2話.無情なる異世界生活
「ナビ~、とりあえずここから一番近い町ってどっちにあんの?」
『近くにはないよ?』
「は??」
『だから、近くにはないってば! 一番近い町で…… 徒歩2日ってとこかな♪』
軽い気持ちでナビに尋ねたクロムは、予想外の回答を聞くこととなったのであった。
クロムの異世界生活……
早くも餓死エンドの可能性が漂い始めるのである。
「……
とりあえず食料の確保だな……」
『切替が早くていいね♪』
ナビの言い草に納得のいかないクロムであったが、周囲の景色の中で唯一草原以外の景色である森に向かって歩くことにした。
森までの道中、クロムはナビにいくつかの質問をしてみることにした。
「この世界にはナビみたいな眷属?っていっぱいいるのか?」
『眷属は神様が誰かに与えない限りは世界に存在しないから、たぶん他にはいないと思うよ?
あと僕の声はクロムにしか聞こえないから、僕との会話は周りからは独り言を言ってるように見えるだろうね♪』
「……
気を付けるわ。
ちなみに、この世界って
『この世界はね、創造神様がなんでもアリの世界って面白いんじゃね?ってことで作った世界らしいの。
だから、剣や魔法どころか魔物に精霊、ドラゴンも悪魔も魔王も勇者もなんでもかんでもいる世界』
「そんな軽いノリでとんでもない世界にされた住人はいい迷惑していそうだが……
そういえば、そんな世界で俺って武器なくね?」
『ないねぇ~♪』
「……
餓死が先か、魔物に食われるが先か……」
『高い魔術適性があるんだから、魔術で戦えばいいんじゃない?』
「そうなのかもだけど、魔術?の使い方なんてしらねーぞ?」
『えっとね、この世界にはマナと呼ばれるものが大気中に存在しているの。
そのマナと自分の魔力を練り合わせて、自分がイメージしたものを具現化するって感じかな♪
それで魔術は発動するよ♪』
「イメージしてそれを具現化ねぇ……
イメージができればなんでもできるのか?」
『この世界の魔術はイメージがほぼ全てかな
より鮮明に、より早く、より具体的にイメージする これが魔術師にとって一番大切なことだよ♪』
「ふぅ~ん、まぁこういうのは習うより慣れろかね」
クロムは早速試してみることにしたのである。
先ほどから若干喉が渇いていたクロムは、両手の手のひらくっつけて器のようにして、その中に水がいっぱい満たされるイメージをした。
(どうせ出すなら真水で……
できれば軟水がいいな!
硬水苦手だし……)
クロムはそんな我儘なイメージも盛り込みながら手のひらの中に水が満たされることをイメージした。
すると、手がヒンヤリとするのを感じたのであった。
「水だ……」
『まさか一発で成功するなんてね……
魔術適性はやっぱり相当高そうね……』
ナビが若干引いている反応しているのを尻目に、クロムは具現化された水を一気に飲み干した。
「…… うまい!!!!!
これで飲み水の心配なくなったじゃん!!」
『ヨカッタネ』
「なんだよ、その反応は……」
『そんなことよりさ、
目の前の森から狼さんたちがこっちを睨んでるのは気づいてる?』
「!!!!!」
水に夢中になっていたクロムは、目の前まで迫ってきた森の中からこちらの様子を窺っている狼にはまったく気づけていなかったのであった。
『ま、その得意の魔術で狼さんたちの退治頑張ってね♪』
ナビがそういうと、森の中から3匹の狼が勢いよく飛び出してきた。
そんな状況に激しく動揺するクロムであったが、なんとかして魔術で撃退する方法を必死で考えた。
そして、思いつくイメージのまま、目を閉じて両手を狼のほうに突き出しつつ、より強く念じるのであった。
グサッ!グササッ!!
ギャ!キャン!!
あたり一面に何とも言えない音が鳴り響いた。
クロムが恐る恐る目を開くと……
目の前には3匹の狼が大きな氷の杭で串刺し状態になっていたのである。
「はぁはぁはぁ……
助かった…… でいいんだよな?」
『あの咄嗟でよくこんなもん出せたわね……』
「大きな杭で串刺しにする
それぐらいしかイメージできなくてさ」
『そうしたら、こんなデカい杭が氷でできたわけね。
無意識で氷の杭ができたっていうなら、あんたの得意属性は氷ってことなんだと思うわ』
ナビは魔術の6属性についての説明を始めた。
魔術には火・水・土・風・光・闇の6属性が存在し、魔術師はそれぞれ異なる得意属性というものをもっていて、それはステータスボードにも記載されないので、こういう咄嗟のタイミングで発動するものがもっとも得意な属性ということを。
クロムは魔術によって水と食料の問題を解決できる目途が立ち始めたことに喜びを感じていたのであった。
そして一つのことに思いが至ったのである。
あの森を拠点にして、ロマン溢れるサバイバル生活を始めようと。
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