8話.初探索

カキンッ!!


 クロムがアイスランスを放った材質違いの床は、甲高い音を響かせるのであった。


「なっ!

 ここらの魔物たちを1発で倒せるアイスランスで小さな傷が一つ付いただけだと……」


『明らかに周りとは異質の材質みたいね』


「でも硬いというなら変質させればいいだけさ!」


 クロムはおもむろに床に手をつき、床に魔力を注ぎ始めるのであった。

 すると床は徐々に波を打ち始め、気が付けば泥沼のように変質していた。

 そこからクロムが別のイメージを込めた魔力をさらに注ぎ込むと、泥沼のようになっていた床の中央にくぼみができ始め、数分後には大きな穴となっていた。


「ふぅ、初めてやったけどできるもんだね♪」


『あんた、今なにしたのよ!!??』


「何って、床の材質を流動形のものに変質させてから、その下にある空間までの穴にして、その状態でもう一度固めただけだけど?」


『何を当たり前のことのように言ってるのよ……

 物質を変質させるとか、それって錬金術の類よ??

 本来魔術でそんなことは不可能のはずなんだけど……』


「そうなのか?

 そんなこと言われてもなぁ……

 それに魔術とは如何いかに具体的かつ明確なイメージを作れるか だろ?

 そう考えたら魔術に限界はないんじゃないか? 

 人の想像力の限界まで魔術の可能性はある、俺はそう思うけどな?」


『理論的にはそうなのかもしれないけど……

 やっぱり、クロムは相当異質な存在ね……』


「誉め言葉として受け取っておくよ♪

 そんなことよりも……」


 クロムは先ほど作り上げた穴を見つめていた。

 マナの流れや空気の流れからこの穴の下には大きな空洞があると感じられたからだ。


「この下って大きな空洞っぽいものがあると感じるんだが……」


『よくそれがわかるわね……

 地理的なことで言えば、この下に洞くつの一部があってもおかしくはないわね』


 ナビがいうには、クロムが仮の住居を使ったこの岩山の反対側の麓あたりに洞くつの入り口があるらしい。

 その洞くつは地下に潜っていく形状であり、この岩山の地下のほぼ全体が洞くつの範囲となるくらいの規模の洞窟である。


『この森もなんだけど、その洞窟の深部もそれなりに強い魔物の生息地なの。

 だから人はほとんどこないような場所だね。

 クロムがこの森で誰とも会わなかった理由の一つがそれになると思うわ

 ただ、洞くつの入り口近くは弱い魔物の生息地だからきっとそれなりに人がいるはずよ』


「この森の魔物ってそれなりに強い部類だったわけか……」


『この世界ではレベル20で一人前、30~40あたりで達人と呼ばれる領域になるわ』


「サバイバル生活を満喫していたら、達人の世界に足を踏み入れることになってた俺っていったい……」


『だからあんたは異質なのよ!!

 さらに強奪眼の影響であんたのステータスはレベル30とは思えないほどの高さだしね!!!』


 自分の異質さとチート加減を改めて実感したクロムであったが、意識を切り替えて洞くつ探索を始めることにした。


「まぁ、考えても仕方ないことだし!

 今はこの洞くつの探索を楽しむさ♪」


『今のあんたの強さならまず危険もないだろうけど、警戒だけはちゃんとするのよ!!』


「は~~い」


 クロムはナビの忠告に従い周囲への警戒を強めながら、穴の中に飛び込む。

 しかし穴はそれなりの深さであり、着地した際の衝撃でクロムの足は大いに痺れることになるのであった。


「くぅ……」


『……』


 クロムが痺れる足に回復魔術を施しながら周囲を確認すると、そこは真っ暗な空洞のようだった。

 音の反響具合からそれなりの広さであることは推測できた。

 そして、クロムは視界確保のために照明用の火の玉魔術<ライトボール>を使い空洞全体に明かりをともすことにした。


 やがてその全貌を明らかにする空洞。

 だだっ広いその空洞は一本の通路と繋がっているのみの空間であることがわかった。


「洞くつ内のどこかの行き止まりにあたる空間ってところかね」


『そうでしょうね

 入り口との位置関係を考えたら、ここが最深部かもしれないわね』


グオオォォォォ!!


 突然、地響きのような唸り声うなりごえが空洞内に響き渡る。

 クロムは咄嗟に声の方向を振り向くと、巨大な熊が通路の中から姿を現すところであった。


「クマ!??」


『ま、まさか…… 、ブラッディーベア!!!

 この洞くつは、そんなクラスの魔物までいたのね……』


「その反応ってことは…… 強いってことなんだよな?」


『もちろん…… この周辺では最強の魔物でしょうね』


「この洞くつの主かもしれないな……

 逃がしてくれそうにもないし、やるしかないか……」


 殺意むき出しの視線を浴びているクロムは逃走が不可能であることを直感で感じ取っていた。

 そして、クロムはその強烈な殺意に立ち向かうことを決意するのであった。


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