第182話 温泉旅行の準備をしよう!


金曜日。明日は待ちに待った皆で行く温泉旅行だ。

初めての旅行に俺はワクワクが止まらなかった。本当に楽しみ過ぎて……最近は逆に寝不足になる程である。


そんな温泉旅行の前日にする事といえば……?

もちろん準備である!




学校から帰った俺達はすぐに制服から着替え、買い物に行く準備をする。


「──じゃあ、行きましょう。ゆぅーくん!!」

「あぁ。」


葵に手を引かれ、家を出る俺。

外には既に雫、夜依、姫命、鶴乃が待っていた。


「……ゆーま、遅い。」

「そうね。」

「パパおそーい!」

「和也くん、相変わらず時間にルーズだねー」


などと……皆に愚痴を言われ謝りつつ、俺は鶴乃を肩車する。最近の鶴乃の所定の位置が何故か俺の頭の上なのだ。


葵が家に鍵をかける。


「さてと、じゃあ、行くとするか!」

「「「「おおぉー!!!!!」」」」


俺の掛け声に、皆が元気に答えながら俺達は駅前に向けて出発するのであった。


☆☆☆


駅前に来た俺達は他人の目など気にせずに買い物をした。初めに買ったのは旅行用のバッグなどで、雫や葵、夜依は既に大きめの旅行用のバッグを持っていたが、俺や鶴乃はそういう物を持っていなかったので買う必要があったのだ。


バッグを買った後は……皆のお揃いのパジャマを奮発して買ったり……多少のお菓子を買ったり……俺の女装用のレパートリーを増やすための服を買ったり……などなど、色々と買い物をした。ついでに今日の晩ご飯の買い物をしたりと皆で楽しく話し合いながら準備を進めた。


……よーし、これで大体の準備は完了だ。

そろそろ時間も時間だし、帰ろうかなぁ。


──そんな夕暮れが近付いてきた頃……まさかの人物達と偶然遭遇する。


「──おぉ、優馬?」

「──あれ、大地先輩っ!?」


それは大地先輩と椎名先輩であった。俺はすぐに話を聞くと、2人もどうやら温泉旅行の準備をしに買い物に来たらしい。


あはは……考える事は皆、同じなんだなぁ。

と、親近感を感じる。


俺は明日もどうせ会う訳だし、軽く言葉を交わして別れると思っていた。だが、


「ねぇー、雫ちゃーん。」

「……な、なんですか椎名先輩。」


椎名先輩はいつものおっとりとした雰囲気で部活の後輩である雫にちょっかいをかけ始めた。


そして──


「そうだ、丁度いいからさ。ちょっと女性陣の皆、私と買い物に付き合ってくれないー?」

「……え、どうしてですか?椎名先輩は大地先輩と一緒に来てるじゃないですか?」

「そ、そうだよ、椎名。いきなり過ぎだよ?」


俺達はもちろん大地先輩も椎名先輩の言動に驚く。

まぁ、椎名先輩らしいっちゃらしいけど。いくらなんでもいきなり過ぎる。


「ちょーっとね、女の子だけの買い物に行きたいんだよねー

いいよね、大ちゃん。それに優馬くん?」

「まぁ、僕は構わないけど……」

「あ、はい。俺も別に大丈夫ですよ。でも、」


俺は婚約者達の方を見る。婚約者達は少しだけ嫌そうな表情を俺に見せて来る。つまり、そういう事なのであろう。


「私は、ゆぅと……一緒にいたいです。」


夜依が神楽坂家を代表して抗議をする。皆も夜依と同意見のようで止める者はいない。


──だが、椎名先輩は全く問題無い表情で、神楽坂家(俺を除く)を手招きで集め、コソコソと密談をし始める。すると……


「……ゆーま、私達は椎名先輩の買い物に付き合う事にしたから。」

「え?」

「ごめんなさいです。でも、ちょっと大事な事なんです!!」

「えぇ?」

「ゆぅ、少しだけだから待ってて。」

「えぇ……?」


何故かは分からないが……皆の突然の変わりように俺は驚く。一体、あの密談で何が話されていたのだろうか?


