第11話 『火力』
「……はぁ」
ようやく、道にまで出られたカグチは、肩を落としていた。
道から外れた場所では、魔物に襲われやすい、という知識自体は、インストールはされていた。
しかし、まさか数百メートル歩く間に、こんなに襲われるとは思わなかった。
カグチが振り向くと、煙が五本、たなびいていた。
隙だらけだったのだろう、カグチの背後から襲ってきた『シュザリア』が燃えた後にも、他の『デッドワズ』や『シュザリア』が襲ってきた。
襲ってきて、皆燃えている。
『火の力』に、カウンターの能力があることは、確定だろう。
魔物達が襲ってきたことにカグチが気がついたのは、全て彼らが燃えた時だったのだから。
「まさか、魔物が全部、背後から、というか、死角から、気配を消して襲ってくるなんてな」
それは、当然と言えば当然である。
ゲームのように、魔物が正面から堂々と出てきて、ターン制でお互いに攻撃する。
なんて、決闘ではあるまいし、起こるわけがない。
彼らは、皆、野生に生きているのだ。
殺すと決めた対象には、不意打ちで一撃で殺す。
それが、正攻法であり、正義であるのだ。
だからこそ、この世界では、村にさえも、壁を建設している。
「……はぁ」
カグチは肩を落とし、道を歩く。
人が整備した道では、魔物との遭遇率が落ちる。
人が整備した道は、人の縄張りであるということだ。
だから、道を歩きさえすれば、魔物から不意打ちされる確率は下がる。
なので、もう少しカグチも顔を上げればいいのだろうが、しかし、カグチは肩を落とし、顔を下げていた。
なぜなら、カグチは落ち込んでいたから。
なぜ、落ち込んでいるのか。
魔物に五回も不意打ちされたのに、一回も気がつけなかったからか。
それもあるが、一番落ち込んでいるのは、別の理由。
「……一匹も、原型が残っていなかった」
五匹も(カグチの意志ではなく、カウンターでとはいえ)魔物を倒したのに、魔物は皆焼け焦げ、炭になっていた。
つまり、カグチは一つも報酬を得ることが出来ていないということだ。
「一番最初に、勝手にやった時より、『火力』は落ちていたみたいだけど、結局、最後まで燃やし尽くしていたからな。マジで、『火の力』って……」
出てくる悪い言葉を飲み込み、カグチは顔を上げる。
「『カウンター』の理屈は、ちょっとまだわからないし、『火力』の調整も出来ていないだけど……だったら、こっちから狩るしかない。自分から攻撃するなら、『火力』の調整も出来る……はず」
カグチは歩きながら、適当な場所を探す。
『火の力』を練習するのに、適当な場所だ。
道すがら、『地球』とは違う、草木の植生や、立てられている看板の文字に、異世界を感じながら、一時間ほど歩く。
そうして、ようやくカグチは見つける。
「あった、野営の跡」
村や町の間を移動するのは、馬車を使うのがこの世界の基本であるが、中には徒歩で移動する者も、当然いる。
そういった人たちが残した野営の跡が、道の途中にあるのだ。
なぜ、そんな場所を探していたのか。
野営をしていたということは、当然、たき火の跡があるということだ。
『火の力』を試す以上、火を使っていい場所で使わないといけないだろう。
周囲は草木が生い茂っているのだ。
下手に使うと、火事を引き起こしかねない。
(『カウンター』で燃やしてしまった魔物たちは置いてきてしまったけど……まぁ、魔物を燃やし尽くすと、火も消えていたから、多分大丈夫……だと思いたい。対象だけを燃やす力なんだろ、多分)
本当は穴を掘って埋めたかったが、道具もないのに、中型犬くらいの大きさがある生き物の焼死体を埋められることが出来るくらいの穴を掘るなんて、無理だったのだ。
(まだ火事が起きている様子はないし、とりあえず、色々試してみよう)
ちらりと、自分が歩いてきた方向、聖域がある付近にカグチは目を向ける。
煙も、もう見えない。
鎮火したのだ。
多分。
カグチは、意識を野営の跡地に目をやる。
たき火のあと以外、なにもない。
周囲の雰囲気から、昨日、今日、野営をしたわけではないようだ。
「目標は、『火の力』で、魔物の体を残して倒せるようになること。今日中に魔物の『討伐証明部位』を、三体……いや、念のために五体分は手に入れないと、着の身着のまま、外で寝ることになる。ちょっとわき道を歩いただけで、魔物に襲われるような場所で、だ」
カグチは身を震わせる。
『カウンター』があるとはいえ、それが寝ている時も作動してくれるかわからない。
意識していない時に勝手に魔物を燃やしたのだから、作動しそうではあるが、それに頼り切ることはなるべくしたくない。
