第4話 宿屋〈止まり木〉亭

 古着屋を出た頃、雑踏の騒音に混じって、神殿の鐘の音が聞こえた。

 現在、戦いの神マールの刻、一燭時目。

 つまり十五時だ。

 この都市ではそろそろ商店や工房は閉店していく。

 その後どうするのかといえば、大闘技場で行われる剣闘士の戦いを観戦しに行ったり、公衆浴場へ汗を流しに行ったりするようだ。


 剣闘士か……。


 彼らは奴隷の身分で、猛獣と戦ったり、剣闘士どうし戦ったりするらしい。

 この国の身分制度について調べたとき、不自由民――つまり奴隷などについての情報も当然あったが、あまり考えないようにしていた。

 僕は社会制度の変革者にはなれないし、なるつもりもないのだから。

 でも考えなくていいわけじゃない。

 もしかしたら将来、なんらかの形で関わりあう可能性もある以上、理解しておいたほうがいいだろう。

 知識と情報はいまの僕にとって数少ない武器であり、身を守る楯でもあるのだ。


 だけどいまは、ゆっくり休みたいな。

 主に〈森羅万象〉のせいだが、相当頭を酷使したのでくたくただ。


 宿でも探そう。

〈森羅万象〉を使うのも、これで本日最後にしたいところだが。

 効率的に宿を探さないと何度も使うはめになるだろうな。



 現在、所持金は金貨二十四枚あるので、高級宿にも泊まることができる。

 だが一ヶ月以上は無理だ。

 それに生活に必要なものはこれからも増えていくだろうから、節約しなくちゃいけないな。

〈森羅万象〉の情報によれば、安宿は一部屋に複数人を詰め込んで雑魚寝するようなところばかりで、安全性や衛生面からも、安眠できなさそうだから却下。

 となると一般宿しかない。

 個室で、清潔で、食事がおいしくて、安心して眠れる、値段もあまり高くないところ。


 これらの条件になるべく当てはまる宿を検索すると、わずかではあったがいくつか見つかった。


 というわけで、一番近くの宿に向かったのだが、予想しておくべきだったというか満室だった。

 そりゃそうか。

 条件が良すぎるもんな。

 しかしそうなると、どこも空いてないかもしれない。

 再び魔法で調べると、すこし離れたところに条件に当てはまってなおかつ、空きのある宿を見つけた。

 ちょっと遠いけど……。

 まあ他はどこも満室だし、妥協して微妙な宿には泊まりたくない。

 行ってみるか。



 通称――宿屋通り――の奥へと進んだ先にある、狭い袋小路の突き当たりに目的の宿はあった。

 立地があまり良くないが、隠れた名店みたいなものだろうか。

 宿の名前は〈止まり木〉亭。

 樹上家屋ツリーハウスのような意匠の看板がかかっている。

 扉を開くと、木造建築の温かみある空間が広がっていた。


「いらっしゃいませ」


 足を踏み入れると、受付の向こうから優しげな女性が迎えてくれた。

 この宿の女将さんだろうか、栗色の髪を後ろで一つに結び、紺色の前掛けエプロンを身につけた姿は、こざっぱりとした印象があって好感が持てる。

 だけどそれ以上に特徴的なのは、その豊満な胸元だ。

 前掛けの内側から押し上げるように主張している膨らみに、思わず視線が集中しそうになったが、じろじろと見るのはあまりに不躾なので、代わりに室内を見回しながら受付に向かう。


