第16話 総合組合(ギルド)

「村っていうか……やっぱり、壁があるから、城下町みたいな雰囲気はあるな」


大きさも、そこそこ大きい。


人口も、2千人くらいはいるだろう。


村の入り口は、並んではいないが、ひっきりなしに、誰かが出入りしている。


「さてと……確か、外にも狩人(ハンター)や冒険者(アドベンチャー)の総合組合(ギルド)の窓口があるはずなんだけど……」


武器を持った、皮の鎧を着た男性が二人、大きな門の脇にいる。


彼らが門番だろう。


そのさらに横に、三つのマークが入った小屋がある。


剣に、靴に、秤のマークだ。


あれがおそらく、総合組合(ギルド)の出張所だろう。


カグチは、出張所にいた、髪を七三に分けた真面目そうな男性に声をかける。


見た目は、『地球』の人と大差はない。


ただ、髪の毛の色が、違う。


男性は、濃い緑色の髪の毛だった。


こんな髪の色の人は、『地球』では染めている人くらいだろう。


(……そういえば、これ、俺のはじめての異世界人との遭遇になるんじゃ?)


「……あの」


なんて、気づきながら声をかけたカグチは、(あれ? 言葉は通じるよな? 大丈夫だよな?)とか(せっかくだし、あっちの方にいた美人なお姉さんに声をかけた方が良かったかな?)

とか、そんな思考が一瞬のうちに沸いていく。


ただ、その思考を突き詰める時間はなかった。


「……はい。どうしました?」


七三の緑色の髪の男性が、カグチの姿を認めると、にこやかに返事をしたからだ。


(……通じている……と思って良いよな? というかよく考えたら、他の奴らは馬車で旅をしているんだし、通じて当たり前か)


カグチは男性の反応を伺いながら、自分の言葉に特に問題はないと判断し、質問をつづけることにした。


「えっと……売りたいモノがあるんですが……」


「かしこまりました。どのようなモノですか?」


カグチにカウンターの前のいすを勧めてくれる。。


丁寧な人だな、と思いながら、カグチは答える。


「草……いや、薬草なんですけど。買い取りはしていますか? いろいろ、種類は採ってきたんですが……キノコや、木の実もあります」


カグチの答えに、男性は意外そうに目を瞬いた。


採取したモノを、売りにくるのはやはり珍しいのだろう。


基本的に、彼らの仕事は、村の中に持ち運ぶには、大きすぎる魔物の『討伐証明部位』や、素材の買い取りと鑑定だからだ。


「あー……そうですか。どういったモノか見せてもらっても?」


「はい。じゃあ、適当に……」


カグチは、手に持っていた、『威風の外套』で作った風呂敷から、売れるだろうな、と見込んでいるヨモギに似た草や、ベニバナに似た花を取り出す。


村が見えた位置で、『虚無の箱』から取り出して、仕分けていたのだ。


カグチが取り出した草や花を見て、男性は目を細める。


「うーん……『ハイエコリター』と『ザフロア』かな? これ。ロット、これが何か分かる?」


ロットと呼ばれた、赤い髪の、二十代半ばくらいの女性が、やってくる。


そして、カグチが取り出した草や花を見て、男性と同じように目を細めた。


「多分……そうじゃない、かな? メディに聞いた方がいいかも。あの子の専門だし」


「そうか。メディは確か、今日は外回りだったな。どうするか……」


「すぐに帰ってくるんじゃない? 外回りって言っても、今日は、あのジジイのところだから。しかも、あの子、昨日あんなことがあったし……」


そんな二人の会話を聞いていると、カグチの背後の方が騒がしくなり始めた。


カグチは、騒がしくなり始めた方を向くと、白いモジャモジャとした髪と髭を蓄えた、ちょっと汚らしいおじいさんと、青い髪の、カグチよりもおそらく若い、かわいらしい青い髪の少女がこちらに向かって歩いてきていた。


二人は、なにやら言い合いをしているようだ。


「なぁ、いいじゃろ? いいじゃろ? どんな感じじゃった? あのあと、どうなった? 減るもんじゃあるまいし、教えてくれてもいいじゃろー」


「言いません。言いたくありません。ほら、もう組合(ギルド)ですから、いい加減帰って実験の続きをしてください」


「続きって言っても、材料がないんじゃなー。それなら、おもしろい体験をしたやつから、証言を聞いた方が有意義というもんじゃろ?」


「……ああ、ウザイ!」


もう、と跳ねるように少女が足を鳴らし、それを見ておじいさんは楽しそうにニヤニヤしている。


と、二人はちょうどカグチの手前で止まった。


おじいさんは、カグチを見ると、一瞬目を見開き、そして、すぐに何事も無かったかのように目を細め、うれしそうな顔をする。


「おお、素材を売りに来たのかの? 若いのに関心関心」


「こら、新人さんの邪魔をしない。関心とか良いながら、魔物の素材には興味がないくせに」


「そんなことはないぞ? 『シュワルズスターク』の素材なら是非とも欲しいものじゃ」


「そんなもん、持ってくる狩人(ハンター)見習いがいるわけないでしょ? あの子、私より若いじゃないですか」


青い髪の子に、自分より若いと言われて、カグチは反応に困る。


どうやら、お互いに相手を年下だと思ったようだ。


まぁ、相手は異世界人。見た目の年齢が、『地球』とは異なる可能性もあるが。


(……そんな知識はないけど)