それに、そもそも、野営をしたくない。
寝るなら、せめて屋根がある場所で寝たいところだ。
「……やるか」
カグチは制服の袖をめくり腕を回す。
たき火の跡に落ちていた木の枝を置き、手のひらを向けて、念じる。
(……燃えろ)
「……うおっ!?」
すると、カグチの背丈はあろう炎が上がり、消える。
「……デケェよ! バカ!」
誰に言うでもないが、カグチは思わず言ってしまう。
それほど、びっくりしたのだ。
「これは、マジで練習が必要だな」
火は、もう、完全に消えてしまっているが、同時に、たき火の跡に置いていた木の枝も完全に消えてしまっている。
どうみてもオーバーキル。
過剰な『火力』だ。
「この力をもらったときに、頭の中に流れてきたのは、燃やす対象を指定するのが、『火の力』の基本的な使い方ってことだけだ。もしかしたら、それだけ自由度があるってことかもしれないけどな」
別に、火を出したところで、疲労は感じない。
何回も繰り返せば、出てくるかもしれないが。
「……闇雲にやるんじゃ、効率悪いよな。なんか、あったっけかな。『火の力』のコントロール方法」
『異世界ファンタジー』や、マンガなどの知識で、『火の力』に関係する力のコントロール方法を思い浮かべていく。
「……ダメだ、『火力』を上げる方法は沢山あるけど、『火』をコントロールする方法は、ちょっと思いつかない」
基本的に創作物で修行するのは、今の時点で勝てない強敵が現れた時だ。
だから、今よりも、さらに強く、『火力』を高める方法ばかり表現されることが多いのは、必然だろう。
「その『火力』を上げる方法も、なんで、『燃えさかる炎に手を突っ込む』とか、脳筋なやつばっかりなんだろうな」
『火』を扱うイメージのキャラクターが、やはり熱血なイメージだからだろうか。
「……俺も脳筋なイメージなのかな、今」
カグチは、不意に、この北の大国『ゾマードン』に一緒にやってきた生徒たちの事を思い出した。
天使に、電撃の天罰を受けたカグチに対して、見せていた表情。
最後に、バイクのような乗り物で去っていった背の高い男子生徒以外、皆警戒している顔をしていた。
『なにをしでかすかわからないぞ、コイツ』
そんな、問題児を見る顔。
「……どうでもいいか、そんなこと」
もう、二度と会うかわからないような連中のことなど気にしてもしょうがない。
「それよりも、『火力』を落とす方法だ。それも、ただ『火力』を落とすだけじゃダメだ。それで魔物を狩れないといけない」
魔物を狩ることを考えると、遠距離で攻撃出来ることが望ましいだろう。
近づくと、逃げられることも、逆に襲われる事もある。
逃げられれば、当然魔物を倒せないし、襲われても、『カウンター』でオーバーキルしてしまう。
「……やっぱり、ここは定番で行くか」
カグチは右手の手のひらから五センチほど上部に意識を向ける。
(ここに、燃やすモノはない……でも、酸素がある。空気がある。炎は、気体の燃焼反応。空気を、燃やせ)
さすがは、SSランクの力。
燃やすと思えば、すぐに答えてくれる。
カグチの右手には、野球ボールくらいの大きさの火の玉が出来ていた。
「ベタだけど……『火球(ファイヤーボール)』の完成……っと」
十秒ほど、手のひらに『火球(ファイヤーボール)』を作り、維持してみたが、消える様子もなければ、手のひらに火傷も出来ない。
なんとなく分かっていたが、『火の力』を手に入れた時点で、『火』に対して耐性が出来ているようだ。ちょっとやそっとでは燃えないだろう。
「あとは、これの威力だけど……」
SSランクの『火の力』は、燃やすことに対しては素直に従うのだが、『火力』に対しては、中々言うことを聞いてくれない。
たき火の跡に、『火球(ファイヤーボール)』
を放ってみる。
カグチが思い描いたスピードで、『火球(ファイヤーボール)』は飛んでいき、たき火の跡に着弾した。
「あー……やっぱり」
昼間だというのに、カグチは生まれた光源に目を細める。
軽く、4~5メートルほどの高さにまで昇った火柱は、さきほどの野球ボールほどの大きさの『火球(ファイヤーボール)』の『火力』を表している。
「『カウンター』より、絶対に強いじゃん。これ」
こんなモノを、『デッドワズ』や『シュザリア』
に当てたら、炭さえ焼き尽くすだろう。
「……小さくすれば、『火力』は落ちるのかね?」
そうなることを期待して、カグチは『火球(ファイヤーボール)』の大きさを変えていくのだった。
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