第7話 アレイズ
「あら、どうしたの? こんな時間に」
保健室に行くと、セクシーな女医が、ロザリアを見た。
「先生、すみません。さっき私、頭を強くぶつけてしまったみたいで」
「あらあら、それは大変ね。さあ、見てあげるからこっちへいらっしゃいな」
あら、ひどいたんこぶになってるじゃないの、と女医は呟いた。
幸いなことに、この時間は部屋に誰いないようだった。
「どこにぶつけたの?」
そう聞かれて、ロザリアは素直に天球儀のことを言いそうになってしまった。けれどそれでは旧校舎にはいったことがばれてしまうと、慌てて別の言い訳を探す。
「か、階段から落ちちゃって」
「階段から?」
女医は眉をひそめた。
「それは危ないわね。他に怪我したところは?」
「いえ、ないのですけど……落ちたときに気を失っちゃってたみたいで」
「まあ、なんてこと」
女医は冷やすものを持ってくると、ロザリアに持たせ、ベッドに移動させた。
「頭は何があるのかわからないのよ。あなたは……黒寮なのね。アレイズ先生には伝えておくから、今日はここで泊まりなさい」
「……」
少々大げさすぎるかとも思ったが、ロザリアもなんだか不安になってきたので、このままここで眠ることにした。
「吐き気は? めまいとかはない?」
「大丈夫です」
そういうと女医は頷いて、何かを紙に記入していた。
「大事な生徒の健康はしっかり管理しなければいけませんからね。とにかく、今日はここで休んでいくのよ」
「……はい」
ロザリアは素直に、ベッドに横になった。
◆
その晩、ロザリアが保健室でウトウトしていると、ベッドまで訪ねてきた人物がいた。
アレイズだった。
なぜか必死の形相でロザリアに迫ってきたため、ロザリアはびく、と身を引いた。
黒寮の寮長アレイズ・マクフィリアは元王宮近衛魔導士で、今はこの学園の戦闘訓練の授業を受け持つ教師だ。腕の立つ魔導士のわりに年齢も若く、顔もそれなりにいいときたので、学園の女生徒たちには人気だった(ロザリアは知らなかったが)。
しかしいかんせん、ロザリアと同じく顔つきが悪い。
ので、近づかれると怖いのだ。
(私もきっと、こんな感じで見られているのね)
そう思ってため息を吐く。
「おい、ロザリア=リンド」
「は、はい」
「お前は一体、何をしたんだ」
「えっ……」
いきなり肩をつかまれ、ロザリアはぎょっとしてしまった。
なぜアレイズがこんなに必死なのか、皆目検討もつかなかったからだ。
たんこぶ一つで、まさか退学になるんじゃ……。
「言え、何をした?」
「え、か、階段から落ちて、それで……」
「階段から落ちた?」
アレイズが眉を潜めた。
その様子があまりにも怖くて、ロザリアは震え上がってしまった。
ロザリアはアレイズに嫌われている(少なくとも本人はそう思っている)。
旧校舎の件がバレれば、本当に退学にされてしまいそうだ。
「せ、先生……?」
ロザリアが怯えたような声を出すと、アレイズはハッとしたようにロザリアから手を離した。
チッと舌打ちし、ベッドから離れていく。
「やはりお前は魔導士など向いていない。即刻この学園を去るべきだ」
「ッ」
「階段から落ちただと? そんな……」
ぶつぶつ呟きながら、アレイズは去って行った。
「な、なんだったの……」
ロザリアは呆然としたように、その後を見送ったのだった。
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