第197話 真実の告白


女子会が始まってから3時間ぐらいが経った頃だろうか……ようやく女子会は終わりそうだ。


皆がそれぞれ飲んでいたのは普通の缶ジュースだったけれど……酒に酔ったかの様な勢いと謎の興奮状態で、擬似的に口が緩くなった皆は本音や愚痴で真剣に語り合っていた。


俺も頭に引っかかっていた滞りが少し取れて、気が楽になったので途中から話に参加して互いに笑いあった。


このメンバーが集って話すのは林間学校以来なので、溜まっていた話も案外あったり、少し前にあった林間学校の思い出話をしたりと……本当に楽しかった。


最近の俺は口角が緩む事が少なかったので、思いっきり笑うのは久しぶりだった。


そんな有意義な女子会が閉じる時、時間も時間なので泊まって行くという流れに意図的にしようとした来客者の3人。だが……雫、葵、夜依が断固拒否をしたので泊まるという話は無くなった。


どうやら皆はあわよくば家に泊まる気だったらしく、それぞれしれっと泊まる準備をして来ていたようだった。春香に至っては明日、早朝に朝練があるのにも関わらず泊まって行こうと大掛かりな準備していたので流石に俺も呆れた。


春香、由香子、菜月の3人を見送った事でようやく女子会は終了したのであった。


──外は既に暗闇。時間的には深夜に近い。

まぁ高校生なので大丈夫だと思うが、気分は高揚しているので気を付けて帰って欲しい。


☆☆☆


3人の来客者が帰った後。後片付けなどを開始した俺達。


そんな中、鶴乃はもう疲れて寝てしまい脱落。葵は今日の掃除当番なので清掃作業を。夜依は溜まっていた部活のあれこれの処理と鶴乃の寝かし付け。それで雫は……一足先にお風呂かな?


「──ふぅ。」


なんやかんやで1人になった俺は黄昏のため息ではなく、疲労のため息を久しぶりに吐いた。


「…………静かだな。」


つい、そう思う。

いつものリビングでは誰かしら人がいるからね。


まぁ今日は女子会というイレギュラーな事もあった訳だし、たまにはこういう静かさも悪くは無い。


「──あぁ、そうそう雫や葵、夜依、鶴乃が居ない時を見計らってよく“あいつ”がイチャ付きに来てたっけな…………って、え?」


あれ……?つい自然と流れで口が動いたけど、俺は何を言ってるんだ?


「“あいつ”って、誰の事だ……?」


偶然出た言葉にどうやら新たなヒントがあったようだ。


あいつ=あの『彼女』なんだよ!