「…………まぁ、急ぎって訳でもないし、準備もほとんど終わったから良いけどさ。」


皆の謎のやる気を見て、俺は強く止める事は出来なかった。


「じゃあ、またねー」


椎名先輩の後に皆(俺と大地先輩以外)が続き、何処かの目的地に向けて歩いて行ったのであった。


2人。残された俺と大地先輩。さてと……どうしようか。


「優馬……」

「はい?」

「近くにコンビニがあるからさ、そこで時間を潰さないか?」

「おぉ、いいですね。行きましょう。」


俺と大地先輩は女性陣を見送った後、すぐに近くのコンビニに入るのであった。


☆☆☆


コンビニに入った俺と大地先輩は互いに1つのカゴを持ちながら中を散策する。


店員さんは突然の男に驚愕し、お客さんは絶句する。


まぁ、いつもの事なので俺は気にしない。大地先輩はまだ慣れないみたいだったけど。


「さてと、何買いましょうかね……」


俺は鶴乃が好きなお菓子を適当にカゴに放り込みながら大地先輩に言う。


お菓子は既に何個か買ったけど、別にお菓子だったらいくらあっても困りはしない。だから気にせずにカゴに放り込んで行く。


「うーん。僕はもう大体の物は買ったから買う物は多分無いかなぁ。」

「そうなんですか?あ、このお菓子結構美味しいのでオススメですよ!」

「おー、それは僕も知ってるよ。甘くて美味しいんだよな。」


そんな無邪気な会話をしながら、俺のカゴは徐々にお菓子で満杯になって行く。大地先輩も俺につられて数個のお菓子を買っていた。こんなの夜依にバレたら怒られる程の量だが、怒られる前に買ってしまえば全く問題は無い。


「よし……っと。」


あらかたコンビニでの買い物が終わり、余った時間を何で潰そうか考えていると……


「…………優馬。」

「はい?どうしたんですか。」


ある区画で立ち止まった大地先輩は、俺に声を掛けてくる。だけど、その雰囲気は何処と無く言いにくそうな感じがした。


「優馬って、婚約者達と……………そういう事をした経験はあるのか?」

「そういう事……とは?」


んー?大地先輩が言った言葉は、曖昧過ぎて俺にはよく意味が捉えきれなかった。


「だから………“男女の交わり”というやつだよ。」


大地先輩の言葉を聞いた後、意味をすぐに理解した俺は顔を真っ赤にさせる。


ま、まさか……大地先輩ッ!?

いや、でも、早すぎだろ!だって、まだ2人は婚約者同士になってから1ヶ月も経ってないんだぞ?


「そ、そ、そんなの、まだですよ。

と言うか……もしかして大地先輩、椎名先輩ともう既にそういう関係に……?」


恐る恐る俺は聞く。

大地先輩は俺と同様に、顔を赤くさせながら1回だけ頭を縦に振る。という事はつまり……そういう事なのであろう。


おいおいおいおい……早すぎだろ。

恋愛については俺が先輩だったのに、もう俺より先の先輩になられてしまった。


「す、す、すごいですね!それで、その……それってどういう感じだったんですかっ!?」


未経験の俺からしたら、そういう事は未知の世界。気になるのは当たり前の事であった。


「えっと、そういうのは詳しくは言えないんだけど……“見える世界が変わる”とだけは言っておくよ。」

「ほぉ……」


大地先輩の言葉にはそれなりの重みがあった。


「と言うか……優馬。お前、婚約者と同じ家に住んでまぁまぁ長いのに……まだ未経験だったのか。僕はそっちの方が驚いたよ。」

「あ……はい。まぁ、そうですよね。俺って案外奥手なんですよね。」


だから、皆が俺に対して不満を持ってるのではないかと、時たま不安になる事もある。

でも、なかなか切り出せない。もし拒否されたら……そう思うと俺は男としての自信を失うからだ。


そんなこんなで……ヘタレな俺なのである。


「そっか。じゃあ、優馬。せっかくの温泉旅行だ。婚約者達とそういう経験をするのもありなんじゃないか?タイミングとかシチュエーションはとても大事だからな。」

「っ……はい。そうです……かね。まぁ、頑張ってみようかなとは思います。」


俺と大地先輩は大人の会話を数分繰り広げ……最後に一応のために避妊具を買うのであった。


☆☆☆


雫達女性陣は優馬達と別れた後、いくつかのランジェリーショップに立ち寄り、勝負下着を何着か購入した。先程、椎名先輩から勝負下着を買わないかと密談で誘われたのだ。


皆、個人個人での勝負下着を新調したいと思っていた頃なので快く快諾した。


「ねぇ……雫ちゃん達ぃー」


今は休憩中。雫は無難にスマホを見ていて、葵は疲れたのかベンチに座り飲み物を飲んでいる。夜依は今日購入した物を早速家計簿に付け始めている。姫命は丁度鶴乃を連れて場を離れていた。


