🖤

「なあに、話しって?」


使われてない教室で、わたしは最初に聞いた。


「うん、あのさ、その前に俺のこと知ってる?ごめんないきなり呼び出して」


眉を八の字に寄せて、申し訳なさそうに謝ってくる彼は、どこからどう見ても好青年だった。不自然な程に。


「んーん、知ってるし全然いいよ」


で?と催促する。手短にしてほしい。変な噂たつの嫌だし~。


「暴行事件」


「え?」


たらりと冷や汗が垂れる。


「最近、この付近で暴行事件が多発してるの知ってる?被害者は全員若い男。全員が‘ウサギの面’に

やられたって噂」


「わたし戻るねえ」


なんか、やっぱ、ますい。


思わず踵を返した。




















「なあ、オマエ、この間×××街の路地裏でなにしてたんだ?」





頭のてっぺんから冷水でも浴びせられた気分になった。ぎょっとして振り替えると、人好きのする笑顔で相変わらずにこにこしている御曹司様がそこにいた。まさか。





「見たの~?」






気付かれた。あーあ、絶対に知られなくなかった。ただの地味な少女でいたかったよ~。なんてこった~。よりにもよって同じ学校の人気者に。







「動画もあるぜ、見る?」


「はあ~?著作権の侵害なんだけどお」


「面まで被って隠してきたのに、随分余裕なんだなあ、渋谷あい子」


「どこまで知ってんのさ~、てか焦ってるよマジで~」






いや本当に焦る。逆に笑えてきちゃうってもんでしょお。てゆーかキャラ変わり過ぎ。こわあ。

冷や汗をかきながら、どうやってコイツを丸め込むか考える。学校に言われたら退学だし下手したら少年院行きだもんねえ。困った困った。
















「提案なんだけどさ」


藤堂冷が歩み寄ってくる。

そしてその綺麗な顔をわたしの耳元に寄せた。























「今ここでキスしてくれたら、黙ってる」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る