第63話 飛来してきた者
ヒナヒコたちは、『ウイーナ』の町を一望できる丘に戻ってきていた。
誰の表情も、一様に暗く沈んでいる。
「『ウイーナ』の民3764名。生存者は……なしだ」
なんとか、絞り出すように口にしたホーメルもまた、その表情は険しいものだった。
ホーメルは、町を覆う大量の黒い虫をみる。
大半はヒナヒコが殺しているが、それでも、まだ生きている虫は何匹といた。
「……これだけの量の『暴走(カタストロフィ)』何か兆候のような報告はあったか、ネット」
「いいえ。まったく。『ウイーナ』周辺には強力な魔物の死骸が放置されていたので、『暴走(カタストロフィ)』が発生しやすい条件はありましたが、ちゃんと間引いていました。それに、あれだけの数です。さすがに、見落としがあっても気づけていたと思います」
「だよな……じゃあ、考えられるのは『ダンジョン』からの暴走だが……」
「あの方が『ダンジョン』の暴走を見逃すとは思えません。仮に『暴走(カタストロフィ)』が発生した場合は、すぐに情報を共有するはずです」
「つまり、あと考えられるのは……人為的な何か」
「人為的とは……魔物を『暴走(カタストロフィ)』させる術など聞いたことがありません」
「聞いたことがないことをしでかす奴なら、私たちの周りにもいるだろ?」
そういって、ホーメルは座り込んでいるヒナヒコに目を向ける。
「……僕がやったと言いたいんですか?」
ヒナヒコは顔を上げる。
同時に、風が吹いた。
一迅の、強風。
それだけで倒れそうになる風を受けて、しかしホーメルは怯むことなく言葉をつなぐ。
「いいや。そんな事は思っていない。そんな、泣きそうな顔をしている奴があの町を襲ったなんて考えていない」
泣きそう、と言われヒナヒコは反射的に顔を隠す。
「じゃあ、どういう……」
「ズィルバ様が先日、元ヒナヒコの仲間と思われる連中と会っていたが、知っているよな?」
「……ああ、食事の時に軽く話が出ましたね」
「その中で、『暴走(カタストロフィ)』を引き起こせる奴はいなかったか?」
ホーメルの問いに、ヒナヒコはしばし考える。
「僕達の『力』に、『暴走』なんて『力』はなかったと思います」
「『暴走』じゃなくても、『魔物』を増やすような力はどうだ」
「そうですね……たとえば、『繁殖』とか、『増加』とか」
ホーメルとネットの再度の問いに、ヒナヒコは下げていた顔を上げる。
「そんなヤバそうな『力』があったら、兄さんが注意していたと思います。でも、そんな『力』……」
カグチから受けていた注意を思い返していると、一つひっかかりを覚えた。
ヒナヒコは、じっと『ウイーナ』をみる。
黒いモノに覆われた町。
蠢いていたのは、黒い『虫』
「……そういえば」
つながった、一つの情報を口にしようとしたときだ。
「隊長! 何かがこちらに向かって飛んできています」
周囲を警戒していたホーメルの部下の一人が、慌てて空のほうを指さす。
そちらに目を向けると、鮮やかな色の大きな昆虫が一匹、飛んできていた。
大きさは、馬車くらいはあるかもしれない。
昆虫は、羽音とたてながら、ヒナヒコたちがいる丘に降りてくる。
「『目』で見ていたけど、やっぱり綺麗な女騎士ばっかりだ。いいよなぁ、イケメン君は。やりたい放題で」
昆虫の上では、一人の少年がヒナヒコをにらみつけていた。
少年の名前は、耕地 孝治(こうち こうじ)。
ヒナヒコが聖地から追い出した少年であり、そして、ヒナヒコがカグチから聞いていた『警戒すべき力』を持っている。
コウジの力は、『蟲王の力』
「まぁ、今から越えてやるよ。僕はやられたらやり返すんだ。特にイケメンには。そう決めている。これから、やっと、僕の『逆襲』の始まりだ」
コウジの周囲の空間から、ワラワラと黒い虫たちが沸いて、出てきた。
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