギルドの奥より大柄のおっさんが歩いてきた。

見るからに歴戦の戦士という雰囲気を漂わせる強面こわもてであった。


「ワシがギルド長のダンじゃ。

 大口の法螺吹きか大物か、ワシが見極めてやるから今から地下の闘技場にゆくぞ」


 悪そうな笑顔でそう話すダンを見たアキナはやや焦りながら尋ねた。


「ぎ、ギルド長? 無茶はしないでね??」


「そういえばアキナが推薦者らしいな、珍しいこともあるもんじゃの。

 ちゃんと見ておくのじゃぞ」


 それだけ言い残すと地下の闘技場へと向かうダン。

クロムとアキナは苦笑しつつダンのあとを追うのであった。

そして、地下の闘技場に着いたアキナはクロムに一言だけ残して見学席へと向かっていった。


「ギルド長は元Aランク冒険者らしいの、クロムの強さは知ってるけど油断しないでね」


 アキナの忠告をありがたく受け取ったクロムは、闘技場の中央で佇むダンの前まで歩いて行った。


「これはあくまで試験じゃからの、真剣は使わぬ。

 そこらにかかっている武器を好きに選ぶがよい、ワシはこの木の大剣じゃ」


「俺は魔術師だからな、武器なしでいいよ」


「素手だからって手加減はせぬぞ?」


「大丈夫だから始めようぜ!」


 終始強気の姿勢を崩さないクロムを見て苦笑するダン。

ダンはクロムのその姿勢に少し苛立ちを覚え、そのまま試験の開始を宣言した。


「あとで後悔しても知らぬからな!!!

 はじめ!!!!!」


 ダンは開始の宣言とともに、大剣を振り上げつつクロムに突進した。

クロムは両手に魔力を収束させ始め、クロムの両手を靄が包み込んだ。

クロムの異変に気付いたダンであったが、それを無視し袈裟斬りをクロムに放った。


 ダンが袈裟斬りを放ってきたのをみたクロムは両手を振り上げ、魔力の靄をまとった両手でダンの大剣を受け止める動作をした。

ダンの大剣とクロムの両手が触れる直前、クロムは魔力の靄を風の壁に変質させ、その壁に衝突したダンの斬撃をそのまま自身の右後方へと受け流した。


 自分の袈裟斬りがここまで綺麗に受け流されるとは思っていなかったダンは、驚きの表情を見せたがさすがは元ベテラン冒険者である。

特に隙をみせることもなく、体勢を整えクロムと再び対峙しようとした。

だが、その瞬間ダンの足元が泥沼となり、両足の自由が奪われた。


 この展開にはさすがのダンも動揺を隠すことができずに一瞬だけ思考が停止することになる。

そして、その一瞬の隙をクロムが付く形でダンの両手を氷漬けにしたのであった。


 ダンは何が起こっているのか理解できずに混乱するしかなかった。

クロムはそんなダンを追い込む。

後方に回りこみ、瞬時に土で作り上げた剣をダンの首筋に添えたのである。


「降参する?」


「あ、あぁ…… ワシの負けじゃ」


 ダンの降参の宣言を受けて、クロムは氷と泥沼を解除した。


「お前は一体何者なのじゃ……

 これほどの魔術師など見たことないぞ……」


「俺はただの記憶喪失者だよ。

 そんなことより、試験は合格ってことでいいのか?」


「うむ、合格じゃ。

 カウンターに戻って、スズに入会処理をしてもらうのじゃな」


「クロムさん、すごすぎ!!!!!

 まさかギルド長に圧勝しちゃうなんて!!!」


「アキナよ…… 

 そういうのは本人がいなくなってからするものじゃぞ?」


「す、すいません!!!!」


 苦笑を浮かべるダンに注意を受けてテンパっているアキナをクロムは笑いながら連れてカウンターへと戻っていった。


「スズさん、合格しました!」


「もう終わったんですか!!??」


「いえぃ♪」


 陽気な様子でピースサインを浮かべるクロムを苦笑しながら見つめるスズは、戸惑いながらもクロムの入会処理を開始した。

しばらくして、入会処理を終えたスズがクロムに声をかけてきた。


「おまたせしました。

 これがクロムさんの登録証です、再発行にはお金がかかるのでなくさないように注意してくださいね」


 その後、クロムはスズから冒険者としての心得こころえの教えを受けたあと、アキナと共にギルドを後にする。

クロムは新しい異世界生活の始まりを感じ、これからの生活に胸を躍らせるのであった。


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