12話.冒険者ギルド
街の中を歩きながらクロムは先ほどから気になっていたことをアキナに聞いてみることにした。
「あの門衛長さんってすごくいい人だったけど、アキナの知り合いなのか?」
「おじさんはね、私が小さい頃からの知り合いなの。
可愛がってた近所の子が必死になってたら、力になってやるよっていうタイプなのよ」
「アキナといい、門衛長さんといい、この街は良い人が多そうだな」
(『そういうこと言うとフラグになるわよ?』)
クロムは頭の中でボソっとつぶやいたナビのことを無視しつつ、ルインの街並を眺めていた。
「この街並も記憶になさそうね……
とりあえず冒険者ギルドに行ってみる?
案内するわよ?」
「なんで冒険者ギルドなんだ?」
「理由は色々あるんだけれど、とりあえずはギルドに登録すれば身分証が発行されるからかな。
身分証がないと結構面倒ってのはさっきのでわかったでしょ?」
「それはよくわかったけど、身元不明の俺でも登録できるのか?」
「冒険者の紹介があれば試験は受けれるわ。
試験はクロムほどの強さがあれば余裕でしょ♪」
「身分証のためにも、生活のための金稼ぎにも、とりあえずは冒険者が手っ取り早いってことだな」
「そういうこと♪
いこいこっ♪」
なぜだか機嫌が良くなってきているアキナの案内で冒険者ギルドに向かうことにしたクロム。
しばらく街中を歩いていると、突如目の前に西部劇の酒場として出てきそうな大きな建物に現れた。
「酒場?」
「ここが冒険者ギルドよ、酒場も併設してるけどね。
この時間なら空いてると思うから行こ!」
異世界ものの定番に冒険者ギルドに入ったらガラの悪い中堅冒険者に絡まれるというものがあるが、それは勘弁してほしいなぁと思っているクロムはアキナに手を引かれて一緒に冒険者ギルドに入るのであった。
冒険者ギルドに入ったクロムは、恐る恐るギルドの中を見渡した。
冒険者ギルドの中は想像に反してほぼ人がいなかったのである。
むしろ、受付のおねーさんが一人いるのみであった。
「やっぱりこの時間は人がいないわね~
そのほうが都合が良くていいけどね♪」
上機嫌なアキナは一直線に受付まで向かい、知り合いであると思われる受付のおねーさんに声をかけた。
「スズさん、ただいま~」
「アキナちゃん!
…… 出かけたのって少し前じゃなかったっけ?
まさか……
もう依頼達成したの!??」
「……
それが……」
アキナは言いにくそうな口調で受付のスズにこれまでの経緯を説明し始めた。
説明を聞いたスズは驚きつつも、クロムにお礼を伝えるのであった。
「クロムさん、アキナちゃんのことありがとうございます!!!
もしもクロムさんがいなかったら……」
「偶然出くわしただけだから、そんなに気にしなくていいですよ。
そんなことより……
さっきの話だとアキナって何かの依頼を受けてて、失敗したことになりそうなの?」
「命が助かったんだから、私の依頼が失敗になるとかは気にしないでいいのよ」
「……
ちなみに依頼内容は?」
「…… 銀鉱石の採掘、あの洞くつの入り口付近は銀鉱石の鉱脈が多いのよ」
クロムは、なにやら運命のようなものを感じずにはいられなかった。
まさかこの場面でその名前を聞くことになるとは思ってもみなかったのである。
クロムは洞くつ内で採掘していた銀鉱石をストレージから取り出して、ギルドのカウンターに置いた。
「「!!!!」」
「これで足りるか?」
「足りるけど…… そんなのダメだよ!!!
命を助けてもらった上に、こんなものまで受け取れないって!!」
「こう考えればいいさ。
アキナは洞くつ内で記憶喪失で困っていた俺を街に案内するために、依頼を失敗しそうになってしまった。
ならば、せめてお詫びとしてこれくらいは当然だろ?」
「そんな無理やりな解釈しないの!!」
「いいから受け取っておいてくれよ、俺は本当に助かってるんだからさ。
スズさんだったかな?
これをアキナが受けた依頼の品として納品されてくれないか?」
「…… 本当は人からの譲渡されたものでの依頼達成は違反なんだけどね……
今は誰も見てないし……
それにそんな男気を見せられたら、受け付けてあげなきゃだよね!!」
「スズさん、ありがとうございます」
「……
二人とも私を無視して進めないでよぉ……」
アキナは先ほどまでの上機嫌から打って変わってすっかり拗ねていた。
そんなアキナの姿が可愛いなと思いつつも無言で依頼達成の処理を進めているスズはクロムに尋ねかけた。
「そういえば、クロムさん。
アキナがクロムさんをここに連れてきたってことは……
アキナの推薦でクロムさんが試験を受けるってことですか?」
「察しが良くて助かります、身分証確保のためにも冒険者になってみようかなって思いまして」
「そんな理由で冒険者になる人初めてみるけど……
アキナを助けれるほどの人なら試験は問題ないんだろうけどね」
スズはクロムの冒険者になりたい理由に苦笑しつつも、クロムに試験の説明を始めた。
「試験は今から受けるの?」
「問題ないならそうしてほしい」
「今から受けるなら……
うちのギルド長と戦闘してギルド長が認めたら合格…… になるかな」
「殺さずにまいったって言わせたらOKってことですね?
それなら問題ないから、さっそくお願いしたい」
すると、カウンターの奥から低い声が響いてきた。
「ほぉ、元気の良いヤツがきおったみたいじゃな。
元気のいいやつは嫌いじゃないが、ワシがその伸び切った鼻をへし折ってやるわ」
その声は少し威圧的に、そして愉快そうな声であった。
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