ファイル2 雛井方太郎


 まず、前回の袋田愛結さんへのレポートでも触れた、『入れ替わり病院』での支援について、簡単にご説明しますね。

 当施設にやってくる方々は、性別はもちろん、身分、年齢、人種さらには生物学上の分類まで様々。生き物ですらない方も時にはいらっしゃいます。各々が抱えるお悩みも千差万別でありまして、施設のスタッフ一同は被転身者さんの心になるべく寄り添えるように、心血を注いでいます。

 この施設での支援というものは、一般の病院で行われているような医療的なリハビリテーション支援から、社会に復帰するための教育的な就学または就労支援、そして身体の返還に伴う裁判になった際の法的な支援まで、多方面に渡ります。それぞれを専門とするスタッフたちが、基本的には週替わりで当施設を訪れ、被転身者さんたちと協力しながら、お悩みの解決に向けて日々努力を重ねている所存であります。

 

 ちなみに、スタッフの中で私だけ、週替わりではなく365日ずっと施設で暮らしています。立地が山奥なので、施設の周りにはコンビニもレストランも映画館もなくてちょっぴり退屈ですが、愉快なルックスの被転身者さんたちと寝食を共にしているので、全然辛くも寂しくもありません。

 私の担当分野は、被転身者さんへの心のケアであるカウンセリングと、入れ替わり現象や事件に関する研究、そして病院の入り口にある花だんの水やり当番です。水やりは時々忘れてしまうので、袋田愛結さんが代わりにやってくれることもしばしば。来月の私的目標は、「お花のお世話を毎日しよう」です。


 それでは、第二回のインタビューレポートをここに掲載いたします。


 * * *


 〜 ファイル2 〜

 「雛井(ひない) 方太郎(ほうたろう)」(15歳 男子中学生)

 

 ドクター・パーガトリー = Dr

 雛井方太郎さん = 方太郎


 Dr「えーと、それじゃあインタビューを始めます。こっちにきてイスに座って。」

 方太郎「あ、あの……。この服……。」

 Dr「男子中学生の制服、学ランね。あなたにはそれを着てもらってるけど……もしかして、嫌だった?」

 方太郎「なんだか複雑な気持ちで……。これを着てると、昔の嫌な思い出が蘇ってくるんです。胸の奥が、ズキズキと痛むような。」

 Dr「ごめんね。レポートに載せるための写真を撮り終わったら、いつものセーラー服に着替えていいから。今だけ、お願いっ!」

 方太郎「パーガトリーさんのお願いなら、受け入れますけど……。」

 Dr「やった! ありがとっ! 最近の中学生は優しい子ばっかりで助かるよー。」

 方太郎「最近の中学生……?」

 Dr「ああ、うん。前回のレポートでは、袋田(ふくろだ)愛結(あゆ)さんにインタビューしたからさ。」

 方太郎「袋田愛結? まさか、それって助久(たすく)のことですかっ!?」

 Dr「そう。本当の名前は、波村(はむら)助久(たすく)くん。ぽっちゃり女子になっちゃった男子中学生。」

 方太郎「助久も、このインタビューを受けたんですね……。『思い出したくないほど辛い事も、今までたくさんあったよ』って、私に言ってたのに……。」


 思いつめた顔をする方太郎さん。


 Dr「助久くんは、全部話してくれたよ。自分に何があって袋田愛結になってしまったのか、を。」

 方太郎「そう、ですか……。じゃあ、私もちゃんと答えます。パーガトリーさんのインタビューに。」

 Dr「決心してくれてありがとう。いろいろと深いことを聞いちゃうけど、話したくないことは話さなくていいからね。」

 方太郎「はい。よろしくお願いします。」

 

 方太郎さんが、イスに腰を降ろす。

 

 Dr「えーっと、それじゃあまず、体の方の自己紹介からしてくれる?」

 方太郎「か、体の名前は……雛井(ひない)方太郎(ほうたろう)。中学生の、男……です。」

 Dr「はーい。方太郎さんだよね。特徴としては、ちょっぴりベタついた髪と、黒縁のメガネと、ぶよっとしたお腹かな? 運動できない系男子って感じだね。」

 方太郎「……。」

 Dr「失敬。そんなこと言われたら傷つくよね。今の言葉選びは、完全に私のミス。反省します。」

 方太郎「いえ……。今パーガトリーさんが言ったことに、全くウソはないから……。」

 Dr「ほんとに、ゴメンっ! というわけで、体の自己紹介はおしまいっ! 今度は、心の方の名前で自己紹介して?」

 方太郎「心の方……。はい、分かりました。」


 方太郎さんの声が、少しだけ大きくなる。

 

