赤茄子

「中居くんはトマトが好きだったんだね。意外だったな。」

「そうかな?千葉くんからおいしいトマトが収穫できたって聞いたからね。食べてみたいなって思ったんだよ。そうだ、千葉くんも石野くんもどうだい?今夜はトマトスパゲッティでも作ろうかと思っているんだけど。あ、もちろんニンニクは入れないよ。」


 何を考えているんだ。中居くんは…。相手は吸血鬼で君は人間なんだぞ。自分の家に招こうなんてばれたらどうするんだ。まあ、千葉くんはあまり乗り気ではないだろ

う。


「いいのかい?お招き感謝するよ。」


 なんで??いや、君吸血鬼でしょ?大人しく家でトマトジュースでも飲んどきなよ。なんでわざわざ中居君の料理を食べに来るんだよ。そりゃあ中居君の料理はおいしいよ?でもさ、わざわざ来なくてもよくない?吸血鬼ってやつはこうも尻軽なのかな、、、っと言い過ぎた。何とかしないと。


「中居くん、せっかくのお誘いはうれしいんだけどさ。僕ってば見た目で何族かわかっちゃうくらい体が大きいからさ小さい中居くんの家には入れないと思うんだ。ほら遊ぶときは僕の家で遊ぶだろ?」


 とりあえず中居くんの家が吸血鬼にばれるという心配はなくしておこう。おそらく中居くんは割と乗り気だ。僕が嫌がったところで「じゃあ千葉くんだけでも」となりかねない。それよりかは僕の家のほうがいくらか安心だ。ついでに千葉くんへのマウントも忘れずにしておく。悪いが、中居くんと一番の仲良しは僕だ。それは譲らないし譲れない。いいかい?もう一度念押しするが一番の仲良しは僕だ。


「……それならどうだい?ボクの家に招待するよ。大丈夫、石野くん。君も入れる。ボクが今過ごしている家はもともとは種族間交流を目的に作られた迎賓館のようなものだったらしいんだ。体の大きい君でも問題なく過ごせるはずさ。」


 しまった。マウントを取りすぎたか。吸血鬼の家に中居くんを連れて行くのは非常にまずい。もしも中居くんの正体がばれたら確実に食べられる。しかも相手は吸血鬼。下手すると大人たちは人間を見たことがあるかもしれない。止めないと……。


「いいのかい?千葉くん。そんなに急に押しかけて。」

「そうだ。ご両親に迷惑じゃないかい?僕らも同年代だけでワイワイと楽しみたいし。」

「それなら問題ない。今は親元を離れて一人で暮らしているからね。何なら使用人にも下がっておいてもらえばいい。なに、どうせ料理は中居くんにしてもらうんだから。」


 ああ、もう中居くんは乗り気だ。たぶん僕が過度に交友関係を規制しすぎたせいで友人に家に誘われるという行為が嬉しくて仕方がないんだ。きっとそうに違いない。もうあきらめて千葉くんの家に向かうしかないだろう。


「調理は僕まかせなのかい?作るものは決めているからいいけれど君たちにも手伝ってもらうよ。」

「もちろん、料理というものにも興味はあるからね。それじゃあ放課後楽しみにしているよ」


千葉くんはクラスが違うからここでお別れのようだ。ちょうどいい。千葉くんが見えなくなったところで僕は中居くんに声をかける。


「どうするつもりなんだい?君は正体がばれたら一巻の終わりなんだ。友人で会っても気軽に家に行くべきじゃない。ましてや彼はほとんど昨日が初めての会話だったんだろう?もっと危機感を持つべきだよ。」

「いいじゃないか。それともなんだい?僕は君の家にもよく行くけれどそれもやめたほうがいいというのかい?」

「……そうは言わないけれど。」

「僕だって何も考えていないわけじゃないよ。ただ、せっかく学校に行ってるんだから友達が欲しいんだ。」


だからってその友達に吸血鬼を選ばなくても…。

「それにたとえ僕の正体がばれてしまったとしても君が守ってくれるんだろう?信じているよ。」


そういわれてしまうと僕も何も言えなくなってしまう。中居くんはずるいなぁ。


「わかったよ。格別においしいトマトスパゲッティ、楽しみにしているよ。」

「任せといて。」

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朝蜘蛛を殺さない 雨宮r @amemiyar

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