第3話 『チート』

「複製されたとはいえ、勝手に別の世界へと連れて行かれるのです。それなりのモノを用意しなくては、あなた達も納得出来ないでしょうし、そもそも、生きていけるかわかりません」


天使の手から、四つの玉が現れた。


赤色 青色 緑色 茶色の四つの玉。



「なので用意しました。私たちが用意出来る最高の力を。世界の根元である元素の力を」


四つの玉が空高く舞い、虹色に光りながら文字を作っていく。


「……SS?」


文字をみて、カグチはつぶやく。


文字が表していたのは、力の名前。


SS 火の力 水の力 風の力 土の力


(……四元素か?)


まだ、科学が発展する前のこと、世界を構成していると言われた4つの概念のことだ。


(……定番と言えば、定番だな。ちょっと面白味にかける気もするけど……)


四元素は、カグチが好きな『異世界チート』でもよく出てくる力だ。

ゲーム世界をモチーフにしている話が多い『異世界チート』だ。

設定として使いやすいのだろう。


よく出てくるが、正直、あまり印象はよくない。


(……だいたい、序盤で死ぬか裏切るんだよな、四元素の力を持っているやつって)


おそらく、世界観を構成するときに、真っ先に考えられる力の為だろう。


今までカグチが読んできた『異世界チート』では、四元素の力を持っている者の末路は、悲惨だ。


当て馬として散るか、モブキャラに成り下がるか。


(特に、火。『火の力』。あれはダメだ。調子に乗ったウェーイ系が手に入れて、破滅するパターンがほとんどだ。『水の力』も、クール系のヤツが最後は慌てふためいて惨めに終わっていくし……あの4つなら『風の力』か『土の力』が当たりかな? 『風の力』は、空気を操れるって時点で、もう強いし、『土の力』は、応用力が広すぎる。家も造れて、土壌改革をすれば、食糧もいける。綿とか育てれば、洋服も、だ。衣食住。必要なモノが、それだけでそろう)


と、四元素の力を評価し、しかし、カグチは息を吐く。


(でも、やっぱ微妙だよな、四元素の力。せめて、四元素を全て使える全属性とかなら、なんとか……いや、全属性も最近だと微妙か。うーん)


掲示の仕方から考えても、あれを全て与える訳ではないのだろう。


四つのうちの、どれか一つ。


正直、『異世界チート』としては微妙だ。


(もっと尖ったヤツが良かったな。それこそ、スライムになれるとか、スマートフォンを扱える、とか。一見ハズレなヤツを使って、活躍するのが『異世界チート』の醍醐味なのに……)


そこまで考えて、カグチは、あることに気がつく。


「……ん? SS? ってことは、まだあるのか?」


四元素の力が掲示され、ざわついていた皆に向かい、天使が話しかける。


「……あなた達が動揺するのも無理がありません。これほどの力、私たち天使でも神から授けられるモノではないのですから」


(……いや、微妙だと思っていたんだけど。俺含め、たぶん『異世界チート』に詳しいやつら)


オタクっぽいやつらが、落胆したような表情を浮かべていたのを、カグチはしっかりと見ていた。


「なので、この四つの力は、この場にいる中で、四人のみ。幸運を持つ者のみ、手にすることができます」


大きなどよめきが、起きた。


しかし、それは予見していた動揺だったのだろう。天使はどよめきを気にせず、話を続ける。


「他の者たちは、申し訳ないですが、別の力を授けることになります」


天使が手を振ると、金色の玉が十数個飛んでいき、文字を作っていく。


「……Sか」


掲示されたのは、Sの力。


S 竜王の力 妖精王の力 吸血王の力 鬼王の力 死霊王の力 精霊王の力 巨人王の力 魔の力 聖の力 武の力 守の力 騎の力 治の力 将の力 商の力


Sの力をひとしきり読み、カグチは再度読み返す。


そして、首を傾げた。


(……あれ?Sってことは、SSの下だよな? なのに、SSより強くねーか?)


その、カグチの疑問は、的を射ていたのだろう。


カグチの近くにいるオタクっぽい男子生徒が、「こっちの方が当たりじゃねーか」と、カグチと同じような感想をつぶやいている。


(……うん。やっぱりそうだよな。『竜王の力』とか、『竜』なら『火の力』なんて効かないだろうし、全属性のドラゴンの王なら、他も効かない。てか、『魔の力』とか、『魔』が魔法の事なら、『魔の力』は全属性使えるってことじゃねーのか? それに、『精霊王の力』も。なんだこれ? Sを狙いに行けってか?)


