9話.探索開始

「先手必勝!!」


 ブラッディーベアとの力量差を測りきれないクロムは、最大限の警戒をもって斬撃の魔術<エアカッター>で先制攻撃を試みることにした。


 が、エアカッターが放たれることはなかった。

 なぜなら放つために右腕を振り上げた瞬間に、ブラッディーベアが咆哮ほうこうし突撃を開始したのである。

 クロムはそのあまりの迫力に一瞬動きを止めてしまったのだ。

 しかし、すぐに我を取り戻したクロムは急いで右手を振り下ろす。


「エアカッター!」


 エアカッターはブラッディーベアの右前足に直撃したのだが、切断するまでには至らなかった。

 しかし突撃を止める効果はあったようで、ブラッディーベアはその場で立ち上がって少しづつクロムとの間合いを詰めてくるのであった。


 クロムは突撃を止めることで稼ぎ出した時間で必死に考えた。

 エアカッターでは威力不足のようだ。

 連発すればそれなりのダメージは与えれそうだが、被弾覚悟の突進をされたらこちらが先に致命傷を負いそうである。


 そしてクロムは選択した作戦を開始する。

 クロムは全身より大量の魔力を放出しつつ、それが拡散しないように自分の

周りを漂うようにイメージした。

 そして、漂いだした魔力の塊が次第に蒼っぽい色を帯び始め、蒼い靄あおいもやがクロムを包み込んだ。

 やがて、靄は形状を変えていき、複数の氷杭へと変貌を遂げるのであった。


「やってみたら、できるもんだな」

「これでどうだ!! アイスランス×10」


 徐々に間合いを詰め、かなりの接近をしていたブラッディーベアに10本のアイスランスが急襲することとなった。

 両手、両足に両肩と両膝をアイスランスが貫き、ブラッディーベアは叫びながら地面に倒れ込むのだった。


「とどめだ!」


 クロムは両手をブラッディーベアに向けて突き出し、巨大な氷杭を生成し放った。

 放たれた巨大な氷杭は、ブラッディーベアの頭に突き刺さり、ブラッディーベアの頭部は半壊状態となった。

 しかしクロムはしばらくして絶命していることの確認がとれるまで警戒を解くことはなかったのであった。


『まさかここまで一方的に倒すとは思わなかったわよ』


「見た目ほど一方的でもなかったさ、エアカッターがあの程度のケガを負わせることしかできなかった時はマジで焦ったし……」


『その割には次のアイスランスは、部位貫通するほどの威力だったし、そもそも10本同時とかあんた本当におかしいわよ!!』


「威力は…… まぁ氷魔術が得意ってことの証拠なのかもな。

 それに単発じゃヤバそうって思ったら、複数同時にって発想は普通じゃね?」


『発想できても普通はできないものだと思うけど?』


「俺にこの世界の常識ってやつで文句いわれてもなぁ~

 この世界の常識ってほぼしらないし~♪

 そんなことより~♪ 探索開始~~♪」


 呆れているナビをいつも通り放置したクロムは、通路へと進んでいった。


 その後、色々な魔物と遭遇することとなった。

 軽く痺れる息を吐いてくるとトカゲ。

 とても硬い糸を吐くクモ。

 自分より大きいサイズの蟻。

 森でもよく出会った狼さんやゴブリンさん。


 特に面白みのある魔物の登場もなく、洞くつ自体もあまり分かれ道のないただただグルグルと迂回させられ続けるだけの構造であったため、クロムは洞くつ探索に飽き始めていた。


「なぁ、ナビ~」


『ん?』


「洞くつってこんな退屈なもんなのか?」


『普通は緊張を途切れさせれなくて、暇とか退屈って感じないもんだとは思うけど……

 いきなりボス戦から始まって入り口を目指すとかいう探索の仕方の上に、魔物もあんたにかかれば雑魚だしね。

 なにかハプニングでも起きない限りは、このまま淡々と歩いて何事もないまま入り口から脱出ってことになるんだろうね』


「なんか盛大にフラグを立ててくれちゃってるけど、何かあんのか?」


『そんな未来予知みたいなことは僕には無理だよ。

 僕にチート能力があるとすれば、地理情報や魔物の大まかな分布状況がわかるっていう程度かな』


「それはそれで充分チートだと思うけどな?

 お! あれなんだろ?」


『銀鉱石の鉱脈っぽいわね』


 クロムはこのまま街を目指すつもりである。

 街にいくのであれば金目のものは必要になるであろうと思い、銀鉱石を採掘し始めるのであった。


「おったから♪ お宝~~♪

 でも採り尽くすのはなんか悪いし、このぐらいでいいかな♪」


 目の前に銀鉱石の山を築き上げたクロムがそんなことをいうとナビが呆れた声でつぶやくのであった。


『すでに採りすぎでしょ……』


 ナビの呆れ声をすでに聞きなれているクロムはナビの声を無視して、銀鉱石をストレージに収納していると、遠くからわずかに人の悲鳴にも聞こえる音が聞こえてくるのであった。


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