 一階が食堂になっており、いくつかの食卓と長椅子が並んでいるが、全体的にこじんまりとしていた。

 代わりに掃除は隅々まで行き届いているらしく、清潔感がある。

 硝子窓はなく、代わりの木製鎧戸が開け放たれていたが、採光という意味ではあまり役には立っていなさそうだ。

 日照権なんて存在しないこの都市では、どこも建物が密集しすぎてるせいだろう。

 とはいえ暖炉の火があったおかげで陰鬱さはなく、隠れ家的な雰囲気を醸し出しており、なかなか悪くなさそうだ。


「お食事ですか? ご宿泊ですか?」

「両方でお願いします」


 頼むと同時に、お腹が鳴る。

 今日は一日歩きっぱなしで、疲れも溜まっていたが、それ以上に空腹だった。

 女将さんにも聞こえていたのだろう、微笑を浮かべて準備を始めた。


「お食事は五ドールで、ご宿泊は一泊二シリルで朝食付きになります。お名前となにか身分を証明するものをご呈示いただけますか?」


 ここでも身分証が必要なのか……。

 まずい、どうしよう。


「えーと、訳あって身分証明できる物を持ち合わせていないんだけど、駄目だろうか?」

「そうですか……」


 女将さんはすこし悩むように、僕をじっと見つめてくる。

 やっぱり無理なのか?

 だけど身分証がなくても泊まれる宿なんてあるかわからないし、あっても安宿だけは嫌だな。

 諦めて他の宿を探そうか?

 早めに決断しないと他の宿の空きが無くなるかもしれない。

 迷っていると、二階から一人の少女が現れた。


「お母さん、掃除終わったよ――ってお客さん?」

「ありがとう、エイラ。お客様といえば、そうなんだけど……」

「なにかあったの?」


 エイラと呼ばれた少女が軽やかに階段を下りると、受付台のすぐ側までやってきた。

 お母さんということは親子で経営しているのかな。

 女将さんが事情を説明している間、近くで見比べてみると、二人は血の繋がりが感じられたが、親子ではなく歳の離れた姉妹といっても通じそうだ。


 エイラの髪は肩よりすこし上のあたりで切り揃えられているが、髪の色やはしばみ色の瞳はよく似ている。

 歳は僕と同じくらいの年齢に見えるが、もしそうなら女将さんは何歳なんだろう?

 結構若く見えるけど、外国人というか異世界人の年齢はよくわからないな。

 ボーっと眺めていると、話しを聞いて事情を理解したエイラが訊ねてきた。


「ねえねえ、身分証はなくても、なにか仕事道具とか、この街で身元保証してくれそうな人はいないの?」

「残念ながら。この都市には来たばかりだし、持ち物はこれだけだよ」


 背嚢を開けて見せる。

 遠慮なく中を覗きこんだエイラを女将さんが窘めていたが、僕としては納得がいくまで確認してもらったほうがいい。

 最悪の場合、今夜は野宿になる可能があるのだから。


「いい服ね! 金銭的に困ってはなさそうだけど、職業は?」


 エイラの単刀直入な質問に、拾い屋なんて答えたら、宿泊拒否されそうだな。

 だからといって嘘はなるべく吐きたくは無い。

 僕が困っているのを感じ取ったのか、女将さんが口を挟んだ。


「ごめんなさいね。言いたくなければ無理に答えなくてもいいわ」

「答えたくないわけじゃないんだけど、どう説明すればいいかと思って――」

「なんなら私があてて見せようか?」


 エイラが自信ありげな表情を浮かべた。


「宿屋を利用する客はある程度限られてるけど、旅の楽師や吟遊詩人なら楽器の一つや二つ持ってるだろうし、ただの旅人や放浪者にしては身奇麗で軽装過ぎる。かといって行商人や遍歴職人なら身分を証明する書類や商品、仕事道具があるはずだし、傭兵や冒険者みたいな荒事をしているようにも見えない。となると学者か巡礼者、もしくは大穴でお忍びの旅をしてる異国のお貴族様とか!」


