第34話 エピローグ

「……これは『モッテ』か」


カグチは、木に実っているカキのような果物をちぎる。


ここは『シャフラーの港町』の近くの森。


カグチはそこで、日課となっている採取に出かけていた。


「……一時間でこれか。やっぱり厳しいな」


どうやら、聖域の周りの森は、かなり実りが豊かだったようで、収穫は半分にも満たない量しかとれない。

これでは、この『シャフラーの港町』で宿泊し、食事をとるのは難しいだろう。

『シャフラーの港町』にあるホテルは、どんなに安くても一人で部屋をとれば一泊2000ロラはする。


「……まぁ、精神的にはだいぶ楽になった気がするけど」


その理由は、カグチの周りだ。

今のカグチの周囲に、魔物の焼死体はない。

代わりにいるのが、一匹の火の小鳥。

意識を取り戻してから出せるようになったこの小鳥は、いるだけで魔物を寄せ付けない能力を持っていた。

なぜ寄せ付けないのか、カグチにもよく分からないのだが。

『我の分体が亀ごときと同じ事が出来ぬわけがなかろう』


そんな声が聞こえた気がした。

カグチは周囲を見渡すが、何もいない。

火の小鳥も、ただそこにいるだけだ。


「……最近、変な声が聞こえるんだよな。気のせいか。とにかく、ショーに出させてもらえるようになって、よかった」


カグチは、もう何度目か分からない感謝を、ここにはいないズニュに向けて言う。


カグチのショーは大好評で、あれから出演の依頼が絶えなくなった。


ホテルには泊めてもらえるようになったので宿の心配はない。

それどころか、出演料を追加でもらえるようになったのだ。


採取ができなくなる冬が来ても、蓄えだけで十分カグチは生活できるだろう。


「それどころか、船にも乗せてもらえるしな」


春になれば、世界一周旅行の客船に、乗せてもらえる話も来ている。

条件は、客船でショーを開催することだ。


まだ、ヒナヒコや友達と連絡が取れていないため、確約はしていないが、連絡が取れたら、その客船で皆を回収していけばいい。


「……ありがとうな、お前のおかげだ」


カグチは、白い杖に向けて、言う。


白い木が楽しんでいたショーで、カグチは生活していける。


弟も、その友人とも、再会できる目処がついてきた。


『……いや、我のおかげじゃがな!?』


また、どこからか、そんな声が聞こえてきた気がした。


聞き覚えがあるような、ないような、よく分からない声だが、聞こえる頻度が多くなっている気もする。


「あー、けど、もう一つ、お礼は言っていないな。確かに。ありがとうな。『火の力』これからも、よろしくな」


『……フン』


カグチはもう、『火の力』に絶望していなかった。

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