第24話
窓際の端、東の壁の一番北側、店内が見渡せる場所に座っているから、ふたり組の女の人が階段を上がって来るのも見えたけれど、姿が見える前に大きな話し声が聞こえて来て、姿が見える前に女性がふたり来ることはわかっていた。僕の目の前の席に座ることを決めると、奥(僕と向かい合わせになる側)の人が白いコートを脱ぎ、パンツルックの黒いスーツを着ていて、灰皿を持って来たもうひとりは(灰皿とトレイを置いた後、手前の席に大きな鞄を置き)、フェイクファーの付いた(これも白い)コートを脱ぐとタイトで股上の浅いジーパンに(冬だというのに)ノースリーブのシャツを着ていて、椅子に座ると猫背の肩にシャツが上にずれ、ジーンズのパックリと開いた口から下着が見えた。「疲れたよねぇ」と元気な声で言ったのはスーツのほうで、広く開いたジャケットの胸元にはオフホワイトのシャツが見え、アップにまとめた(金髪に近い)髪からピンヒールの靴まで線の細い印象を与えられたのだけれど、声は酒と煙草でやられたような枯れた声で、ハスキーボイスに僕は弱くて、嫌いじゃない、というよりも好きだ。鞄から煙草ケースを取り出し、一〇〇円ライターで火を点けている途中にジーンズのほうが「靴脱いでいい?」と訊いて、スーツの返事を待たずに脱いだ途端、椅子にあぐらをかいた。僕はこういうところで女の人があぐらをかくことは気にならなくて、石田は女の人があぐらをかくのも、電車の中で化粧をするのも「だらしがない」と言って嫌がっていたのだけれど、女の人だってあぐらをかいたほうが楽なときだってあるだろうし、車内での化粧も、あれだけ揺れていても器用に化粧をしてゆくのを感心してしまって、「だらしがない」と感じるよりも、なんだか大道芸人のジャグリングと同じ感覚で見てしまう。
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