 方太郎「私の本当の名前は、池見(いけみ)桃音(ももね)。性別も、間違いなく女だった……!」

 Dr「そうそう、桃音ちゃん! 真面目な努力家で、何事にも真剣に取り組めるとっても素敵な子。」

 方太郎「パーガトリーさんは、私のこと、そう思ってるの?」

 Dr「思ってるよー。私の言うことに全くウソはない、でしょ?」

 方太郎「そ、そうですね。ふふっ……。」

 Dr「あはは、笑ってくれた。かわいいよ、桃音ちゃん。」

 方太郎「パーガトリーさんって、なんでも思ったことをすぐ口に出しちゃうよね。言って良いことも、悪いことも。」

 Dr「あー、それいっつも言われる。『お前の最大の欠点だ。人と関わる上では致命的だぞ』って、偉い人にも怒られたよ。」

 方太郎「でも、助久や私が本心で話せるのは、パーガトリーさんがそういう性格だからだと思う。なんていうか、純粋な感じ。」

 Dr「純粋〜? へぇ、私ってそうなんだ。嬉しいけど、なんだか照れちゃうねぇ。あっはっはっは。」

 方太郎「インタビューの続き、しよ? 私、今なら何でも話せる気がする。」

 Dr「お? ノッてきたね。じゃあ思い切って聞いちゃうけど……入れ替わった日のこと、教えてくれる? 池見桃音という女の子が、雛井方太郎という男の子になった日のこと。」

 方太郎「……!」

 Dr「ん? やっぱり、聞いちゃマズい?」

 方太郎「いいえ。大丈夫です……。」


 うつむき気味になりながら、方太郎さんは話してくれた。


 方太郎「入れ替わったのは、中学生二年生の時。当時の私は、女子バレーボール部のキャプテンだった。」

 Dr「バレーボール? へー、意外だね。てっきり勉強が得意なタイプの真面目系女子かと思ってたよ。」

 方太郎「うん。勉強も……まあ、得意だった。苦手な教科は特になくて、テストの点数もクラスで1番2番を争う程度には……って、あんまり自分で言うと、自慢になっちゃうかな。」

 Dr「ううん、そんなことないよ。桃音ちゃんが努力した結果でしょ? 誇って誇って誇りまくろうよ。」

 方太郎「う、うん。とにかく私は、勉強もスポーツも、それなりにはできた……と思う。」

 Dr「なるほど。文武両道の才色兼備ガールね。なんとなく分かる気がする。」

 方太郎「さ、才色兼備は、言い過ぎですよっ……! パーガトリーさんっ……!」

 Dr「あらま。照れちゃって、かわいい。当時の写真とか、持ってきてる?」

 方太郎「はいっ。こ、こちらにあります……。」


 写真を見せてくれた。

 写っているのは、ショートの髪をヘアピンで留めた、真面目そうな顔をしたバレーボール部の女の子。


 Dr「おっ、美人さんだねー。それにスラッと背が高くて、スタイルもよくて、まるでファッション雑誌のモデルさんみたい。」

 方太郎「身長は……女子バレー部の中でも、二番目に高かったと思います。今は、こんなに縮んでしまったけど。」

 Dr「だよねぇ。今は豆タンク系男子だもんね。」

 方太郎「……。」

 Dr「顔もキレイに整ってると思う。ただ、表情がちょっと堅いね。なんだか怒ってるみたい。」

 方太郎「ええ。真面目に考えすぎるせいか、当時の私は、バレー部の厳しい先輩として、後輩の子たちから怖がられていました。練習中に熱くなったりすると、チームのみんなに、『もっと集中してよ!』なんて怒鳴ったりして。」

 Dr「うーん。でもそれって、キャプテンとしては大事な言葉なんじゃない? みんなを引っ張ってく立場なんだから。」

 方太郎「でも、もっと優しい言葉をかけられたらなって、今になって思うんですっ……! こんな姿になって、今さら……!」

 Dr「その気持ちがあれば充分だよ、桃音ちゃん。自分を責めないで。」

 方太郎「パーガトリーさん……。いえ、ごめんなさい。話がそれちゃいましたね。」

 Dr「おおう、確かに。……で、桃音ちゃんが雛井方太郎になったのは、どういう経緯かな?」

 方太郎「はい。その日の話をします……。」


 まっすぐに姿勢を整え、方太郎さんは話を続けた。

 