天使はどのようにしてこの力をカグチたちに与えるのか明言はしていないが、さきほど、『幸運な者に与える』と言っていた。


だから、おそらくガチャのようなモノをこの部屋にいる全員で行うのだろうと、カグチは予想している。


「これらの力は、もう、あなた達の世界にはほとんど存在していなかった『神秘』の力と、その力を宿すモノの王の力です。また、貴方達、人の力を最大限に発揮する力もあります。先ほどの力ほどではございませんが、きっとあなた達の役に立つでしょう」


天使が話終えると、玉がまた現れた。次は銀色の玉だ。Sの力の時よりも多い。


銀色の玉が飛び、掲示されたのは、Aの力。


A 獅子王の力 虎王の力 熊王の力 猿王の力 狼王の力 牛王の力 猪王の力 馬王の力 鼠王の力 蛙王の力 蛇王の力 鳥王の力 蟲王の力 魚王の力 剣王の力 弓王の力 槍王の力 鎚王の力 杖王の力 盾王の力 鎧王の力 爪王の力 縄王の力 薬王の力


Aの力を読み、カグチは、腕を組んだ。


(……さすがに、Sより弱いか? けど、SSよりは強い。というか、面白い。ヤバいのは、『蟲王の力』か? 昆虫の王の力とか、恐怖だろ。それに、ハズレっぽい、『盾王の力』も興味がある。守るだけじゃなくて、反射とかも出来るなら、ここぞというとき、光るんじゃねーのか?)


思ったよりも、尖った力を見せられ、カグチはテンションの高ぶりを感じていた。


ランクが下がるにつれて、自分が望んでいた『異世界チート』に、近づいている気がしたのだ。


「これらの力も、あなた達の支えになるでしょう。どれも『アスト』の世界では、一国の英雄に成れるだけの力です」


そこまで言って、天使は、今までの荘厳ささえ感じる態度から一転。


明らかに、申し訳なさそうな態度に変わっていた。


魂の複製の事を話しても、まったく見せなかったその良心の呵責に苛まれている様子に、部屋にいた者たち全員が、いやな緊張感に包まれていく。


「……ここまでは、先ほども言ったように、国の英雄に成れるだけの力です。しかし、それさえも、この場にいる全員に渡せるわけではないのです。どうしても、これまでとは見劣りする力があるのです」


天使が、頭を、深く、深く下げる。


「このことは、どうしようもない、資源の問題なのです。このような力をあなた達に見せ、与えるしかないのは、正直痛恨の極みです」


天使の体から、今まで一番多い数の、白色の玉が現れ、文字を作っていく。


白い玉が一つ、また一つ、力の名前を形作って幾たびに、部屋の至る所から、どよめきが起こる。


「……マジか」


カグチも、声を出すのを止められなかった。


白い玉が掲示したのは、Fの力。


F 魅了の力 練金の力 鍛冶の力 農耕の力 転移の力 分捕の力 飛脚の力 貧者の力 奇術の力 隠者の力 道化の力 偶像の力 演舞の力 歌唱の力 楽器の力 詩人の力 調理の力 転職の力 変身の力 再生の力 平均の力 感知の力 調教の力 鑑定の力 成長の力 知識の力 計算の力 交渉の力 集中の力 召喚の力 予知の力 空間の力 時間の力 威圧の力 幸運の力 店舗の力 切断の力 狙撃の力 粉砕の力 軟体(スライム)の力 剛体(ゴーレム)の力 合体の力 遊技(ゲーム)の力 端末(スマートフォン)の力


天使が頭を下げて謝罪したその力の名前を見て、しかし、カグチは興奮していた。


(……超大当たりじゃん!!)


カグチは、何度も、何度も表示されたFの力を、上から下まで隅々まで読んでいく。


(……スライムの力がある。スマートフォンも!!なんだこれ、なんだこれ。全部チートじゃん。魅了とかヤバいだろ。練金や鍛冶は、制作チートじゃん。農耕でレアな植物栽培したり、転移で輸送チート、分捕は何を盗む? それこそ力を盗めたら、マジヤバい)


Fの力。その全てが、カグチにとっては宝の山であり、夢が具現化したモノだった。

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