第12話 中間試験
ついに試験の日がやってきた。
学園の中間試験は、一年生は二日に分けて行われる。
最上級生になるともう少し長い期間テストがあるようだが、まだ学んだことの少ない一年生たちは、二日で十分だ。
とはいっても、ロザリアたちにしてみればそれは初めての試験で、緊張するし、長く感じる。
実際ロザリアも緊張でガクガクであった。
「はーい、それでは試験を始めますぅ」
魔術論のテスト。
ポップルが開始の宣言を告げると、教室にいた一年生たちは、一斉にテスト用紙を裏返した。
ロザリアも例にならって、紙を裏返す。
(! この問題は……)
Qある魔導士の魔術ロッドは三つある。そのうちの一つは魂装強化のために埋まっている。しかし魔導士は三つの魔術を使うことができた。それはなぜか。
──アリスちゃんと復習したやつだー!
その問題を解きながら、ロザリアは思わず心の中でガッツポーズしてしまった。昨日、アリスと一緒に問題を確認していたのだ。
勉強した甲斐があった。
きっとアリスも同じようなことを思っているだろう。
こうしてロザリアは順調に、筆記試験をこなしていったのだった。
◆
筆記試験を順調にこなしていたロザリアだったがしかし、ついに実技試験がきてしまった。
「はぁ、これでやっと終わりだぜ!」
「しかも武具の召喚だけとか、楽ちんでよかった」
「早く順番こねぇかな!」
アレイズが担当する実技試験は、訓練場で行われていた。
訓練場に一年生たちを並ばせ、一人ずつ魂装強化と武具の召喚をさせる。
実技試験の中間試験は、たったのこれだけだった。
もう試験終了の雰囲気が出ていて、ざわつく生徒たちが他の教師にしかれていた。
それでもやっと終わる試験に舞い上がる生徒たちのおしゃべりは止まない。
そんな雰囲気の中、ロザリアは真っ青な顔で、試験の順番を待っていた。
(わたしはまだ、武具の召喚ができない……)
ロザリアはぎゅ、と拳を握った。
そうなのだ。
結局今日に至るまでロザリアは、武具の召喚に成功しなかったのだ。
どれだけやってもロザリアの中から武器が出てくる気配はなかった。
この試験に落ちたらどうなってしまうのか。
考えたくもなかった。
(もう、ぶっつけ本番しかないわ)
ロザリアがそう思い冷や汗を垂れ流していると、アリスと目があった。
彼女も結局、武具の召喚をすることができなかったのだ。
アリスは苦笑して、手をひらひらとふった。
それを見たロザリアは、少し気が抜けて、手を振り返す。
(なるようにしかならないわ)
そう思うと同時に、ロザリアの名が呼ばれた。
「ロザリア=リンド・オルガレム!」
「……はい」
ロザリアは返事をして、闘技場に立った。
目の前にはアレイズが立っていて、クリップボードになにやら書き込んでいた。
「試験は簡単だ。まず魂装強化を、次に武具の召喚をしろ」
「……はい」
アレイズはロザリアのできなさを知っているというのに、無感情にそう言い放った。
「始めろ」
「はい」
ロザリアは目を瞑る。
(体を強化してく、魂を包むようなあの感覚……)
ふう、と呼吸すると、ロザリアの体が光り始めた。
黒い制服の上から、肘当てやガントレットのようなものが現れる。
それはバトルドレスと呼ばれるものだった。
アンブラと戦う際に、身体能力を向上させるものだ。
ロザリアはまだ軽いものしかできないが、これが上級生になると衣装そのものが変わる生徒も多くいる。
──よし、うまくいった!
ロザリアは心の中でガッツポーズをした。
「……次、武具の召喚」
しかしそんな喜びに浸らせる間もなく、アレイズは無感情にいう。
その瞳は冷たかった。
──やるのよ、ロザリア。
ロザリアは大きく深呼吸すると、手を前に突き出した。
──お願い、来て!
……。
…………。
………………。
いくら待っても、何も起こる気配がない。
ざわついていたはずのまわりも、息をつめてロザリアをじっと見つめていた。
「……ロザリア=リンド・オルガレム」
しばらくして、ため息が聞こえてくる。
ロザリアはびく、と肩を跳ね上げた。
アレイズは冷たい目でロザリアを見ていた。
「お前は追試だ。一週間後、ここでもう一度テストをする」
「……」
「そこでも武具の召喚が行えなかった場合」
こつ、こつ、とペンでクリップボードを叩いた後、アレイズは言った。
「お前を退学とする」
ロザリアの耳元で、何かが割れたような音がした気がした。
◆
「へえ、噂には聞いていたが、あの女、本当に武具の召喚ができなかったのか」
試験を終え、一年生のテストを観客席で見学していたグレンは、ふうん、と息を吐いた。
「……兄たちと比べて、なんの才能もないだろうに」
「その通りですわ、グレン様」
「どうしてあんな、妾腹が」
「あのアリス・エヴァレットとかいう平民の娘も、武具の召喚ができないようです」
「あの子、孤児なんでしょう?」
「どうやってこの学園には言ったのかしら……」
グレンのまわりの侍る女たちも、ロザリアを見てそれぞれに感想をこぼしていた。
「なんの才能もないくせに」
茶色の髪の少女が、憎々しげにロザリアを見る。
その瞳には、憤怒の炎が宿っていた。
「ユーイン様が生きてたら……」
怒りと、悲しみ。
そしてその瞳に宿る、恋情。
少女の目に涙が浮かぶ。
「……決めた」
少女を見たグレンは呟いた。
「彼女に天罰を」
グレンは、何かを決意したように、拳を握った。
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