第16話
代田橋駅から甲州街道まではすぐなのだけれど、夕飯を買うために途中のローソンに寄って(食欲がなかったから)サンドイッチとゼリーを買った。このローソンは上京したばかりの頃はなかったのだけれど、ローソンのできる前にどんな建物が建っていたのかは忘れてしまっていて、その先で工事を続けている場所も、工事をする前に何が建っていたのかがよく思い出せない。家に帰って地図を見れば(公共施設のようなものだったから)建物の名称だけでもわかりそうだけれど、もし地図を見て確認したとしても建物自体を思い出すことなどできないだろう。
甲州街道の中央分離帯にも以前はなにもなかったはずなのに、今では防音のためなのか壁ができていて、いつのまにか違和感がなくなった。なくなったものを思い出すのは難しいと、歩道橋を渡り終えて中央分離帯の壁を見ようとすると、壁がなくなっていて驚いた。つい最近まで中央分離帯に防音壁のような壁があったのに、ここ数日の間になくなったらしく、「壁ができる以前」になっていて、思い出そうとしていた景色が目の前にあった。以前と同じ向こう岸が見渡せるようになっているのを見ると、今度は中央分離帯にどんな壁があったのかを思い出せなくなってしまった。切断面がYの字になっていて、Yの縦棒が極端に長い(三メートルくらいの)防音壁だったということを思い出したのは家の階段を上がっている途中で、甲州街道を越えてから家の階段に辿り着くまでに何を考えていたのかはすっかり忘れてしまった。
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