蝙蝠

 まずはじめにどうして中居くんがこの中学に通っているのかという疑問があるだろう。理由は簡単。まだバレてないから。この学校には巨人族の他にも様々な種族が通っている。(もちろん基本的に人間は捕食対象の種族ばかりだが。)そして、よほどのことがない限りその種族を尋ねるのは禁忌とされている。その上、生の人間を見たことがあるような上流階級は通っていない。人間はとてもレアな食材なのだ。


 もう一つ理由はある。中居くんは真面目だ。こんな状況であっても学校に通わなきゃいけないと思っている。むしろこんな状況だからこその学べることがたくさんあるとでも考えているのだろう。ただバレてしまえば命はない。そのことはわかった上で安全に配慮してもらえると僕としても助かるんだけどな。


 この世界の学校制度は極めて曖昧だ。だからこそ中居くんが転入できたわけだけど。学校に通わなきゃいけないということはないし学校に通っていない人たちもたくさんいる。かくいう僕も通うつもりはなかったんだけど彼を守るために通っている。中居くんは守らなくてもいいとかのんきなことを言ってるけど、バレたときに近くにいないと危ないのだ。人間なんてレアな食材、みんながほおっておくわけがない。



 と、話がそれた。まあつまりここでの学校制度はゆるくて、学びたいと思ったときに学べて、学びたくないと思ったら休学もしくは退学ができる。学校に通おうと思ってる奴らなんて基本いい子ちゃんのもやしっ子だけど(中居くんは除くよ)、どうしてか今年は吸血鬼がいる。あいつにバレたら多分っていうか絶対ひとたまりもない。


「おはよう。石野くん、中居くん。今日も仲良く登校かい?羨ましいね。」


 そんなことを考えていたら出会ってしまった。噂してたわけじゃないのに、どうしてなんだ。出会いたくないやつの方が出会いやすい。


「千葉くん、おはよう。昨日はトマトありがとね」

「いいんだよ。中居くん。君は珍しく料理をしてから食べる種族だっていう噂を耳にしたからね。おいしく食べてもらったほうがボクとしてもありがたい。」


 え?いつのまにそんなに仲良くなってたの?相手は吸血鬼だよ?吸血鬼は危険だって話しなかったっけ?中居くんはいつも危機感がなくて困る。


「君たちいつの間にそんなに仲良くなってたのさ。」

「石野くん、嫉妬かい?大丈夫さ。中居くんとは昨日初めて話しただけだから。料理をする何の種族かわからないが珍しい種族がいると聞いてね。ボクの作ったトマトを食べてもらおうと思ったのさ。」


 吸血鬼は基本的に輸血用パックかトマトジュースを主食としているらしい。輸血用パックを主食にする派閥は、この世界がまだ人間界と交わっていた頃の、吸血鬼としての誇りを忘れぬため、人造血液のパックを主食にしているらしい。トマトジュース派からすれば新鮮さのない人造血液よりトマトジュースのほうが、断然美味しいそうだ。僕に違いはわからないけど。


「千葉くんはトマトジュース派なのかい?」

「まあ有名だから知っているだろうね。ボクが吸血鬼だということぐらい。ただボクはその辺にいる吸血鬼とは違うのさ。ボクに好き嫌いはない。トマトジュースも飲むが人造血液のあのジャンクさも好きなんだよ。もちろんそのほかの様々な食材を食べることができるのさ。ボクはグルメだからね」

「へえ。じゃあニンニクも克服したのかい?」


 吸血鬼という種族はニンニクが苦手らしい。そういう噂を聞いたことがある。もともとはエチケットとして、人様の首元にかみつくわけだから臭い口で噛まないで上げようという配慮からだったらしいが、現代ではニンニクを食べると拒絶反応から牙が抜けるらしい。千葉くんは大丈夫なのだろうか。


「………そのおぞましい名前を口にするな。」

「なんだ。ニンニクは無理なんじゃないか。好き嫌いはない、なんて嘘はいけないだろ。」

「好き嫌いはないさ。」

「ニンニク」

「黙れ」



 何と、千葉くんの弱点を見つけた。

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