第195話 久しぶりの女子会


──1人、孤独に帰って来た俺。いつもは誰かしらと一緒に帰るはずなのに、今日は1人だ。多分皆が俺に気を遣ってくれたのだろう。


トボトボ歩く俺はこんな時も頭で考え事をしていた。


本当に、本当にどうしたんだろう?最近はまともに集中すら出来ない。


そのせいで小テストでは大失敗するし、部活のマネージャー業もミスを連発するし……ましてや俺の婚約者達との軽いスキンシップさえ控えるようになった。


どうしてかは分からない。ただ本能的に今は違うと訴えてくるのだ。


「ただいまー」


俺の帰宅後最初の言葉は当たり前かのように、すぐさま虚空へと消える。


家に鍵が掛かっていたので、誰も居ないことは分かり切っている。だけど……つい無意識に言葉を発してしまった。何となく、いつも家には誰かが居ると思ってるからかな?


「1人になれる……な。」


皆が帰って来るまで暇……というのもあるけど、単純にぼーっと頭を空っぽにしたかった。


自室……いや、たまには物置部屋とかが割といいかも。ただ何となく……自分のしたいままに、気持ちを持って行く。その方がすぐにこの迷走した心が整理出来ると思った。


家の数部屋ある物置部屋から選んだのは2階の物置部屋で、まだ使用してない予備のベットや予備の家電、予備の食器、非常食など色々と置いてある部屋だ。


「あれ……?」


確かにこの部屋には久しぶりに来た。前に来た時は引越ししたての頃で、物が結構乱雑に散らかっていたはずだ。だけど今のこの部屋は清掃が充分過ぎる程に行き届いており、ホコリっぽくも無いし、むしろ居心地がいいようにさえ思えた。


「誰か勝手にこの部屋を使ってるのかな?」


でも皆それぞれ部屋を持っているし、この部屋を使う理由もメリットも無いはずだ。それに掃除は必要最低限でいいはず、ここまで徹底してやる部屋では無いはずだ。じゃあなんで?


──俺の中で再びの矛盾が生まれる。

最近、どこか頭に引っ掛かる事が多発する。 理由は全くの不明。だけど、引っ掛かるのだ。でも肝心の答えは出ない。

=モヤモヤしか残らない。


「はぁ……どうしちゃったんだろうな、俺?」


ため息を吐きながらも、部屋にあった予備のベットに腰を下ろすと……懐から1つの指輪を取り出す。


これは俺がいつの間にか持っていた謎の指輪。デザインや繊細さはいいけど……普通は肌身離さず持ち歩く物でも無い。ちょっと不可思議な感じがするし……だけどこれまた直感的、本能的にこれを常に持っていた。


そして……この指輪の中の砂時計の砂が全部無くなった時に、絶対に後悔するとさえ思えた。


だから心が迷走した。どうしようも無い気持ちになった。冷静な判断が下せずに、黄昏るという選択肢を取らざるを得なかった。


でもこの部屋に来て……何となく、心が1歩前進したような気もした。何故かはまだ分からないけど。


そんな一時だけ心にゆとりが生まれた俺は部屋で皆の帰りを待っていると……


「──ただいまーなの!」


タイミング良く、鶴乃の声が聞こえた。更に後から葵や夜依の話し声も聞こえて来る。


どうやら皆が帰って来たようだ。


「ん……?」


でも、足音と話し声を冷静に聞くと……やたら人数が多い気がする。 確実に4人では無いよな?6〜7人ぐらいの足音が下の階から聞こえた。


来客者を連れて来たのだろうか?

取り敢えず気になったし、この家の主として迎え入れなければならないので、部屋から出て皆のいる玄関先まで向かうのであった。


☆☆☆


帰ってきた皆に事情を伺うと、どうやら久しぶりの女子会をするらしく、春香と由香子と菜月の林間学校メンバーが家に集まったとの事だ。


来客者は大変珍しく、嬉しい事なのでいいのだが……何故か俺も強制参加という事なので素直にソファの端っこで膝に鶴乃を乗せていた。


女子会とは……?なんて空気の読めない発言はしない。ただ静かに皆の何気ない会話を聞く。


まぁ、女子の会話に男の俺はほとんどついて行けず、不安に思うが……まぁ、同じく話について行けてない鶴乃と遊んでるからいいや。


そんな鶴乃と遊ぶ俺を単純に堪能しながら、来客者の春香、由香子、菜月は女子会を盛り上げる。


──優馬が気付かない内にさり気なく、本題の話を夜依が挟むが……今の優馬はいつもより表情が緩く、元気だったので話はそこまで広がらず、普通の女子会へと自然に移行して行った。