 方太郎「その日も、いつも通りバレー部の練習がありました。そして部活が終わると、他の子たちは早々に帰ってしまいましたが、私はその後も、一人で体育館に残って自主練習を続けていました。」

 Dr「うん。桃音ちゃんらしいね。」

 方太郎「自主練習を終え、体育館を出るころには、辺りはすっかり暗くなっていました。私は、練習着から制服に着替えるため、真っ暗な女子バレー部の部室に入ろうとしたんです。あの時はまだ、そこに誰かがいるなんて、思ってもなくて……。」

 Dr「えっ!? 誰かいたの!? 真っ暗な部室にっ!?」

 方太郎「はい。扉を開けると、『部室荒らし』がそこにいました。」

 Dr「『部室荒らし』……?」

 方太郎「女子バスケ部や女子陸上部の部室に忍び込んで、物品やユニフォームを盗んだりしたという、悪いニュースで当時有名になっていた謎の人物です。」

 Dr「つまり、変態さんかー。最底だね。」

 方太郎「最底……。そうですね。私もそう思います……。」

 Dr「ありゃ、嫌な予感がしてきたゾ。つまり、その最底な変態さんっていうのが……。」

 方太郎「……!」

  

 口をつぐんだ。


 Dr「雛井……方太郎……?」

 方太郎「……。」

 Dr「わーお。それはまたヘビーな話だねぇ。」

 方太郎「私が扉を開けると、そこには雛井方太郎という男子がいて……。薄暗い部室の中で、雛井は鼻息を荒くしながら、手をガサガサと動かしていて。」

 Dr「怖っ!」

 方太郎「私が『そこで何をしているの!?』と声をかけたら、雛井はびっくりしていました。そして、『違うっ! こ、これは違うんだっ!』なんて言い訳をしながら、私に突進をしてきたんです。」

 Dr「突進!? つまり、それでドシーンと……。」

 方太郎「ぶつかられて、気を失いました。そして目が覚めると、私の目の前には、私がいたんです。」

 Dr「入れ替わっちゃったんだね。」

 方太郎「目の前にいる私は、その……じ、自分の胸を、揉んでいました。とてもいやらしい手付きで、ヨダレなんか垂らしながら。私の顔なのに、そのニヤニヤと汚い笑みを浮かべた顔は、とても気持ち悪く見えました。」

 Dr「うーん、性欲に脳を支配された男子中学生だね。」 

 方太郎「体を触り続けながら、服を脱ぎ始め、下着だけの恥ずかしい姿にまでなりました。途中、私は必死に止めようとしたけど、腕が縛られていて身動きがとれませんでした。だから、大声で『服を脱がないでっ!』『胸を触らないでっ!』って叫んだのに、向こうは聞く耳を持たなくて。私は自分の声が男子の野太い声になってることにショックを受けて、声を出す気すらどんどん失せて……。」

 Dr「そのまま、逃げられちゃったの?」

 方太郎「いいえ。それだけでは終わりませんでした。目の前にいる私は、ニヤニヤと笑いながら近づいてきて、今度は私の服を脱がそうとしてきたんです。」

 Dr「へっ? あなたの服を?」

 方太郎「学ランの、ズボンを……。パンツを無理やり脱がせて、私の股間に生えてる、女性の体にはないはずの……。」

 Dr「あー、アソコね。生殖器のことかな。」

 方太郎「勝手に大きくなってて……! すごく気持ち悪かった……。でも、目の前にいる私が、両手でぎゅっと掴んで、何か、擦り合わせるみたいに手を動かすの……! そ、そしたら、変な感覚になって……! 何かが込み上げてきてるのにっ……それでも、何度も『もうやめてっ!』って泣き叫んでも、やめてくれなかったから……! 私っ………!」

 Dr「もういいよ、桃音ちゃん。それ以上は言わなくても分かる。辛い経験だったね。」

 方太郎「うぅっ……! うあああぁんっ……!!」


 自分の感情に押し潰され、方太郎さんは少女のように泣き崩れた。


 Dr「顔を上げて。桃音ちゃんに、涙は似合わないよ。」

 方太郎「こ、興奮なんて、したくないのにぃっ!! 分からない分からないっ……! なんでっ!? なんで私っ、こんな風になっちゃうのっ……!? やだっ、こんなのっ……!! ううぅっ……!」

