第40話 忘れていたこと
全速力。
人生で今まで出したことがないような速度を出しながら、ミヤトは先ほどまでの出来事を思い返す。
(ありえないだろ……ありえないだろ!!)
LV.23
『遊技(ゲーム)』のはじまりとしては、そのレベルは、強さは、十分すぎるものだっただろう。
しかし、異世界での生活が始まって……いや、始まる前に、ミヤトのレベルを大きく越える存在が現れた。
Lv.129の同級生。
龍石 流。
ナガレが見せた力は、ミヤトの夢を打ち砕くのに十分すぎるモノであった。
学校では冴えない自分。
決して主役ではない、わき役の目立たない人生。
そんな人生が、異世界で手に入れたチートな力で無双し、変わる。
無双の夢想。
そのような事はミヤトの人生では決して起こらないのだと、教えられた。
なのに。
それなのに。
(なんで……あんな強いドラゴンが、簡単に負けるんだよっ!!)
隕石のように炎を降らせるドラゴンが、ミヤトの目の前で簡単に負けた。
吹き飛ばされた。
『風の力』の持ち主に、冬去 火那彦に。
(SSの力……『風の力』なんて、どう考えてもハズレのチートだろ!? ただ『風』を起こすだけだ。普通に考えたら、『竜王』や『遊技(ゲーム)』に勝てるはずがない……逆に! それが最近のテンプレだろうが!!)
訳が分からなかった。
異世界でチートな能力をもらう展開のゲームや物語に慣れ親しんでいたミヤトには、なぜ『風の力』がここまで強大なのか、理解出来なかった。
(それに……あの『風の力』にレベルの表記がなかった……レベルも表示されないのに、なんで……)
自分の『遊技(ゲーム)の力』によるレベルの表示が無かったことも、ミヤトの困惑に拍車をかけていた。
ミヤトがどう目を凝らしても、ヒナヒコにはレベルが表示されなかったのだ。
「……はぁ……はぁ」
明らかな空気の変化を感じ、ミヤトは足を止めた。
数メートル後ろでは、植生が明らかに変わっている。
聖域を抜けたのだ。
ヒナヒコは『聖域』から出て行けと言っていた。
ここまでくれば、一応ヒナヒコの命令を聞いたことになろうだろう。
周囲を見れば、同じように判断したのだろう。
肩を上下に揺らしながら、足を止めている者が何人もいる。
「……よう」
足を止めている中に、ミヤトは友人達を見つけ声をかける。
ツヨシもアユムもシュウも、近くにいた。
「……ああ……皆無事だったか」
「うん……怖かったけど」
走って暑いはずなのに、まるで凍えるように震えている。
命の危険を感じることなんて、今までの人生ではなかったのだ。
それがこの十数分で2回もあった。体と心は、困惑しかない。
ツヨシやアユムと同じように震えているシュウは、荒く呼吸しながら『聖域』の方を見ている。
いや、正確にはそこにいる『風の力』、ヒナヒコを見ているのだろう。
「……なぁ、もう少し離れないか? ここは多分聖域じゃないんだろうけど……」
シュウの意見に反対はない。
ここが『聖域』ではないとミヤト達が判断しているだけで、実際はどうなのかわからないのだ。
ミヤト達が歩き始めると、同じように他の者達も『聖域』から離れ始める。
「……竹みたいな植物だな。ここは東の方みたいだし、俺たちと同じような国なのかもな」
シュウが生えている植物に触れ、思案するように言う。
「……なぁ、これからどうする?」
ツヨシが、ミヤトたちに聞いた。
「……ツヨシは王都の方にいって、チートで無双したいんだっけ?」
アユムは笑っていたが、その笑いに力はない。
ツヨシはアユムの言葉に少しだけ不快そうに顔をゆがめるが、しかし、反論はしない。
「そうだな。でも、あんなの見せられたらな……」
自分たちよりも圧倒的な強者の戦い。
それは、どれほど己が小さな存在であるのか見せつけられるような感覚があった。
「せっかく『Fの力』を手に入れたのに……」
ぽつりとアユムがこぼすようにいう。
