第36話 龍石 流

自分は『上』の存在だと理解したのは、いつだっただろう。


小学校の高学年の時には、同級生のほとんどは『下』にいた。


そして、中学生になり、身長が伸び、『力』がつくと、大人でさえ、『下』になった。


少しでも大きな声を出せば皆萎縮する。


睨めば目に涙を浮かべるし、胸ぐらを掴めば言うことを聞いた。


自分は、『上』なのだ。


そう、この『アスト』でも。


『竜王の力』を得た自分は『上』なのだ。


龍石 流(りゅうせき ながれ)は、上体を起こし、改めて自分とは何かを考え、理解した。



理解して周りを見ると、自分とただ同学年というだけの存在である同級生たちが、起き上がり始めていた。


「起きたか? ナガちん」


「……ああ」


その同級生の中でも、一応、ナガレの友人という部類に位置している、凱鉄 護児(がいてつ まもる)が、声をかけてきた。


「……マジで別の世界に来たんだな。見ろよ、コレ。カッコいいだろ?」


マモルが胸元に触れると、着ていた制服が金属の白い鎧に代わる。


「そして……こうすると……」


白い鎧が、様々な色に変わる。


これがマモルの得た『鎧王の力』だ。


マモルはどうやら鎧を身につける事に喜びを感じているようで、『アスト』に来る前に興奮した様子で、身につけている鎧を皆に見せていたのだ。


「わかったわかった。良かったな。カッコよくて」


「ああ。俺だけ『Aの力』だったからな。でも、カッコよさは俺が一番だろ、な?」


なんともマヌケそうな顔で、マモルがナガレに同意を求めてくる。


カッコよくて、どうなるというのだろうか。


(単純でバカだから、一番扱いやすいと思ってコイツと同じグループにしたけど、失敗だったか?)


無邪気そうに、ヘラヘラ笑っているマモルをみて、ナガレは小さく舌打ちをする。


ナガレたちのグループは、皆AかSの力を得ていたので、グループ分けの時、順番が最後の方だったため全員が同じグループになれなかったのだ。


(……コイツ等もいたからな)


「あ、いた。ナガちん」


「おお、ヒマリちゃんとアイリちゃん」


「げ、ガイテツもいるの?」


パーマをかけて、髪を明るく染めている同じクラスの女子たちが話しかけてきた。


『杖王の力』 丈 陽茉莉(たけ ひまり)


『縄王の力』 亀糸 あいり(かめいと あいり)


学校では、ナガレたちのグループと仲良くしていた女子たちだ。


どうやらナガレに気があるようで、デレデレとした顔で挨拶を返したマモルと無視して、ナガレをのぞき込むようにすり寄ってくる。


「ねぇ、ねぇ。ナガちん。これからどうするの? 何か考えているんでしょー?」


「ナガちん悪い顔しているよ?」


「……まあな」


ナガレは二人の女子生徒の頭に手を置く。


ナガレにとって、ヒマリもアイリも、少々見た目の良い異性の同級生でしかない。


嫌悪感を覚えない程度の容姿だから、相手にしてやっているだけだ。


もっとも、好意を持たれているということは、手駒としては実に都合がいい女たちであることは間違いないのだが。


(これからやること考えると、駒はあった方がいいからな)


ナガレは笑みを深める。


(それまでは適当に相手をしてやるよ。俺にふさわしいのは……まぁ、ここに来ている連中なら、常春 埴撫か、アイツくらいだからな)



ナガレは、ヒマリとアイリの頭をなでながら、一緒に来ている生徒たちから、一人の女生徒に目を移す。


他の生徒が周囲を探るようにしている中、彼女だけはただ、空を見上げていた。


金星 輝香(かなぼし みか)


黒い長い髪を持つ、神秘的な美少女。


金星神社の巫女をしているという彼女は、噂では『未来』を見ることが出来るらしい。


(マジで『未来』を……『予知』出来るかは知らねーが、あの見た目は合格だ。ハナは出るところが出ていたが、ミカは華奢な分、簡単に壊せそうな所が良い。学校……というか、あっちの世界だと、カケルがいたから俺の女にする機会がなかったが)


金星 輝駆(かなぼし かける)


ミカとは違い、長身のカケルは、ナガレと同じクラスで、ミカとは双子の弟だ。


ミカに接触する機会を得るために、カケルに話しかけていたのだが、何というかガードが堅く、ミカに近づく機会はなかった。


(俺と話しても、ビビる気配が全くなかったからな、カケル……俺より身長も高かったし。くそ、思い出してきたらイライラしてきた)


そんなカケルは、今は別の場所にいる。


(マダラメと一緒に、北の方にいるはずだ。まぁ、アイツ等は俺の計画に邪魔だったから、ちょうど良い)


ナガレは、マモルも含め、三人に話しかける。


「いいか? 今から俺たちは、全てを手に入れる」


そう聞いただけで、三人は笑みを浮かべるのだった。

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