 なるほど、なかなか面白い。

 というか、ある意味正解だ。


「学者って答えが一番近いかな。正確にはそこまで偉くないというか、ただの学生だったんだけどね。まあいろいろあって、いまはそれを証明することはできない」

「よく知らないんだけど、学生ってようは学者見習いってことでしょ? なら正解だよね!」


 エイラが満面の笑みを浮かべた。


「ちなみにそのいろいろについては、説明できないの?」

「出来ないというか、到底信じてもらえないような内容だし、僕自身まだ情報を整理できてないんだ」


 なにより秘密にしなければ、面倒になるかもしれない。


「ならしかたないか。ねえお母さん、私は泊めてもいいと思うよ」

「そう……わかったわ。たしかに悪い人ではなさそうだし、ぜひ泊まっていってくださいね」


 エイラはそれ以上何も訊かず、女将さんの許可も下りた。

 よかった。

 一時はどうなるかと思ったが、これでようやく体を休めることができそうだ。


「そういえば、まだお名前を訊いてませんでしたね。ちなみに私はこの宿を経営しているアイリと申します。なにかありましたらお気軽にお尋ねください」

「僕の名前はソラ。名字はシノノメ。あと、お金は金貨しか持ち合わせがないんですけど、大丈夫ですか?」

「え?」


 アイリさんは僕の名前を宿帳に記入していた――表記は予想通りソラ・シノノメになっていた――が、料金の支払いについて聞くと、手を止めた。


「金貨しかないって、なにそれ!? ねえソラって本当に王子様とかじゃないよね?」


 エイラが問い詰めるように、近寄って来る。

 至近距離にまで詰め寄られると心臓が早鐘を打った。

 女の子にこんな間近から見つめられたことなんてなかったので、どう対応すればいいのかわからない。


 …………。


 お互いにしばらく黙ったまま見つめ合っていると、エイラの頬に赤みが差し、その場からパッと離れた。


「あっ、あのさ……」

「なに?」

「やっぱりなんでもない!」


 そういってエイラはぷいっと顔を背けると、受付の裏にある厨房のほうへ走り去ってしまった。


「えっと……」

「あらまあ。――あの子のことは置いといて、お支払いは金貨でも問題ありませんよ」


 アイリさんが微笑ましいものでも見るような眼差しを向けているので、ひとまずエイラのことは気にしないようにして、金貨を取り出す。

 とりあえず十泊分くらい支払っておこうかな。

 いい宿はどこもすぐに満室になるみたいなので、部屋を確保しておかないと、また面倒な宿探しや身分証に関するやりとりをするはめになる。

 なにより立地はともかく、清潔な室内と、優しく美人な女将のアイリさんや、宿泊許可の後押しをしてくれたエイラたちには何の不満も無い。

 所持金にも余裕があるし、落としたり、スリの被害に遭う可能性も考慮すれば一ヶ月分くらい支払っても問題ないけど、生活に必要なものを揃えてからのほうがいいだろうな。


「それじゃあ、この金貨三枚で宿泊と食事を十日分お願いします」

「まあ、そんなに! ありがとうございます」


 アイリさんが軽く頭を下げた。

 こちらでもお辞儀のような文化はあるのか。

 僕も失礼のないよう気をつけないといけないんだけど――空腹感がそろそろ限界だった。


「さっそくで悪いんだけど、食事は頼めますか?」

「ええ、もちろん。そういえば先ほどもお腹が鳴ってましたね」


 アイリさんは悪戯っぽい笑みをこぼした。


「エイラ~、お客様のお食事を用意して」

「わ、わかった! ちょっと待って!」


 アイリさんが厨房のほうへ声を掛けると、エイラの慌ただしい返事と、がちゃがちゃと作業する音が響いた。


「お好きな席に座ってお待ちください。そうそうお部屋の場所になにかご希望はありますか?」

「それなら静かな角部屋とかがあれば、そこがいいんだけど」

「かしこまりました。それでは二階の一番奥の部屋をお使いください。こちらが鍵になります」


 手渡された鍵はなんというか、ちゃちなものに見える。

 針金とかがあれば僕でも錠開けできそうなんだけど、大丈夫なんだろうか?

 無いよりはマシだろうけど。

 いざというときの自衛手段も考えたほうがいいかもしれないな。



「お、お待たせしました」


 暖炉の側にある長椅子に座って防犯対策を練っていると、予想より早くエイラが料理を持ってきた。

 なぜかチラチラと盗み見るようにしている。

 さっきの対応がやっぱり駄目だったのか?


