第8話 ロザリアの失敗
試験が迫ってきている。
なのに、武具の召喚がいまだにできない。
「私、このままじゃ本当に退学になるんじゃ……」
ロザリアは今日も一人、裏庭のベンチでサンドイッチを頬張っていた。
「そんなのいやよぉ……」
退学になったあとを考えるだけで、胃が痛くなる。
ロザリアは頭を抱えた。
なんだってこんなことになってしまったのだ。
入学試験に合格すれば、なんとかなると思っていたのに……。
「何が嫌なの?」
「だってあんな最悪な父……」
ロザリアがハッと顔を上げると、そこにはアリスが立っていた。
キョトンとした様子でロザリアを見つめている。
「最悪な?」
「あ、な、なんでもない……」
ロザリアは慌てて首を振った。
アリスは首をかしげると、すとんとロザリアの横に腰を落とした。
「今日はいい天気だね!」
「ええ……あの子犬のところに行っていたの?」
「うん、そうなの」
アリスは頷いて、持っていたバスケットを見せた。
「真白、すごく賢くてさ。私がくるの、ちゃんと待ってるんだよ。まるで言葉がわかるみたいなの」
「そう、なんだ」
にこにこと笑うアリスを見ながら、ロザリアは頷いた。
(アリスちゃんが笑っているだけで私も幸せ……)
「私、ごはんまだだから、ここで一緒に食べてもいい?」
「!」
ロザリアはこくこくと頷いた。
ただでさえ話せるだけで幸せなのに、ごはんを一緒に、とな。
(なんてこと! ついに私にも友達と一緒にごはんを食べる午後が……!)
ロザリアがほわわわ〜と感動した。
短い時間だったが、ロザリアはアリスとのほのぼのとしたランチタイムを楽しんだ。
◆
とうとう中間試験が明日から始まる。
相変わらずロザリアは武具の召喚ができなかった。
もう一年生の中ではロザリアとアリスしか、武具の召喚をできないものはいない。
このままでは、明日の実技試験は落第決定だ。
あのアレイズが情けをかけてくれるはずもない。
「どうしよぉ〜」
ロザリアは深いため息を吐いて、訓練場の片隅で肩を落とした。
出ないものは出ない。
ロザリアはもう一度、目をつぶって手を前に突き出した。
──お願い、どうか私にも武具を。
あまりにも集中していたからだろうか。
ロザリアは声をかけてくる人物に、なかなか気づくことができなかった。
「ねえ、ちょっと」
「!」
ロザリアはぎょっとして後ろを振り返った。
そこには赤寮の制服を着た赤髪の男子と、それを取り囲むように数人の女子がいた。
胸元のバッチには三本の線が引かれている。
おそらくロザリアの三つ上の三年生なのだろう。
「さっきからグレン様がそこをどいてくれないかと言っているのに、聞こえていなかったの?」
女の子たちがキッとロザリアをにらんだ。
凄まれて、ロザリアは一気に緊張してしまう。
まだ悪い癖が出た。
声が出なくなってしまったのだ。
「ねえ、なんとか言ったらどうなのよ?」
(あ、謝らなきゃ……)
アリスと普段から話すようになったおかげか、ロザリアは緊張しても謝罪だけはできるようになっていた。
「あの、ごめんなさい」
震える声でそう言って、頭をさげる。
けれど女の子たちの怒りは収まらないようだった。
「謝るくらいなら、最初からどけばいいのに」
「……」
「グレン様に無礼だわ」
その場の空気が最悪になったところで、グレンと呼ばれた少年が、ロザリアのバッチに目を留めた。
「そうか、君は一年生だから僕のことを知らなかったわけか」
「……?」
ロザリアが冷や汗をかいていると、グレンは苦笑混じりに言った。
「僕の名前はグレン・アイオレス・バルハザード」
「!」
「この国の第四王子さ」
や、やらかした〜。
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