第50話 兄への道
「……いい性格をしているな」
「何か?」
「いや。いい。それより道中でも少しだけ話を聞いたが、その兄さんに会うために『ゾマードン』に行きたいってことだったな」
「ええ。なので船に乗せてもらえると助かるのですが」
ズィルバが軽く手を振ると、料理が運ばれてくる。
肉や野菜。
量はありそうだ。
一番多いのは魚だろう。
塩焼きから煮付け、スープまである。
ケイナがささやくようにヒナヒコに訪ねる。
「お飲物は?」
「お酒以外で、飲みやすいモノを」
ヒナヒコの返答に、ケイナはくすりと微笑む。
「では、『ダリーネ』の果汁はいかがでしょうか? 爽やかな酸味と甘みでございます」
「じゃあ、それで」
ケイナはオレンジジュースのような飲み物をヒナヒコの杯にそそぐ。
赤みが強いオレンジ色だ。
差し出された『ダリーネ』の果汁を飲んでみる。
(……オレンジジュースだな。ちょっとリンゴっぽい感じもあるか?)
しかしおいしい飲み物である。
さすがに仙桃の果汁には勝てないが。
軽く湿られせる程度に口を付けると、ヒナヒコはそっと杯をおく。
「……『ゾマードン』への船だがな」
そのタイミングで、ズィルバが話を切り出した。
「しばらくは厳しいかもしれん」
「……というと?」
「『ゾマードン』への客船が二日前に出たばかりでな。次に出るのが春頃だ」
「……春?」
今、『フォースン』は初夏だ。
次の春となると、ほとんど一年待たないといけない。
「それは……いくらなんでも遅すぎませんか?」
疑うような目を、ヒナヒコはズィルバに向ける。
「気持ちはわかる。申し訳ないが『フォースン』と『ゾマードン』が交易をするようになったのはここ最近でな。そもそもの便数が少ないのだ。それに『ゾマードン』は寒い」
「寒い?」
「ああ。『ゾマードン』は秋頃には雪が降り始める。それに合わせて海上には大型の魔物が出てきてな。とてもじゃないが交易が出来る状況ではないんだ。だから秋と冬は船が出ない」
ヒナヒコに与えられた知識は主に『フォースン』のモノで、それさえも一般的な知識のみだ。
ヒナヒコには『ゾマードン』の情報はほとんど無い。
北にあるということだけだ。
ズィルバの言う『ゾマードン』の情報が正しいか、判断することが出来ない。
「客船以外にも、商船に乗るという手もあるが、俺から話を付けられる商人はすでに『ゾマードン』に向けて船を出している。一応聞いてみるが、別の船を『ゾマードン』に向かわせるのは難しいだろう」
「……別の商人に話をしてというのは……」
「俺からは何とも言えないが、正直オススメしないな。何の後ろ盾もないのに、今の時期に『ゾマードン』行きの商船に乗せてもらおうとしたら、ほぼ確実に中央につれて行かれて『奴隷』にされる」
「……奴隷?」
不穏な言葉が出てきた。しかしズィルバはそこには触れずに流すように話を続ける。
「中央は『自由』の国だからな。で、俺からの提案としては、『国の船』がある」
「『国の船』?」
「ああ」
くいっとズィルバは杯をあおる。
「ヒナヒコが協力してくれるなら、早ければ一ヶ月くらいで国が保有している船でヒナヒコを『ゾマードン』に送り届けることが出来るかもしれない」
「一ヶ月……」
ヒナヒコとしてはすぐにカグチと会いたかったが、再会するためには数ヶ月がかかるだろうとは思っていた。
それが一ヶ月なら早い方だ。
「でも、なんで一ヶ月なんですか?」
「許可がいるからな。『王』と、それにもちろん『ゾマードン』の『シャフラー卿』にもだ」
「その許可に一ヶ月?」
ヒナヒコの問いにズィルバは手に取った骨のついた肉を囓りながら答える。
「まぁ、それでも早いほうだ。普通は許可なんて出ないからな。そのためにヒナヒコの協力がいる」
「……協力って何をすればいいんですか?」
ズィルバはその問いにニヤリと笑う。
「魔物退治だ」
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