第2話 授業
「このバルハザード国は、アレイオス帝国時代より発生し始めた、影から生まれる魔物『アンブラ』によって、一度は滅びかけた国だった」
アーチ型の天井をした、戦闘訓練場。
その中央で、サラサラとした黒髪の男教師が周りに立つ生徒たちに向かって話しかけていた。
「普通の武器では倒すことのできないアンブラだが、一部の選ばれた魂を持つ人種『魔導士』たちが持つ魂に内包された武器『魂装武具』によって倒すことができるようになった。アレイオス帝国が解体されてなお残ったバルハザード国は、この魔導士たちによって今日まで守り抜かれてきた」
ロザリア含めその場にいる少年少女たち全員が、緊張感を持った眼差しで、教師を見つめていた。
「さて、これはお前たちが入学してきた頃からウンザリするほど話してきたことだが」
教師は真顔で言った。
「私たち魔導士はどのようにしてアンブラと戦うのか?」
鋭い視線を生徒に向ける。
そして目の前にいた白い制服を着た少女に目をとめた。
「アリス・エヴァレット、答えろ」
「は、はい、アレイズ先生っ!」
アリスと呼ばれた少女は、一生懸命に答えた。
「か、神によって魂に吹き込まれた武器をこの世界に具現化し、魂装強化を用いてアンブラと戦います!」
「つまり、アンブラとの戦闘において必要なものを簡潔にいうと?」
「魂装武具と、魂装強化、二つです!」
「よろしい」
教師──アレイズは頷くと、手を前にかざした。
その瞬間、手元がまばゆい光に包まれ、光が消えると同時に一振りの剣が握られていた。
「アンブラは魂装強化や魔術だけで止めをさすことはできない。戦闘において必ず必要なもの──それがこの魂装武具だ」
アレイズは一度、黒い剣を振る。
それは不思議な軌跡を残して、再びアレイズの腰元に収まった。
「お前たちは入学して一月経った。そろそろ戦闘訓練に入りたいところなのだが……」
アレイズはちらりとロザリアに目を向ける。
「若干名、まだ武具の召喚に至っていないものもいるため、これより先の授業は別れて行うこととする」
ロザリアの胃がキリリと痛んだ。
◆
戦闘訓練場では、武具の召喚に成功している生徒たちによって、模擬演習が行われていた。
それらを横目に、数人の生徒たちが四苦八苦しながら、己の武具の模索をしていた。
魂に内包された「魂装武具」は、魔導士によって様々な形を持つ。例えばアレイズのように剣であったり、盾であったり。魔導士たちはそれを用いてアンブラと戦うのである。
したがって、武具を召喚できなければ、これから先の授業についていくことはできない。退学もありえるのかもしれない。
いつかは自分もできるようになるだろうと最初の頃は呑気に構えていたロザリアだったが、今はかなり焦っていた。もうほとんどの者が武具の召喚に成功していたからだ。
できなかった者たちも徐々にできるようになっていき、訓練場の隅にいるのはロザリアと、もうあとは二、三人しかいない。
いつものように四苦八苦しながらロザリアが召喚の練習をしていると、演習場から離れ、壁にもたれかかって様子を眺めていたアレイズが、近寄ってきた。
アレイズは黒寮の寮監でもあるのだが、ロザリアはこの教師がかなり苦手だった。
なぜなら……。
「いまだに武具の召喚すらできないのか」
「……」
「貴様には退学するという手も残されているぞ、ロザリア=リンド・オルガレム」
ひぃ〜! なんで私にだけ……!
ロザリアの耳元で、度々このようなことを呟くからだった。
胃がキリキリ、腸がギュルギュルと痛んで、トイレに駆け込みたくなる。
「あんな顔して、できないんだもんなぁ」
「よくもまあ、跡取りになりたいと思ったものだ」
ロザリアのことを勘違いしている同級生が、ひそひそと話しているのが聞こえてきた。
──ち、違うんですぅ……。
ロザリアは心の中でグダグダと言いつつ、結局顔に出すことも、ましてや口にだすこともしなかった。
アレイズの嫌味に耐え、結局今日も武具の召喚に至らないまま、授業を終えた。
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