 考えても分からないし、それよりもいまは異世界ではじめての食事だ。

 食卓に並べられた料理の見た目は悪くないが、味覚や必要な栄養素なども異世界で共通なのだろうか?

 異世界人にとっては毒になる、なんてことはないよな?

 念のため、〈森羅万象〉で調べてみる。

 ライ麦の黒パンとスープ、塩漬け肉ハム、チーズ、キャベツの漬物サワークラウト、麦酒の入った陶器の杯マグカップ

 うん、特に問題はなさそうだ。

 いや麦酒は駄目だろう。

 まだ未成年だし。


「どうかした?」


 じっと料理を眺めていたせいで、エイラが心配そうに訊ねてきた。


「僕はまだ未成年だから、お酒が飲めないんだけど――」

「ん? 成人となにか関係あるの?」


 エイラに不思議そうに問われて、気がつく。

 そういえば異世界だった。

 元の世界の法律は、良くも悪くもここまで及ぶことは無い。


「えーと……僕の故郷じゃ未成年者は飲酒禁止だったんだよ」

「そうなんだ――ってソラはいまいくつなの?」

「十六歳だけど」

「十六歳!? ならあたしと一緒だ! というかウルクスじゃ、十四歳から成人扱いだよ?」


 成人が十四歳って早いな。

 てかやっぱりエイラと同い年だったのか。


「ちなみにお母さんは三十六歳ね」

「へー、最初はエイラと歳の離れた姉妹かと思ったよ」


 二十歳差というと大きく感じるが、見た目にはそれほど離れた印象は無い。

 十歳くらいは若く見えるな。


「だって~」

「お世辞でもうれしいわ」


 アイリさんにも聞こえていたようで、穏やかな笑みを見せていた。


「いや、お世辞とかじゃなくて本当なんだけど……」

「ええ!? そうなの?」


 思わずこぼした言葉にアイリさんは恥ずかしげに頬を染めた。

 そういう表情をすると、より若く見える。

 というか三十六歳というと、日本ではこれから結婚、出産という人もいるくらいだ。

 いやこの場合、日本の晩婚化が進みすぎてるだけなのか?


「もう! 私たちの話はいいから、冷めないうちどうぞ食べて。エイラもこれ以上余計なこと言わないで仕事しなさい」

「は~い。またねソラ」


 アイリさんに注意されたエイラは、小走りで厨房へ戻っていった。

 僕もお腹が鳴っているし、これ以上余計なことを考えるのはやめよう。

 ここは異世界なんだ、飲酒についても、気にするまい。


「それじゃあいただきます」


 まずはスープを一口。

 口に含むと野菜と肉の旨味が溶け込んだ、やさしい味がした。

 胡椒などの香辛料こそ使われていないが、香草や香味野菜を上手く使っているおかげか、塩の味付けだけでも十分においしい。

 惜しむらくは、肉が少ないことだが、蕪や人参、玉葱、茸など具沢山なので、食べごたえはある。


 次にライ麦の黒パンを手に取ると、薄切りだが、結構ずっしりとしていた。

 普段は小麦のパンしか食べないので、実はライ麦パンは初めてだったりする。

 それも黒パン――つまり精製されていない全粒粉で作られているものだ。

 手で千切り、そのまま一口食べてみると、予想以上に硬く、密度があった。

 そして全粒粉特有のもそもそ感と、口のなかに広がる酸味。

 これは……クセが強いな。

 栄養価が高く、腹持ちもいいのかもしれないが、あまり好みではない。

 ただ、噛めば噛むほど、麦の風味が増してくるので、こういうのが好きな人にはあっているのだろうか?


 口直しにチーズを齧ると、濃厚な味と独特の匂いが鼻を抜ける。

 これも結構クセが強いが、こっちは悪くない。


 というか、一緒に食べるべきなんじゃ?