この思い出した記憶はもう二度と忘れない。そう願いながら脳に急いで記録する。


まだ全然『彼女』の事に関しては思い出せない。

顔も性格も、どんな存在なのかも。


俺の記憶の中で彼女には常に靄が掛かっているのだ。それに頭の中にある記憶を見ようとする程靄が深まる。何度も何度も挑戦するが見える事は無い……そんなイメージだ。


俺はこの思考を一旦保留とし、女子会で残った缶ジュースをぐっと飲み干すと、話し疲れた体をソファに預ける。


……頭がズキズキと少し痛む。今日は『彼女』の事を考え過ぎて、疲弊仕切っているのだろうな。


「……ゆーま?」

「──あ、雫。」


だからか、お風呂上がりでパジャマ姿の雫から声を掛けられるまで気が付かなかった。


「……ぼーっとしてたけど、何してたの?ボソボソ呟いたりもしてたけど?」

「いや、別に深い理由は無いよ。」


隠そうとした訳じゃない。だけど、今は『彼女』の事は違うかな……と判断したのだ。


でも……雫にとってその対応がどう感じたのかは分からない。だけど、決して良いものでは無かったはずだ。


「……っ!」


また別の話題を話そうと雫を見ると、雫はとても寂しそうな表情をしていた。


そして無言で俺に近付くと、ソファの後ろ側から優しく抱きしめてきた。


甘い洗顔料の匂いと柑橘系の髪の匂い、俺と同じ物を使っているはずなのに、雫だとこうも違うんだな。なんて、思いつつ……


雫にしては珍しい大胆な行動は……予想外だった。

そもそもそういうスキンシップ自体が久しぶりだったから余計にそう強く感じた。


「……ゆーまって、やたらと皆に隠し事が多いよね。」

「え、そうかな?」


不意をつかれ、ドギマギしてしまう。


確かに俺は隠し事がこう見えて多い。まぁ一応、転生者っていう異質な存在だからね。


「……別に話さなくてもいいけど、私もアオも夜も……皆、それぞれで心配してるんだから。」

「そう、だね。ごめんね、心配かけさせちゃって。」


謝るだけで中々真相を話さない俺に対し、雫の抱きしめる力は徐々に強まる。


「……もっと頼ってくれてもいいんだよ。だって私はあなたの婚約者なんだから。ゆーまを一生支える存在なんだから。」

「あ……そっか。そうなんだよね。」


その言葉だけで……俺の心を充分過ぎる程に潤してくれた。そして、俺の隠し事についての心の葛藤が一気に消滅したかのような開放感もあった。


結論的に言えば、根負けしたのだ。


だから……言おうと決めた。俺の本当の事を全部知ってもらおうと思った。もちろん『彼女』の事についてもだ。


でもその前に、俺自身の真実を洗いざらい話す事の方が優先順位は上だと思った。


「──雫。」


俺は雫の頭をそっと撫でると、大好きな人の名前を呼ぶ。


「……ん、どうしたの?」


雫と目を合わせるが感じるのは不安の感情だけ。

それを見て尚更、この事を告白しようと思った。


「突然で悪いんだけど、すごく重要な話をしなくちゃならないんだ。だから葵と夜依の2人を連れて来てくれないか?」

「……え、うん。」


ただならぬ俺の覚悟を感じ取っててくれたのか、雫はすぐに皆を呼びに行ってくれた。


☆☆☆


「──皆、ごめんね。突然呼び出しちゃって。」


リビングに再び集まってくれた(鶴乃を除く)雫、葵、夜依の3人。俺から重要な話があると聞いたからか、途中から来た2人は特に表情が固い。


まぁ自分の顔は見れないけど、今の俺にも謎の緊張感はあるし、いつもより多くの視線を不思議と感じてしまう程に顔が強ばっていると思う。


「前置きとかは構わない。それで、重要な話ってなんなの?」

「そ、そうです!!早く話して下さい。気になりますから!!」


夜依、葵の2人には尋常じゃない雰囲気の俺に不安感がいっぱいになったのであろう、胸ぐらを掴まれそうなぐらいの勢いで詰められた。


「うん、分かったから。言うから。」


一旦離れてもらい、俺の前方に座ってもらった。


「ふぅ……」


ゆっくりと俺のペースで呼吸を整える。


俺は今から3人に俺の全てを……“前世の鈴木 和也だった頃”の話をする。俺の隠し事の大半はこの事なので言わなければならないのだ。


……別に唐突に思い至った訳じゃ無い、とだけは言っておく。むしろ、ずっと前から言うタイミングを見計らっていたぐらいである。


言わない……という選択肢も今の所はある。だけど、俺は彼女達の人生を貰う身で、彼女達も俺の人生を預かる身なのだ。だから……神楽坂 優馬でもあり、鈴木 和也でもある今の俺を知って欲しかった。


それからでいいから、俺の事を見定めて欲しい。


俺は皆の決断に全てを委ねるつもりだ。例えそれがどんな結果になろうともだ。今の俺に至ったのは、ただの記憶チートを持っていたに過ぎないんだからな。


それを全て共感し合ってこそ、俺にとっては“結婚”だと思った。


「もう少し、早く言いたかったんだけどさ……」


そこで一区切りし、3人と順々に目を合わせる。


運命の巡り会いで俺の婚約者になってくれた3人。大好きで堪らない3人。心の底から愛している3人。



──だからこそ………………俺は信じている。



「──俺は前世で死んで……この、男がほとんどいない世界に転生した存在なんだ。」


それから俺は今までずっと隠していた真実を……俺が今の俺に至ったまでを皆に告白した。


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