第20話

 もうすぐ十一時で、二時間ほど電話で話していたのだけれど、明日は仕事もあるし、眠るために布団を敷き始めると、電話の途中に感じた『話題を見付けられない』不安が消えていたことに気が付き、ほぼ同時に『息を吸い込む音だけの留守番電話』について美香に訊くのを忘れていたことに気が付いて、(美香が吹き込んだものならともかく)美香に訊いても解決することではないし、明日会ったときの話題にしようかとも思ったけれど、どうせ忘れているだろうから考えるのを止めて、布団を敷き終えた。

 あくびと「眠い」と「寒い」を繰り返しながら今日最後のコーヒーを作り、布団の上であぐらをかきながら何を考えるでもなくぼうっとしていて、(何かは考えていたのだろうけれど、言葉にするのが難しく、言葉にする前に別の考えが浮かんできて、やっぱり「あやふや」だとか「曖昧」だとかいった言葉が適当で、「ぼうっとしている」ということに間違いはないと思う)二本目の煙草を揉み消して立ち上がり、あくびと「寒い」を繰り返しながらトイレに行き、台所で歯を磨き、部屋に入って目覚し時計をセットした後部屋の明りを消して布団に入った。

「おやすみなさい」と口にした途端に陽子ちゃんを思い出して、もう一度(目を瞑った後に)「おやすみ」と言った。

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