「……今日は珍しく野球部が休みだったのね。」

「そうなんだよねー♪なんでかは分からないけど、監督と顧問に用事が出来ちゃってね。急遽休みになってね、本当に嬉しいよ♪」

「そうなんだ~~」


確かに春香は野球部のエースで毎日部活に明け暮れている。そんな春香に丁度よく休みが貰えるなんて……流石、春香。運も1級品なんだな。


そう思っていると……話はすぐに切り替わり、菜月が雫に話を振っていた。


「そういえばなんっすけど、雫さん学校で愚痴を言ってましたっすよね。」

「……ちょ、なんでその事を知ってるの!?」


突然の菜月の告白に雫は珍しくキョドる。


「へぇー、それってどんな愚痴なのかしら?」


夜依がすぐさまそれに食らいつく。

俺も葵もその話には大変興味があるので、しっかりと聞き耳を立てる。


「えっとっすね……確か、勉強と家事の両立が辛いって言ってたっす。」


キョドる雫を無視し、夜依の圧に負けた菜月はすぐに答えを口に出してしまった。


あー、なるほどね。愚痴を吐きたくなるのも理解出来た。


それは夜依も同じだったようで、


「 確かに一理ありますね。ですが……愚痴はダメですよしずのん。皆同等に大変なんですから。」

「……だね。軽率だった。」

「いやいや、でもしょうがないですよ!!」


完全に家の中の話で、来客者の3人は話に着いてこれていなかったが、3人共すごく興味深そうに聞いていた。


「へぇ……以外とシェアハウスってやる事がいっぱいあって大変なんだね♪」

「全部が全部、羨ましい訳じゃないんだね~~」

「そっすね。でも、羨ましさの方が勝ってると思うっすよ。」


「「──それを言ったらおしまいだよ!!!」」


菜月の発言にすぐさま春香と由香子がツッコミを入れた。


「──う~ん。じゃあ解決策で、“お手伝いさん”でも頼めばいいんじゃない~~?」

「えっ……!?」


全員でキツいのなら、誰かに頼む。考えれば誰でも思いつく一番無難な案だ。だけど何故かは分からないけど、俺の心にぐっとその言葉が響いた。


「……どうしたの、ゆーま?」


突然反応した俺に驚く皆。俺は「ごめんごめん。気にしないで。」と謝りながら頭の整理を開始した。


「それで、お手伝いさんはいい案かもしれませんが……ゆぅが居るこの家ではあまり部外者を招き入れる訳には行きません。なので却下です。」

「……同じく。」

「で、ですよね。私も流石にそう思いますよ!!」


由香子の案は夜依の決定により、一瞬にして無に帰した。


「うぐ、皆優馬君の事になると冗談も通じなくて、本当に真剣なんだから~~」

「……当たり前でしょう?」


完結に、躊躇なく答える雫。


「うーん、じゃあ代案なんっすけど私を雇って下さいっす!」

「……え?」


これまた、意外な発言をした菜月。雫も予想外の事だったらしく驚きの声を上げてしまう。


「菜月が働くの?お手伝いさんとして?」

「はいっす!」

「それは良いアイディアだね♪是非私も応募させてもらうよ♪」

「私も~~だよ、」


確かに菜月達は部外者じゃないし、俺達の事情も多少は分かってくれている。それに付き合いからの信頼感も厚い。


だけど──


「……無理でしょ。普通に考えて。」


どうやら雫も俺と同じ考えのようだ。


「ど、どうしてさ♪」

「……春香は部活と勉強と家事の両立は出来るの?」


勉強という言葉を強く強調させながら雫は春香へ質問する。


「そこは何とか気合いと根性で♪」

「……ダメね!」


春香は特に……ダメだ。どんな理由を言おうとも問答無用で俺も“NO”と言うはずだろう。


「じゃあ……!」

「私も~~」

「──菜月も、由香子も同等の理由でダメですよ。それに私達よりかは家事の腕がないと雇う対象には当てはまりません。」

「ううっ!そう言われると……悔しいっすね。」

「くぅ~もっと家事の練習をしておけば~~」


菜月と由香子はすぐに理解してくれていた。たが春香はどうしてもやりたいらしく……


「じゃあ、勉強を一時期休めば……」

「……ダメだよ!勉強は学生の本分だし、後もう少しで期末でしょ?」

「くっ……じゃあ部活を──」

「……それは一番ダメ!試合が今週にあるでしょ?」

「うぐぐっ……じゃあどうすれば雇ってくれる?」

「ダメなものはダメ。春香には野球を頑張り続けて欲しいの。」

「──うぅ、“神様”ぁ……仏様ぁどうかどうか♪」


──春香のグダリをただ聞いているだけだった。なのに……その神頼みの言葉を聞いて再び心が揺れ動いた。


…………神、様?


抽象的な言葉で俺は滅多に使わない言葉なのだが、妙にそれがしっくりとくる。


「──っ!?」


些細なキーパーツ達が脳裏に眠る“何か”を呼び起こしてくれたのだろうか……?突如として“彼女”の存在が脳裏に蘇ってゆくかのような錯覚に陥った。


だが、その代償にか何かに強く抗うかのような鈍痛が頭に響き渡る。だが、この気持ちの正体が一体なんなのかが分かりさえすれば構わなかった。だからこの鈍痛にも余裕で耐え凌げた。


まだ……彼女がどういう顔だったとか、どういう性格だったとか、どういう名前だったとかは思い出せない。だけど、1つだけ確実に分かった事がある。


──それは彼女は確実に俺の元にいてくれていて……俺にとっての大切で掛け替えのない存在なのだという真実にだ。


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