あえて鶴乃が離れている頃を見計らってなのか……椎名先輩が少しだけ真剣な表情で3人に声を掛けてきた。


「……はい?」

「──雫ちゃん達って、もう優馬くんとの♡♡♡は経験したの?」


100%放送規制されるワードをいきなりぶっ込んできた椎名先輩。


「──ぶっ!!」


葵が飲んでいた飲み物を勢いよく吹き出し。夜依は激しく動揺し神楽坂家の家計簿をぐちゃぐちゃに。雫もついスマホを落としそうになるが何とか堪えた。


「な、なんて事……聞くんですか!!」


葵が顔を真っ赤にし、むせながら訴える。


「いやーね、あの優馬くんなら既に既成事実は作ってるのかなぁって思ってさ。

で、どうなの?夜は?いっぱい“お楽しみ”してるのかな?」


ヘラヘラと椎名先輩はニヤつきながら聞いてくる。


「……そ、そう言う先輩はどうなんですか?」


雫も葵も夜依も……優馬とそういう事をした経験は無い。純粋に高校生活を楽しむ優馬にはまだ早いと……3人で話し合って決めていた事だからだ。


でも、そんなのはただの口約束。優馬自身から求められれば断わりはしなかったし、タイミングがあれば抜け駆けもしたかもしれない。


でも、誰も自分の口から“未経験”だとは言いたくは無かったのだ。


なので、話を少しだけズラした雫の判断は間違っていなかったと言える。


「え、まぁ、私わね……………もちろんあるよ。」


椎名先輩はその光景を思い出したのか、またニヤニヤと笑いながら言う。おっとりとした人だと思っていたけれど、やる時はビシッとやる人らしい。


その椎名先輩の何とも幸せそうな表情を見て、3人は羨ましいとすら感じた。行動には起こさないが……心の奥底で優馬を求めるような気さえもした。


「……私達はッ──」

「大丈夫大丈夫。無理に強がんないでいいよぉー

何となく察したから。だけどね、そういう経験も早いうちにしておいた方がいいんじゃない?っていう“経験者”からのお誘いだよー」

「……そう……なんですか?」

「ほぉほぉ、なるほどですね……」

「それも……ありかもしれないです。」


雫、葵、夜依にとってはそういうものは知識はあっても経験は無く、全くの無知の世界。だからもう少し踏み込んで話をしたい。

全員が無意識に椎名先輩に近付き、何とか情報を聞き出そうとした。


だが……


「──おまたせなの!」


鶴乃と姫命がタイミング悪く帰って来てしまった。

流石に大人の会話を子供の鶴乃のいる前では話せず、椎名先輩からこれ以上の情報を聞き出す事は出来なかった。


結局、最後まで話を聞き出す事は出来ず、女性陣での買い物は終了した。


そして優馬と合流し、家へと帰るのであった。


☆☆☆


いつもと変わらない皆。だが……優馬、雫、葵、夜依……その4人の目には熱い闘志が宿っていた。


──優馬は、皆と……

──雫は、ゆーまと……

──葵は、ゆぅーくんと……

──夜依、ゆぅと……


皆、相思相愛の関係。想う事は同じだった。

後はタイミングだけの問題であった。


「…………」


そんな4人を……渋い目で見つめる姫命。姫命が見ていないうちに彼らに一体何があったのだろうか?

彼らからは強い決意、熱意、覚悟を感じる。


「でも、私だって負けてられない。何がなんでも……和也くんと……」


姫命にだって、誰にも負けられない決意、熱意、覚悟がある。そう……絶対に負けられないものが。


「ん……どうしたの神ちゃん?」

「何でもないよ、鶴乃ちゃん。」


だが、その気持ちの裏側を彼に悟られてはならない。だから平常心。いつも通りの姫命で彼女は笑う。


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