 ライ麦の黒パンにチーズを乗せて一緒に食べると、酸味があまり気にならなくなって食べやすくなった。

 食感は相変わらずだが、これは結構いける。

 塩漬け肉やキャベツの漬物もあわせてみると、また違った味わいに変化した。

 キャベツの漬物も乳酸菌による発酵で、独特の酸っぱさがあったが、ライ麦パンや塩漬け肉にはあっている。


 麦酒もせっかくなので試してみると、予想に反して飲みやすい。

 そういえば昔、間違って父さんのビールを飲んだことがあったっけ。

 そのときは苦くて不味いとしか思わなかったので、正直にそういうと父さんに笑われたのだ。

 子供にはまだ早かったかとか、なんだかいっていた。

 あのビールにはホップかなにか苦味や風味づけのものが入っていたはずなので、この麦酒とは別物だろうが、僕もすこしは大人になったのだろうか……。



 気がつけば空腹も合わさってか、ぺろりと平らげていた。

 ふ~満腹だ。


 僕が食事している間に何人か客が来ていたが、みんな食堂の利用者で宿泊客は一人もいなかった。

 しかも、目当てはアイリさんのようで、胸ばかり見ている。

 男として理解できなくもないのだが、露骨すぎて下心がバレバレだ。

 あとエイラがさり気なく自分の胸を気にしていた。

 アイリさんと比べなければ、そんなに小さくはないと思うのだが、さすがに面と向かっては言えない。

 身近な人ならアイリさんが特別大きいだけだと慰めるのかもしれないけど――

 そういえば、エイラの父親どころか、他の従業員の姿も見えないが、まさか二人だけで回しているのだろうか?

 事情があるのかもしれないし、ただの宿泊客が首を突っ込むような話でもないのだろうが、この宿が万が一潰れでもしたら困るので、情報収集はしておいたほうがいいかもしれない。

 まあ明日以降でいいか。


 外はだいぶ暗くなっており、食堂にはいくつかの灯火ランプが燈されていた。

 陶器製で急須みたいな形をしており、細い口から差し入れた芯が中の油に浸されている。

 ひとつひとつの火は小さく、あまり明るくは無いのだが、ゆらゆら揺れる火の光はどこか幻想的な光景を作り出していた。


 お腹が満たされたると、今度は一気に眠くなってきたなあ。

 だけど寝る前に風呂に入って汗を流したい。

 方法は二つ。

 一つは公衆浴場だが、遠いし、暗くなってから出歩くのは危険だ。

 二つめはこの宿でお湯を頼むというもの。

 だが大桶――普段は洗濯などにも使用されているもの――に湯を張るのは大変で、時間や料金もかかるらしい。

 というわけで今日のところは手桶にお湯を一杯頼んで体を拭く程度にしておこう。

 食器を片付けにきたエイラに話を通すと、部屋に持って行くと告げられたので、さきに二階の部屋へ向かった。


 部屋は寝台がひとつあるだけの簡素なものだが、清掃はばっちりのようだ。

 ただし寝台は藁を詰めた上に厚手の毛布が敷いてあるというものだった。

 藁って……。

 思わず〈森羅万象〉で調べてみると、幸いにも藁は詰める前にちゃんと干してあり、この藁に換えてから僕が一人目の利用客ということもあってかノミなどは湧いていないようだ。


 宿選びで清潔さを条件に入れておいてよかった。


 もし安宿の藁で雑魚寝することになってたら、とてもじゃないが眠れなかっただろう。

 ちなみに一部の高級宿や貴族の邸宅などを除けば、藁の寝台が普通みたいなので、ほかの一般宿を選んだ場合も似たようなものしかない。

 しばらく藁の感触を確かめていると、エイラが湯桶や手拭い布、歯磨き道具などを持ってきてくれた。

 エイラはお湯の処理方法(一階の便所から下水に流すらしい)や、水周りの利用法などに関して一通り説明すると、おやすみなさいと言って部屋を出た。

 僕はというと正直眠気で頭が回らなくなってきていたので、ぼんやりと返事し、睡魔と闘いながらなんとかすべての用を済ませると、すぐに意識を手放した。

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