インストールされた知識を念のために洗い、人の年齢や見た目に特に知識がないことを確認する。


おそらく、異世界人の年齢と見た目は、『地球』基準で判断してもいいはず、だ。


「……ほら、いきなり絡むから、新人さん、困惑しちゃったじゃないですか」


「おおう、こりゃすまんの」


「……へ? いや、大丈夫です。ちょっとボーとしていただけなので」


「そうか。ところで、その大層な布に包んでいるモノは何かな?」


白いモジャモジャおじいさんは、カグチの返答を聞きつつ、カグチが持っていた薬草たちに興味を示す。


「ああ、ちょうどよかったウィッスンさん。この子、素材じゃなくて、薬草を売りたいってやってきていて。見てもらえませんか?」


緑色の髪の職員が、ウィッスンと呼ばれた白い髪のおじいさんに言う。


「……ほう! 薬草か! 若いのに珍しいのう」


ウィッスンは、うれしそうに目を輝かせた。


「え……えっと……」


「このウィッスンさんは、この村で薬剤師をしているの。薬草や木の実はだいたいこの人が総合組合(ギルド)から買い上げていくから、どうせなら、ね」


「ふん、買い上げるなんて、いつも売っとらんくせに何を言うか。結局必要な薬草のほとんどは、栽培したモノを商人から買うか、儂が自分で冒険者(アドベンチャー)に依頼を出して採取してきてもろうとるじゃろうが」


「あんまり採ってくる人がいないからしょうがないじゃないですか。それに、依頼の出しすぎで、どれだけ総合組合(ギルド)にツケが溜まっていると思っているんですか?」


なんて話をしつつ、ウィッスンは、総合組合(ギルド)の机の上に置かれた、さきほどカグチが職員に見せたヨモギみたいな草と、ベニバナみたいな花を手に取っていた。


「……ふむ。『ハイエコリター』と『ザフロア』で間違いないのう」


「……買い取ってもらえますか?」


カグチは、ウィッスンと、そして緑色の髪の職員をみる。


「……ええ、もちろん。二つとも総合組合(ギルド)での買い取りの対象となっている植物ですから。道沿いの雑草には中々生えていない植物ですからね」


緑色の職員は、良い笑顔をしている。


まるで、幸運でしたね、とでも言っているように。


(……あー、これ。偶然、道沿いに生えていた奴を採取したと思われているな)


それほどまでに珍しいのだろうか。


だったら、あまり大量に見せないほうがいいのか。


カグチがこれからの対処を検討していた時だ。


「……これだけか?」


と、ウィッスンが、鋭い目つきで見てきた。全て見透かしているような、鋭い目。


(……こりゃ、隠すのは無理そうだな)


ウィッスンの目に、早々と隠すのをやめることにするカグチ。


目立たないようにしながら俺ツエーもいいだろうが、カグチは別にこの村に住もうなんて考えていない。


だったら、多少目立ってもいいだろう。


それよりも、お金だ。買い取ってくれるなら、売った方がいい。


カグチは、風呂敷に入れていた薬草を次々と取り出す。


最初に見せた二つ以外にも、キノコや木の実、他の花や薬草もある。


一〇種類くらいの植物を並べると、総合組合(ギルド)の職員達も、そして、ウィッスンも目を丸くしていた。


(……さて、どうなる)


ウィッスンは、慎重に一つの木の実を手に取ると、検分を始める。


カグチが『桃』みたいだな、と思った木の実だ。


「『プロズリー』か。こっちは『モッター』この葉は『ギンゴウ』。『アンストンプリズ』もあるな」


ウィッスンが出す名前に、組合(ギルド)の職員は明らかに驚き、固まっていた。


赤い髪のお姉さん、ロットは、ウィッスンが検分を終えた『プロズリー』をみる。


「良い香り……でも、自然になっているの?」


「森の方では、見かけるって聞いたことはあるけど……」


青い髪のメディも、ウィッスンの検分を手伝っている。


「これは『ジトウネン』ですね。こんなモノまで……ん?」


メディは、なぜかウィッスンが脇によけていた根っこがついた草を手に取る。


「これは……」


「あっ! こりゃ!!」


ウィッスンは、慌ててメディが手にした根っこを取り返そうとするが、メディは巧みに距離をとり、避ける。


「これ、『カルラウネ』じゃないですか! 天然の!? 粉末じゃないの、はじめてみた!」


メディの言葉に、他の組合(ギルド)の職員達も根っこに注目する。


(あー……やっぱりレアか。それ)


何となく、葉っぱが似ていたから、切らずに引っこ抜いたが、少し白い根っこの、二股に分かれた、人のようにも見える人参みたいなモノが出てきたのだ。


白い、人参。しかも、人型。


カグチが思い浮かべた植物は、『高麗人参』。と、『マンドラゴラ』。

『地球』では、一方は最高級の漢方の材料で、もう一つは伝説の植物だ。


ここでも、どうやら二つを組み合わせたような『カルラウネ』は似たような立場の植物のようだ。

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