自ら並び、選び、手に入れた『Fの力』
ハズレに見えて、実は強いチートのような力だと思っていたのだが……本物のチート(強者)が相手では、ただ震えるだけだった。
「役に立たない」
ツヨシの言葉が毒の様にしみこむ。
不要なモノを自ら選んでしまったのではないか。
その後悔の念。
「……いや、違う」
力のない声で会話していたツヨシとアユムに、力を込めた声がかけられる。
シュウだ。
「ツヨシも、アユムも、ミヤトも……俺もだけど、この力が欲しいって選んだんだ。この力を使いたいって思ったんだ。違うか?」
シュウは、拳を握ってみせる。
「『Fの力』……弱そうだけど、強そうだって、『工夫すれば強くなれそうだ』って思ったから選んだんだろ? 俺たちはまだ『工夫』も『努力』もしていないじゃないか」
ミヤトはシュウの言葉を聞いて、恐怖で震えていた体に何か暖かいモノが流れた気がした。
氷が溶けるように、目に涙が貯まっていく。
「……そ、そうだな。俺たちは何もしてない。まだ、何もしていないんだ」
ツヨシも、声が震えていた。
恐怖ではない。感動で、だ。
「ツヨシ……泣いてるよ。はは」
「お前もだろ、アユム」
「……まあね」
4人は声をそろえて笑った。
緊迫していた空気が緩んでいく。
「でも、だってシュウがこんな感動的なこと言うと思わなかったから」
「そうだな、俺も驚いた」
ミヤトはシュウに礼を言う。
「ありがとうシュウ。シュウの言うとおり、力を選んだとき、『遊技(ゲーム)の力』で、何も考えずに無双できるなんて思っていなかった。『工夫すれば面白いぞ』って思っていたんだ。『遊技(ゲーム)の力』でレベルなんて見えていたから忘れていた」
「……え? ミヤト、レベルなんて見えていたの? てかレベルがあるの?」
「実はな」
「それ、早く言えよ」
不満そうにしているツヨシに、ミヤトは軽く謝罪する。
(でも……そうだな。そういえば、俺は『遊技(ゲーム)の力』で面白くできるって思っていたんだ。強くなるとか、無双できるとかじゃない)
なら、どうすればいいだろうか。
この世界を面白く。
(この異世界『アスト』に面白い『天啓』を。これからはそれを考えよう。皆で……ツヨシと、アユムと、それにシュウ。4人で……)
ミヤトは拳を握った。
それ見て、シュウも、ツヨシもアユムも、同じように拳を握り、互いに突き出す。
それそれ相手の様子を見て、目だけで合図をおくり、シュウがうなずく。
「じゃあ、行こうぜ。皆。俺たちの冒険はまだこれからだ!」
「おう!」
声をそろえて、4人は拳を高く突き上げる。
「って、まるで打ち切りされる少年マンガみたいだね」
ははとアユムが笑う。
そのときだった。
赤いモノがミヤトの視界に広がった。
何が起きたのか。
アユムの額が赤くなっている。
ツヨシもだ。
だから、恐らくミヤトの額も赤いのだろう。
額から、ゆるゆると暖かい液体が落ちていく感覚がある。
「……シュウ?」
アユムの声だ。
「…………え?」
シュウが握っていた拳を開いている。
その顔はなぜだろうか、驚いたような、戸惑っているような顔している。
「……んぁ」
トンと何かに押されるように、シュウの下半身だけがミヤト達に向けて落ちてきた。
シュウの下半身が地面に落ちると、ゆるゆるとミヤト達の額についた赤いモノと同じモノが流れていく。
それは、つまり血液だ。
シュウの、命だ。
「ルルルル」
シュウの上半身が、放り投げられた。
バチャバチャと赤色の物体と液体が飛んで散る。
そこで、ようやくシュウの後ろに何ががいたことをミヤトは理解する。
(……そうだよ。いたんだよ。この世界にはコイツらが……)
シュウが立っていた場所にいたのは、痩せた牛のような生き物だった。
『シュティア』
頭に生えた2本の角で獲物を切り裂く魔物だ。
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