 Dr「もしかして、今も興奮してる? あの日の出来事を思い出したせいで。」

 方太郎「もう嫌……。また、勃っちゃってる……! パーガトリーさん、私の、見てくれる……?」

 Dr「うん。見せてみて。桃音ちゃんの興奮してるところ。」

 方太郎「ほら、これ……。」


 方太郎さんがゆっくりと股を開くと、そこにはもっこりと膨らんだズボンの股間部分があった。シワなどではなく、男性の型の通りに勃ち上がっている。


 Dr「触ったほうがいい? ゴム手袋なら持ってるけど。」

 方太郎「ダメっ! はぁ、はぁ……さ、触らないでっ!」

 Dr「直し方は知ってる?」

 方太郎「う、うん……。助久が、私に、お、教えてくれたからっ」

 Dr「助久くんが? ああ、性知識の交換をしたんだっけ。」

 方太郎「助久がいなかったら、私、死んでたと思う。今でも生きていられるのは、パーガトリーさんと、助久のおかげ……。」

 Dr「最悪の経験をしたあの日から、助久くんと出会う日までのことを、私に教えてくれる?」

 方太郎「うん……。話したい、です……。」


 方太郎さんの気持ちが落ち着くのを待つ。

 

 Dr「もう大丈夫?」

 方太郎「はい……。その後のことを話します。」

 Dr「雛井方太郎と池見桃音は、体が入れ替わってしまい、桃音は方太郎になってしまった。」

 方太郎「はい。それから私は、バレー部の部室に置き去りにされました。体はすごく疲れていて、動く気力すらなくなっていたことを覚えています。」

 Dr「なるほど。」

 方太郎「そして、私がぐったりとしているところに、職員室の先生たちがやってきました。もちろんというか、案の定というか……私が、『部室荒らし』の犯人という扱いです。」

 Dr「弁解はした?」

 方太郎「しました。でも、体が入れ替わっているなんてこと、信じてくれる人はいなくて。見苦しくウソをついてると思われたんでしょうね。反省の色ナシということで、停学処分になりました。」

 Dr「うわぁ、それは酷い。」

 方太郎「私の居場所なんてどこにもなくて、あとはもう、それっきりで。学校を去る時に、最後に女子バレー部のみんなが集まる前を通ったんですが、声なんてかけられるハズもなく、侮蔑と嫌悪が混じった視線を向けられただけでした。」

 Dr「それからは?」

 方太郎「病院です。どこかの大学病院に連れていかれ、いろいろな検査を受けました。そして、お医者さんたちの強い勧めで、こちらの施設に入ることになったんです。」

 Dr「なるほどねー。改めてようこそ。こちら入れ替わり病院でございます。」

 方太郎「私、この施設に来たころは、誰とも関わりたくありませんでした。心が病んでて、いっそ殺してほしいとさえ思ってました。でも、ある日……。」

 Dr「助久くんの登場かな?」

 方太郎「ふ、ふふっ。」


 思い出し笑いをする。


 Dr「そんなに面白かったの? 助久くんとの出会いは。」

 方太郎「いいえ。最初はびっくりしたんです。少し太った女の子が『俺は〜』『俺も〜』とか言って、いきなり話しかけてきて。どうみても女子なのに、男子みたいな喋り方。」

 Dr「違和感あるよね。」

 方太郎「『袋田愛結でも、波村助久でも、どっちでもいいから、桃音が話しやすい方に声をかけてよ』なんて。こんな醜い姿になった私なんかに、いつも明るい笑顔を向けて、そう言ってくるんです。おかしいですよね?」

 Dr「へぇ。助久くん、そこまでしてたんだ。」

 方太郎「だから、『助久……!』って呼んであげたんです。そしたら、『呼んでくれた……! 桃音が、俺の名前をっ! 桃音が今、助久って!』って、大騒ぎしだして。ただ、心の方の名前を呼んだだけなのに、バカみたいっ……! ふふふっ……。」

 Dr「それで、付き合うことになった、と。」

 方太郎「一緒に勉強したり、昔の写真を見せ合ったりもしました。星が綺麗な夜は、『一緒に夜の散歩に行こう』なんて言い出すから、助久のために精一杯オシャレな服を着て、可愛い髪飾りを付けるんです。助久はちゃんと私にドキドキしてくれて、でも、しっかり手を握ってくれる……。」

 Dr「はいストップ! 私のレポートに、のろけ話は載せませーん。とりあえず、助久くんと桃音ちゃんが仲良しってことは、よぉーーっく分かった。」

 方太郎「ごめんなさいっ。私、つい余計なことを……。」

 

