第14話 無視


 追試まであと二日。

 ロザリアの表情は追い詰められたように暗かった。


「おい、見ろよ、噂をすれば、だ」


 ロザリアが廊下を歩いていると、ひそひそと話す声が聞こえてきた。


「……」


(また私の噂話かしら?)


 ロザリアがちらちらと周りを確認すると、なぜか赤寮の生徒たちがロザリアを見てひそひそと話していた。


(なんだか様子がおかしいような……?)


 ロザリアは首をかしげた。

 噂をされたり、悪口を言われたりするのは常なのだが、今日はなんだかいつもと様子が違う。こんなあからさまにやられたことはあっただろうか。


(私、まだ何か知らない間に噂されているみたい……)


 ロザリアは気が重くなって、足早に校舎を出た。


 ◆ 


 訓練場に向かうと、アリスと出会った。


「あ、おはよう」


 ロザリアはぱっと顔を明るくして、アリスに挨拶した。

 もしかしてアリスなら、この周りの状況を知っているかもしれない。

 けれどアリスは、なんだか様子がおかしかった。

 ロザリアを見ると、アリスはびく、と足を止めた。


「……っ」


 気のせいか、アリスの顔色が悪い。


「アリスちゃん?」


 ロザリアが首をかしげると、アリスは俯いた。

 それから、何も言わずに走り去ってしまう。


「あ……」


 ロザリアはショックを受けてしまった。


(うそ……アリスちゃん、どうしちゃったんだろう……)


 いきなりアリスに無視をされ、ロザリアの胸がずきずきと痛んだ。

 間抜けな様子で、ロザリアはアリスが去った方を見つめていたのだった。


 ◆


 思えば、アリスとロザリアの関係は、なんだったのだろう?

 ロザリアは勝手に、アリスと仲良くなれたのだと思っていた。

 けれどアリスにとって、それは迷惑だったのかもしれない。

 あの子はいい子だから、きっと嫌でも付き合ってくれていたのかも……とロザリアはため息を吐いた。


 夜。

 アリスの一件がショックで、ロザリアは結局一日中そのことを考えてばかりいた。

 あのあともアリスに声をかけてみたのだが、ことごとく無視されてしまったのだ。


 アリスに何かしただろうか、とか。

 そもそも嫌われる要素しかないじゃん、とか。

 考えれば考えるほど思考は悪い方へ流れていく。


「はぁ……もう、なんかしんどい……」


 ロザリアはうめき声をあげながら、ベッドに突っ伏した。


 ◆


 また、あの夢を見た。

 暗闇の中で男と会う夢。


『なぜお前は言い返さない?』


 男は頬づえをついて、言った。


『なぜ見当違いな噂も、侮辱も、そのままにしておくのだ』


 ロザリアはだんだんとこの夢にも慣れてきた。

 

「言い返しても意味なんかないもの」


『なぜ?』


「きっと誰も信じてくれない」


『言ってみなければ分からないではないか』


「……」


『はあ、とことん呆れるやつだ……』


「ほおっておいてよ」


 ロザリアは思わずそう言ってしまった。

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