🖤
わたしは古めかしいボロボロの建物の前で足を止める。‘廃倉庫に集まる奴らを適当にあしらえ’との藤堂冷からのご命令だ。ガラガラと扉を押せば、埃っぽい空気が肺に入ってきて、少し咳き込む。
「こんにちは~」
なんの躊躇いもなく倉庫にあしを足を踏み入れれば、男が驚いたように振り返り見ていた。なんだあひとりだけかあ。
「なんだオメー」
「藤堂冷をリンチしようとこそこそ作戦練ってる根暗のたまり場はここですかあ?」
「あぁ?」
片眉をつり上げて、男はづかづかと大股で歩いくる。
「それがなんだってんだ?それより女1人でこんなとこ来るもんじゃねえぜ」
「あ、認めたあ」
目前にまで迫ってきた男は、腕を組んでわたしをジロジロと舐め回すように見てきた。そして気味悪く笑みを浮かべる。うわあ鳥肌立ったんですけど。きっしょー。
「よくわかんねえが俺らの目的を知ってんなら、ただで帰れると思うなよ?」
ニタニタと相変わらずイケてないスマイルを浮かべてる男は、舌舐めずりをした。ねっとりとした視線を寄越してくる。
「もーうるさいなあブス」
「ッッ図に乗んなよ!」
男は頭に血が上ったのか、腕を振り上げた。お。
刹那、わたしは振り降ろされた手をひらりと交わし、顔面に拳をめり込ませる。
バキッと痛そうな音を拾う。
「…………………え?は?なに?」
男は滴る血を手の平で受け止めながら、放心状態。鼻筋が曲がっているから、折れたんだろう。
真っ赤な鮮血を目にして、わたしは体温がぐんっと上がるのを感じた。
興奮する。
「ねえ、ねえ、ねえ、あなたが悪いんですよお?女の子ぶとうとなんかするから」
こてんと小首を傾げながら、わたしは男に近付く。
コツン、コツン、革靴の音が響いている。
男はガクガクと震え出した。可愛そうに。まるで雨に打たれて震えるみすぼらしい捨て犬のよう。
でも、もう遅いっつーの。
落ちていた鉄パイプを拾う。冷たさが心地よい。
「く、来るな、来るな来るな、この化けもんがァ!」
目をひん剥いて、男は絶叫した。
「やーだよ」
この、優位だと勘違いしていた相手の顔が絶望と恐怖で染まるのを目撃する瞬間が人生で1番充実する時間だ。
それからどれくらいか時間が経った。
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