第185話 絶景を見に行こう!


温泉から上がり、自分の部屋に来た俺。荷物はさっき女将さんに預かってもらっていたのを受け取り、持って来た。


途中まで一緒だった大地先輩だけど、部屋が少し離れているらしく後で合流という形で別れた。


「ふぅ……疲れた。」


荷物を全て運び終わった俺は、後悔のため息を1つつく。1泊2日だと言うのに、大量の荷物(お菓子や食べ物)を持って来ていた俺は温泉で回復した体力を既にかなり使用していたのだ。


初めての家族旅行で舞い上がっていたのかもしれないな……次の家族旅行は気を付けるとしよう。


俺は息を切らしながら中に入ると……そこには、最高の空間が広がっていた。


中は素朴で親しみのある個室。窓から見える大自然は正しく“絶景”の2文字で、遠くにある街も綺麗に見える。更にこの個室には限定の温泉も付いているようで、正に神仕様と言えるような部屋だった。


……本来俺や大地先輩、煌輝含め皆で1つの大部屋で寝る事になっていた。だが俺達は男という事もあり、旅館の人達の配慮でこの旅館の中でも選りすぐりの個室に泊まらせてくれるという事になったのだ。


すごく嬉しいし、感謝もした。だけど、正直……皆と一緒に寝る大部屋も絶対に楽しかったと思うから、少し残念だな。


よし……後で皆に遊びに来てもらうとするか。皆にもこの最高の部屋を堪能してもらいたいしな。




──さてと、


部屋にあったお風呂に早速浸かり、一通り堪能した後。俺はこれからの予定を確認する。


「えっと……あ、そうだ。」


俺は、葵が作ってくれていた予定表(ほとんど鶴乃のための物)を見て確認をする。


「次は……っと。」


そうだそうだ。ここから近い絶景スポットに行くんだったっけ。ここからの景色も充分最高なのに……それよりも上があるというのは楽しみ過ぎるな。


そう俺は考えながら用意を始めていると……


──トントン


部屋をノックする音と共に、ある1人の声が聞こえてくる。


「──和也くーん!」

「ん、どうしたの、姫命?」


どうやら姫命が部屋に来たようだった。

ドア越しに話をしても何なので、部屋に招き入れる。


「わぁー、いい所に和也くんは泊まるんだねぇ。羨ましいよ。」


部屋に入って速攻、俺の未使用のベットにタイブする姫命。うん、相変わらず……だな。


「まぁ……皆と居れなくて寂しいけどね。」

「あー、だよね。私達の大部屋も和也くん達が居なくて空気が重かったもん。」


あはは……そうなんだ。まぁ、そりゃそうなるわな。なら一層遊びに行くか、来てもらわないとな。


「それで……姫命は俺に何か用があって来たんだろ?」

「うん、そうだよ。そろそろ出発する時間だよーって伝えに来たんだよ。」

「あーそっか。もうそんな時間なんだ。OK、分かった。じゃあ今から着替えるから、一旦部屋から出て行ってくれ。」

「あー、大丈夫大丈夫。見ないから。」


そう言って両手で目を隠す動作をする姫命。


「は?えっと……いやいや、そういうのはいいからさ。」


よく見ると……明らかに手の隙間から見えてるじゃないかッ。


「さっさと出てけよ!」

「いやーん♡」


俺は姫命を部屋から無理やりつまみ出し、さっさと浴衣から普段着に着替え、ついでに準備も済ませるのであった。


☆☆☆


「よーし、行くとするか!」


旅館のエントランスに集合した俺、雫、葵、夜依、姫命、鶴乃、大地先輩、椎名先輩、空先輩は元気に旅館から出発した。


この場に居ない煌輝と茉優はと言うと……


煌輝はキンキンに冷えたコーヒー牛乳を大量に飲み過ぎて腹痛で欠席。茉優はどうやら温泉でのぼせたらしく部屋で休むと言っていた。


煌輝は単純にバカだけど……茉優は珍しい。サッカーをやってるから体力には自信があると思うし、単純にお風呂好きだからのぼせるとかは無いと思ったんだけどなぁ。


まぁ、温泉に合う合わないはあるからな。

後で部屋を訪ねてみよう。


……という事で今回はこのメンバーで行く事になった。


☆☆☆


「──とーちゃく!」


鶴乃が元気よく俺の頭の上で笑う。


「はぁ……はぁ……ぜぇ、ぜぇ。つ、疲れた。」


途中から鶴乃がいつものポジション(俺が肩車をしてあげる)……という中々のハードな状況で山を登ったので本当に疲れた。


それに、旅館の人は案外早く着くと行っていたけど、それは山に慣れた人ならばとの事で……シティーボーイ、シティガールな俺達にはそれなりに大変だった。


「大丈夫ですか、ゆぅーくん?」

「あぁ、うん。少し休憩したら大丈夫だから。」