 謝りながらも、嬉しそうに笑みを浮かべている。


 Dr「次の質問だよ。昔の自分と今の自分を比べて、変わったことを教えて。」

 方太郎「変わったこと……。ベタベタした脂汗をかくようになったり、食事の量が極端に多くなったりしました。階段の昇降も辛くて、移動するだけで息切れしてしまいます。」

 Dr「肥満体の特性だね。女から男になったことで、何か変化はあった?」

 方太郎「性別に関してでいうと、その……。や、やっぱり、さっきも言ったように、すぐに興奮してしまうことです……。」

 Dr「思春期の男子中学生だもんね。ある程度は仕方ないよ。」

 方太郎「でも、この体は異常なくらい異性に飢えています。女の人を見るとすぐに反応してしまうし、夜遅くに急に性欲が湧き上がってきて、抑えきれなくなることも珍しくありません。」

 Dr「そんな時、桃音ちゃんはどうしてるの?」

 方太郎「まず、すぐに助久を呼びます。助久は男子の性のことに詳しくて、私にいろいろ教えてくれるから。」

 Dr「まあ彼も元男子だもんね。今ではすっかり女子だけど。」

 方太郎「知識はもちろんですけど、実際に性欲の解消を手伝ってくれたりもします。助久は女で、私が男だから。」

 Dr「ん……? うん? んん? あなたたちは中学三年生だよね? 大丈夫なのかな? 性欲の解消って……それ、ヤバいことはしてないよね?」

 方太郎「い、いえっ! いやらしい意味じゃありませんっ!! お、お互いのっ、体をっ、確かめ合ったりとかですっ!!」

 Dr「えーーーっ!? 本当に大丈夫? ヤバいことしてない?」

 方太郎「こ、言葉のアヤですっ! 助久が、『俺のこんな体で良ければ、桃音の好きなように使ってくれていい』って言うから! だから、ある程度は分別をつけて、スキンシップを……!」

 Dr「おおう……。これ以上は聞かないでおくよ。微笑ましく見ていられるように、健全なお付き合いをしてね。OK?」

 方太郎「き、気をつけます……。」

 

方太郎さんがペコリと頭を下げる。

 

 Dr「よろしい。じゃあ、気を取り直して最後の質問ね。これからどうしたいかを、私に教えてほしいな。」

 方太郎「これからのこと?」

 Dr「うん! ちなみに助久くんは、『人生の修復』と『新生活への助力』の二択では、『新生活』の方を望んだよ。」

 方太郎「新生活……。」

 Dr「今は袋田愛結としてでも、桃音ちゃんと……雛井方太郎と一緒にいたいんだってさ。女の子なのに、なかなか男らしいよね。桃音ちゃんはどう思う?」

 方太郎「私も同じ気持ち……! どんな姿になっても、たとえ性別が変わってしまっても、助久は助久で、私は桃音だから……!」

 Dr「それは良かった。じゃあ、高校も彼と同じところへ?」

 方太郎「そのつもりです。男子高校生としての生活に馴染めるかどうかはすごく不安だけど、女子高生になった助久と支え合って生きていこうと思います。」

 Dr「うん。がんばってね。私も応援してる。」

 方太郎「パーガトリーさん、今日はお話を聞いてくれて、ありがとうございました。」

 Dr「いやー、こちらこそ。濃いレポートになりそうだよ。後はあなたの写真を一枚撮って、レポートに添付しておしまい。」

 方太郎「写真っ……! す、すっかり忘れてましたっ。」

 Dr「はーい、さっそく撮るよー。ほら、向こう側に立って。」

 方太郎「うぅ、少し緊張します……。」

 Dr「うーん、いい表情。ハイチーズ。」


 パシャリ。


 * * *


 第二回のレポートは以上になります。

 愛結さんと方太郎さんは、今後も素晴らしい関係を築いていきそうですね。私も様子を見守りながら、彼らの支えになりたいと思っています。ちょっと危うい場面もありましたが……そこは私、パーガトリーが大人としてしっかり管理していきますので、何ら問題ありません。


 本当に問題ありませんよ? 私の言うことにウソはないです。だから、当施設への視察等も行わなくて結構でございます。監査役の偉い人が来ると、また面倒くさ……いやいや、立て込むのでね。はい。


 次回は、さらに特殊なケースの被転身者さんへのインタビューを行いたいと思います。それではみなさんさようなら。


 

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