『風の力』の使い方

第35話 プロローグ


 ゲームが好きだ。


 だから、ファンタジーが好きで、勇者が好きで、魔王が好きで、魔神が好きで、剣が、魔法が、魔物が……大好きだ。


 ゆえに彼、夕聞 観弥斗(ゆうぎ みやと)は、『遊技(ゲーム)の力』を手に入れた。


 サンジョウが『軟体(スライム)の力』を手に入れたすぐ後に並んで手に入れた『遊技(ゲーム)の力』は、彼が思っていたよりも少々期待はずれな能力であったが、しかし現実的に『遊技(ゲーム)の力』を考えると、妥協出来るモノではあった。


「コレがあるし」


 異世界『アスト』に移動し、目を覚ましたあと、仲のいい友人達と集まりながら、彼は自分が言うコレを眺めていた。


 準備で手に入れた、装備品とお金だ。


 聖光の剣


 聖闇の盾


 聖炎の外套


 聖水の衣


 お金 100,000ロラ


 100,000ロラは、百万円くらいの価値がある。


 これだけあれば、しばらくは生活に困らないはずだ。


「なぁ、これからどうする?」


 彼の友人の一人である『合体の力』の持ち主である大賀 剛 (たいが つよし)は興奮した様子を隠さずに聞いてくる。


 ツヨシもまた、ミヤトと同様に、ゲームのような異世界が大好きなのだ。


「……そうだな。とりあえずここは安全地帯みたいだし近くで魔物を倒しながら、じっくり進むか?」


「はぁ? なんだよそれ。そんなかったるいことしないで、一気に王都まで行こうぜ。そしてバンバン魔物を倒してレベルを上げて成り上がろうぜ!」


 ツヨシの意見を、隣で聞いていた『交渉の力』の持ち主である、湖沼 歩(こしょう あゆむ)が小さな声で否定する。


「レベルって、この世界にレベルの概念はないよ?」


「はぁ!? そうなのか?」


「インストールされている知識をもう一度確認しなよ。レベルなんて存在していると思う?」


「いや、でも俺たちが知らないだけで、実は……」


「一般人が知らない概念なら、それはないってことじゃない?」


 アユムとタイガの話を聞きながら、ミヤトは笑みを隠せないでいた。


(レベルがない? それは……)


「なんか悪い顔しているな」


 ポンと肩を叩かれて、ユウギは振り向く。


 ユウギの肩を叩いたのは、『転職の力』を持っている 転裏 秀羽(かくり しゅう)だ。


「いや、べつに」


「……確か、ユウギの力は『遊技(ゲーム)の力』だったよな? もしかして……」


「そうだな。じゃあ……」 


 ミヤトが、シュウに自分の力を教えようとしたときだ。


「おまえらぁ! 聞け!」


 ミヤト達が座っている場所よりも少しだけ高くなっている丘の上に、人が立っていた。


 4人。


 彼らを見て、ミヤトは息を飲んだ。


 4人はミヤトの同級生だが……しかし、ミヤトが見ている光景は、絶望そのものだった。


(嘘だろ……こんなこと……)


 ミヤトは自分の体をみる。


 少しだけ意識すると、ミヤトの視界に数字が表示された。


『Lv.23』


 これが、ミヤトの『遊技(ゲーム)の力』の能力だ。


(……たぶん、このレベルは強さを表している。準備で手に入れた武器や防具を4つ装備している俺のレベルは23。けど、3つしか装備していないツヨシは18。2つのシュウは13)


 では、丘に立っている4人のレベルはいくつか。


(……69、74、77……そして)


「俺たちは今から、この世界を支配する。『王』は、もちろんこの俺。龍石 流(りゅうせき ながれ)だ。お前たちには選ばせてやろう。俺に従い、栄誉ある配下になるか。それとも……」


 4人の中でもリーダーなのだろう。


 ナガレの数字は、他の3人よりも飛び抜けていた。


『Lv.129』


「俺に逆らい、ここで死ぬか……だ」


 ナガレは、明らかに見下した目でミヤト達を見ていた。

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