葵から水を受け取り、一気に飲み干す。

数分休憩し、ようやく息切れが治ったところで……


俺は振り向き、今まで意識して見ていなかった景色を眺める。


「っ……!」


そこには俺が個室で見た景色の数倍では効かない程の景色が広がっていた。す、す、素晴らしい……圧倒的大自然、カラフルな紅葉、小さくて綺麗な街並み……


いや、このすごい景色を語彙力で表現するのは出来ないくらいの絶景だった。


ついつい見とれ……若干感動してしまう俺であった。


「いいねー、大ちゃん。」

「うん。そうだね。」


近くで、大地先輩と椎名先輩が二人の世界に入っている。それを慈悲深く見守る、空先輩は無視しとく。


「ねぇ、ゆぅ。」

「どうした夜依。」

「キレイね。」

「うん。ほんとにね。すごいや。」

「……初めは景色とか全く興味がなかったけど、初めて感動を覚えている感じがする。」

「だよね、俺も雫と同じだよ。」


夜依も雫も俺と同じようにこの絶景に感動しているようだった。


ここまで登って来るにはすごく大変だったけど、頑張った甲斐は十分にある。だって、この絶景を見れたんだから。



☆☆☆


「さて、そろそろ帰ろうか……?」


最高の絶景も充分に目に焼き付けて堪能した事だし、足元が暗くなって見えなくなる前までに旅館に帰ろうと思った俺はそう提案をする。


──だけど、


「その前に、お参りして行かないー?」


椎名先輩が先に歩こうとする俺の事を呼び止める。


「お参り、ですか?」

「そーそー、ここから少し歩くと小さめの神社があるんだよ。」

「別にいいですけど……」


多少の寄り道なら構わないけど……わざわざ神社でお参りする必要は無いと思う。


「それでねー、噂によると、そこで愛する者同士でお参りし合うとその“愛”が増大するんだってー」


な、なんだと!?

そ、そんなの行くしか選択肢はないじゃないか!


「是非、是非行きましょう!」


さっきまで若干嫌な顔をしていた俺は食い気味にその話に食らいつき、寄り道で神社にお参りに行く事になった。


どうやら、俺達以外はその噂を予めチェックしていたらしく、初めから行く計画に入っていたらしい。


☆☆☆


神社に到着した俺達は愛する者同士で固まり、一緒にお参りをする。


大地先輩、椎名先輩……おまけで空先輩の固まりと、その他残りは俺とだ。

愛する者同士とは、別に家族とでもいいはずなので、もちろん皆とお参りする。


……誰も居なく、少しだけ廃れた神社。

だが、なんだか雰囲気と味があって、なんだかその噂は本物にすら感じさせる。


先にお参りをしている大地先輩達を待ちながら、俺はどのようにお願いしようか迷っている時──


「ッ……」


急に姫命が俺の手を引き連れ、皆から距離を取った。


「ど、どうした、姫命!?」


無言での行動だった為、状況が理解出来ない俺。そんな俺に対し、姫命が言った言葉は単純明快であった。


「ねぇ、和也くん。本当に……お参りなんかするの?」

「ん、それって、どういうこと?」


どう見ても……“神社でお参りをする”という行為に明らかに嫌悪感を抱いている姫命。


どうしたのかな?自分が神様だから、他の神様に祈るのは嫌なのか?


「そんな事言わないでさ、一緒にお参りしようよ、な?」


俺はそう言って、今まで引っ張られていた手を逆に引っ張り返す。

いつもだったら、こんな感じの事を言えばすぐに了承してくれる……そう俺は姫命の事を軽く見過ぎていたのかもしれない。


「──いくら和也くんのお願いでもね……聞けないものはあるんだよ。ごめんね、わがまま言ってるのは分かってるんだけどね、どうしても嫌なの。」

「え、あ、そ、そっか……わかったよ。」


予想外の反応に俺は驚く。


「と言うか……和也くんもこんな所でお参りするの?ここに最高に可愛い神様がいるって言うのに、こんな神社の弱小の神に祈るの?」

「ちょ、お前それは“言い方”があるだろ。」


神様の姫命なら大丈夫かもしれないけど、流石にそれは言い過ぎだ。俺はすぐに注意する。


「いや、だって、私は……」


何かを言いかけた姫命は言葉をやめ、口を閉じた。


「──ごめん。」

「う、うん。」


そこから姫命は旅館に着くまで言葉を一切発しなかった。


お参りはちゃんとした。だけど、姫命の事で頭がいっぱいだった為……もう何をお願いしたのかも覚えてないや……ははっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る