我らがボスの名言
本日のボスの暴げ……名言「武器を持っていない冒険者など一般人にカビが生えたようなもの」
「……え、ちょ、ボス。それどういう意味?」
「タメ口をきくなっつってんだろうが」
「すいません。え、今なんて言いました?」
「武器を持っていない冒険者なんて一般人にカビが生えたようなものだろうが」
「それは……どういう……てか、え、“毛が生えた”じゃなくて? ッですか?」
「お前は餅にカビが生えたらどうする?」
「それはへずって食べ……や、捨てますけど」
「そういう意味だ」
「………………。」
「分かったらさっさと森へ行って仕事をしろ」
「………………はい」
***
本日のボスの暴げ……名言「冒険者は特産品」
さすがに黙ってはいられない、と思った。
いくらボスが街のためを考えていたとしても、だからといって冒険者の命を軽視していいわけがない。
ボスに楯突けば、死。そんなことは百も承知だったが、小鞠市のポイントリーダー、つまり冒険者代表として命を懸ける覚悟を決めた。
ボスに直訴する。制止してくる秘書のライゼルを躱し、ボスの部屋へ踏み込んだ。
「ボス!」
幸いにも虫の居所は悪くないらしい。ちらりとあげた視線はやや鬱陶しそうではあったものの、特になにも言わず手もとの書類へ顔を戻した。華麗なシカト。でも即排除されなかったからまだマシ。
「ボス! いくらなんでも酷いだろ!」
デスクを思いっきり両手で叩く。
「あんた、冒険者をなんだと思ってんだよ!」
ゆっくりと顔を上げるボス。間近で目が合う。特になんの色も浮かばない瞳でボスは言った。
「特産品」
「……は?」
「冒険者は小鞠市の特産品だと思っている」
「…………はぁ!?」
さっさと書類仕事へ戻るボス。
「市の公式サイトを見てみろ。概要のところ」
少しもこっちを見ないで軽く顎をしゃくってきた。
「…………。」
どういうことだ。慌ててスマホを引っ張り出す。
市のサイト。トップページに貼られた「小鞠市のご紹介」とかいうポップなバナー。
市の面積、人口、特徴、歴史、観光、産業、そして特産品。特産品がいろいろ並ぶなかに……ほんとに「冒険者」があった。
「え……? なに……? どゆこと……?」
書類へサインする手を止めたボスが、何食わぬ顔で言う。
「他市への冒険者貸し出しや販売がいい収入源に育ったからな。書いておいた」
なに言ってんのこの人恐い!
確かに戦況の厳しい地域では到底新人を育てる余裕などないから、ある程度経験を積んだ冒険者は歓迎されるけども。
移籍仲介を販売とか言うなし。
「……特産品だと思ってんなら、もう少し大切にしようよ……」
やっとそれだけ言うと、ボスはちょっと考える顔になった。
「それも一理あるな。検討しておこう」
恐いけど、一応言えば話も通じる人である。……通じる? 通じてるよね?
***
本日のボスの暴げ……名言「小鞠市冒険者の鉄則:ボスに逆らってはいけない」
「お前聞いた? この間の冒険者採用試験の話」
「いや、聞いてないけど」
「今回の最終面接試験の内容、あれだってよ。小鞠市冒険者の鉄則暗唱」
「鉄則っつーと、……アレ?」
「アレ」
「『ボスに逆らってはいけない』?」
「ソレ」
「俺、受かれるな」
「その鉄則を暗唱、三十回」
「さんじゅッ! ……人権どころか尊厳もないのか、冒険者には」
「とんだパワハラだよなー」
「てか、それ。クリアーして採用されたやつはいるのか?」
「や、普通にいるらしい」
「……その試験を出したやつと受けたやつの正気を疑う」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます