第38話 『風の力』
「……へ、ガイテツ?」
「何、何があったの、今?」
吹き飛ばされたマモルを見て、アイリとヒマリは事態を理解できずに困惑している。
「な、ナガちん! どういうこと、これ。いったい何が……」
「うるせぇ!!」
困惑し、動揺する二人をナガレは一括する。
その声だけで、風が起き、アイリとヒマリはその場で腰を抜かしてしまった。
「ご、ごめ……ナガち……」
「……ったく。俺の配下ならそんな情けない姿を見せるな。俺たちはこれから世界を……」
「世界をどうするの?」
「うおっ!?」
いつの間にか。
ナガレの足下にまで、ヒナヒコは近づいていた。
ヒナヒコの接近に気づいていなかったナガレは、その大きなドラゴンの体が倒れそうになるほど、のけぞってしまう。
「ははっ……そんなデカい図体して、貴方もビビっているじゃないですか。それより、世界がどうとか、国がどうとか偉そうなこと言っているけど……誰に許可をもらったんですか?」
「……許可?」
「そう。さっきも言ったけど、このチームのリーダーは僕です。だったら、何をするにもまずは僕の許可をもらえよ。は虫類」
中学生。年下。小さい。人間。
そんな矮小な存在に、見下ろすべき存在に、上から目線で発言されている。
許されるだろうか?
答えは、否だ。
「死ね! ガキが!!」
ナガレは鋭いナイフのような爪をヒナヒコに向けて振り下ろす。
ナガレの爪は、地面を一メートル以上えぐりとった。
大量の砂が舞う。
しかし、そこにヒナヒコの姿はない。
「どこ叩いているんですか?」
声が聞こえた。
物理的に、上から。
ナガレは自分の頭上を見上げる。
そこには、ヒナヒコがいた。
「なんだと……!?」
「よっ……と」
「ガッ!?」
(な、なんだ!? 堅っ!! この衝撃っ!?)
ヒナヒコが腕を振るうと、見えない何かに、ナガレは押しつぶされる。
立っていることなど出来なくて、そのまま地面に倒れてしまう。
「……ふう。なんだっけ? こんなゲームあった気がする。は虫類を上から叩くゲーム。兄さんとやってたなぁ」
倒れているナガレを見て、懐かしむようにヒナヒコが言う。
「こ……このやろう」
自分に何が起こったのか、ナガレは理解出来ていなかった。
ヒナヒコの力が『風の力』であることを、ナガレはもちろん知っている。
しかし、先ほどの攻撃が『風』であるなどナガレは到底思えなかった。
それほどまでにヒナヒコの風は、『風の力』は堅すぎたのだ。
「くそが……いいぜ。消し飛ばしてやるっ!」
「ちょっと、ナガちん! そこだと私達にも当たるっ!」
「向きを変えて!」
アイリとヒマリの声など、ナガレの耳には入らなかった。
ナガレは大きく口を開ける。
高校生達を畏怖させた炎のブレス。
隕石のように炎を降らせる必殺の一撃。
「……飛べ、は虫類」
数十本並ぶ、ナイフのような牙が迫ってきても、その奥に灼熱の業火が蠢いていても、ヒナヒコは恐れることなくナガレに手を向ける。
メキリと骨の折れる音がした。
折れたのは、ナガレの牙だ。
「ガァアアアア!?」
(こ、これは……風か!? こんなに堅い……)
ようやく、ヒナヒコの攻撃の正体をナガレは悟る。
最も、それは遅すぎたが。
牙を数本折りながら、ナガレが吹き飛んでいく。
体を人間の姿に戻しながら、マモルの横にナガレが倒れた。
ピクピクと痙攣し、意識はないだろう。
「は虫類退治終了、っと」
パンパンと、ヒナヒコは軽い掃除を終えたように手を払った。
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